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17話
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「…?」
いつまでも経っても訪れない衝撃に、ルークスは恐る恐る目を開けた。
しかし、そこに魔物の腕はなく。
慌てて立ち上がったルークスが目をしたのは、真っ白な美しい獣が毛むくじゃらの魔物を押し倒している姿だった。
『まさか…!』
その声にルークスはハッと振り向く。
少し離れた場所でネブラが2匹の獣を見つめていた。
ルークスは急いでそれに駆け寄る。
「大丈夫だったか、ネブラ」
『俺は平気だ。お前こそ無茶をする』
「それよりあれ…」
『ああ…お前が潰されようというとき風のように突然現れた』
「あの大きさ…普通の動物じゃなくて魔物だよな?」
『あ、ああ。だが…』
煮え切らない態度にルークスはネブラの顔を見る。
表情は見えないがどうやら困惑しきっている様子だった。
知り合いだろうか。
「があっ!」
『グルルルル…』
見やると、白い獣がその鋭い爪で毛むくじゃらを切り裂くところだった。
魔物の血が舞い、痛みにのたうち回っている。
あまりに圧倒的な力。
白い魔物は歯をむき出しにして唸るその姿さえ、どこか神聖に見えた。
『失せろ!!』
白い魔物が人間の言葉で低く吠える。
ざあっ…と木々が枝を揺らした。
毛むくじゃらがふらふらと空の彼方へ飛んで行く。
ルークスはそれをぽかんと見送った。
「行っちゃった…」
『良かったじゃないか。別に倒すことが目的じゃないんだろ?』
「まあね」
ネブラとそんな会話をしていると、白い魔物の目がぎょろりとこちらを向いてルークスは肩をはねさせた。
月の光の下、堂々とした姿で立っていた獣はゆっくりとルークスたちの方へやってくる。
果たしてこの魔物は味方なのか。
万が一またさっきのようなピンチに追い込まれるようなことになったら…そんな緊張に体を固くする。
いよいよルークスの目の前まで来た白い魔物。その深い緑色に輝く目と視線をからめてただじっと立っていた。
「……??」
白い魔物は黙ってルークスに頭を垂れた。
きょとんとするルークスの胸にその大きな鼻面をぐいぐいと押し付ける。
まるで「褒めてほしい」とでも言いたげなそのしぐさに、ルークスは思わずその毛皮を優しくなでた。
「うわっ!?」
すると、次の瞬間魔物は青く淡い光に包まれる。
「ネブラ!?僕なんかやばいことした!?ひ、光って…!」
『いや、それは…』
「ネブラァ!?」
混乱のあまりネブラの方に顔を向け助けを求めたルークス。
その手を温かい何かが包み込む。ルークスは「ぎゃあっ?!」と情けない悲鳴を上げた。
「早々にほかの男の名前を呼ぶなんてあんまりでは?」
「…!?!?ッル……!?」
「はい、ルークス様」
「ルアアアアアアアアアアアアアア!!?」
夜の森にルークスの悲鳴が響き渡った。
いつまでも経っても訪れない衝撃に、ルークスは恐る恐る目を開けた。
しかし、そこに魔物の腕はなく。
慌てて立ち上がったルークスが目をしたのは、真っ白な美しい獣が毛むくじゃらの魔物を押し倒している姿だった。
『まさか…!』
その声にルークスはハッと振り向く。
少し離れた場所でネブラが2匹の獣を見つめていた。
ルークスは急いでそれに駆け寄る。
「大丈夫だったか、ネブラ」
『俺は平気だ。お前こそ無茶をする』
「それよりあれ…」
『ああ…お前が潰されようというとき風のように突然現れた』
「あの大きさ…普通の動物じゃなくて魔物だよな?」
『あ、ああ。だが…』
煮え切らない態度にルークスはネブラの顔を見る。
表情は見えないがどうやら困惑しきっている様子だった。
知り合いだろうか。
「があっ!」
『グルルルル…』
見やると、白い獣がその鋭い爪で毛むくじゃらを切り裂くところだった。
魔物の血が舞い、痛みにのたうち回っている。
あまりに圧倒的な力。
白い魔物は歯をむき出しにして唸るその姿さえ、どこか神聖に見えた。
『失せろ!!』
白い魔物が人間の言葉で低く吠える。
ざあっ…と木々が枝を揺らした。
毛むくじゃらがふらふらと空の彼方へ飛んで行く。
ルークスはそれをぽかんと見送った。
「行っちゃった…」
『良かったじゃないか。別に倒すことが目的じゃないんだろ?』
「まあね」
ネブラとそんな会話をしていると、白い魔物の目がぎょろりとこちらを向いてルークスは肩をはねさせた。
月の光の下、堂々とした姿で立っていた獣はゆっくりとルークスたちの方へやってくる。
果たしてこの魔物は味方なのか。
万が一またさっきのようなピンチに追い込まれるようなことになったら…そんな緊張に体を固くする。
いよいよルークスの目の前まで来た白い魔物。その深い緑色に輝く目と視線をからめてただじっと立っていた。
「……??」
白い魔物は黙ってルークスに頭を垂れた。
きょとんとするルークスの胸にその大きな鼻面をぐいぐいと押し付ける。
まるで「褒めてほしい」とでも言いたげなそのしぐさに、ルークスは思わずその毛皮を優しくなでた。
「うわっ!?」
すると、次の瞬間魔物は青く淡い光に包まれる。
「ネブラ!?僕なんかやばいことした!?ひ、光って…!」
『いや、それは…』
「ネブラァ!?」
混乱のあまりネブラの方に顔を向け助けを求めたルークス。
その手を温かい何かが包み込む。ルークスは「ぎゃあっ?!」と情けない悲鳴を上げた。
「早々にほかの男の名前を呼ぶなんてあんまりでは?」
「…!?!?ッル……!?」
「はい、ルークス様」
「ルアアアアアアアアアアアアアア!!?」
夜の森にルークスの悲鳴が響き渡った。
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