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13話
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「......あらやだ。私ったら話し込んじゃって」
「いえいえ、色々聞かせていただいてありがとうございます」
最後に会った母親の話から解放された頃にはもう日も陰り始め肌寒くなっていた。
白い帽子を被って母親に手を引かれ、ご機嫌に歩いていく少女に手を振って、ルークスは踵を返した。
カバンから帽子を取り出してまた目深に被る。
「なかなかいい収穫があったな」
2~3時間で複数人に聞き込みをして、噂を知っていたのは半分ほど。彼らは口を揃えて同じ内容を語った。子供の失踪、森との関係...
恐らく実際に森で子供が複数行方不明になっている。ルークスはそう結論づけた。
魔物の仕業である確証は無いが、兄の失踪阻止のため、森まで出向き確かめる価値はありそうだ。
ルークスは上機嫌に家路を急いだ。
「...随分とご機嫌ですね」
お風呂上がり、主の髪を丁寧にタオルで拭きながらルアはそうこぼした。
ルークスは「そうか?」といって首を傾げたあとふっと笑う。
「...そうだな。街が思いの外楽しかったからかもしれない」
「そんなに楽しかったのですか」
「うん。今日は興奮して寝れないかもな。
近いうちに、ルアも一緒に......ルア?」
髪を拭う手が止まったことで、ルークスは怪訝そうにルアの名を呼んだ。
しかし返ってくるのは沈黙ばかりで、ルークスは視界を覆うタオルを剥ぎ取った。
見えたのは、何故かひどく不安そうな顔のルア。
まるで母親に置いていかれた幼子のようだ。
「ルア?どうした」
「......いえ。なんでもありません」
「...ルア、こっちにおいで」
ルークスはその腕を引っ張り、やや強引に自分の隣に座らせる。
そして、いつもとは逆、自分の胸にルアの頭を押し当てるようにして彼を抱きしめた。
「どうしたの?そんな不安げな顔でさ」
「俺は...不安そうにしていましたか」
「うん。とっても。話してよ、ルアの気持ちが聞きたいんだ」
ルアが身じろいだのでルークスは腕を緩める。するとルアは顔を上げてじっと暗い瞳でルークスの目を見つめた。
「最近...ルークスは俺の手を離れようとしている。身の回りのお世話を拒むようになって、1人で街にも出られて......そしてそれが楽しかったと。俺がいなくてもそんなに楽しそうで...」
「ルア」
「そのことにモヤモヤとしたものが溜まっていくんです。ルークスが楽しかったのなら喜ばなければいけないはずなのに、ルークスの成長を喜ばないといけないはずなのに。......どこか仄暗い感情が湧いてくるんです」
「仄暗い感情...」
「貴方が私の顔を不安そうだったというのなら...これは不安という気持ちなのかもしれませんね。ルークスに置いていかれる、捨てられてしまうのではないかと」
「貴方が俺なしで生きていく、そんな未来が怖い」
ルークスはその闇を閉じ込めたような瞳に呑み込まれてしまうかと思った。
吸い取られて彼の一部になるんでは無いかと思ってしまった。
ルークスはふるふると首を振ってそんな思考を吹き飛ばすと、ギュッと強くルアを抱きしめた。
「僕はルアを捨てたりしない。絶対に。
......どうやったら安心してくれる?ルアには心から笑っててほしいよ」
「...では、1つお願いを聞いて貰えませんか」
「なに?」
「ずっと俺の傍にいると、声に出して聞かせていただけませんか」
「そんなことでいいの?」
ルアは無言でこっくり頷く。
ルークスは微笑んでルアの頬に手を置いた
「僕はルアが望んでくれる限り、ずっとずっとルアの傍にいるよ」
すぅー......すぅー......
ルアはベッド脇に膝をつき、眠り込んだ主の寝顔を微笑みながら見つめていた。
「あぁ、ルークス」
ひそめた低い声でルアは囁く。
そっとルークスの顔を挟むようにベッドに両手をつくと、優しくその額に唇を落とした。
「...これで誓約は成立した」
「いえいえ、色々聞かせていただいてありがとうございます」
最後に会った母親の話から解放された頃にはもう日も陰り始め肌寒くなっていた。
白い帽子を被って母親に手を引かれ、ご機嫌に歩いていく少女に手を振って、ルークスは踵を返した。
カバンから帽子を取り出してまた目深に被る。
「なかなかいい収穫があったな」
2~3時間で複数人に聞き込みをして、噂を知っていたのは半分ほど。彼らは口を揃えて同じ内容を語った。子供の失踪、森との関係...
恐らく実際に森で子供が複数行方不明になっている。ルークスはそう結論づけた。
魔物の仕業である確証は無いが、兄の失踪阻止のため、森まで出向き確かめる価値はありそうだ。
ルークスは上機嫌に家路を急いだ。
「...随分とご機嫌ですね」
お風呂上がり、主の髪を丁寧にタオルで拭きながらルアはそうこぼした。
ルークスは「そうか?」といって首を傾げたあとふっと笑う。
「...そうだな。街が思いの外楽しかったからかもしれない」
「そんなに楽しかったのですか」
「うん。今日は興奮して寝れないかもな。
近いうちに、ルアも一緒に......ルア?」
髪を拭う手が止まったことで、ルークスは怪訝そうにルアの名を呼んだ。
しかし返ってくるのは沈黙ばかりで、ルークスは視界を覆うタオルを剥ぎ取った。
見えたのは、何故かひどく不安そうな顔のルア。
まるで母親に置いていかれた幼子のようだ。
「ルア?どうした」
「......いえ。なんでもありません」
「...ルア、こっちにおいで」
ルークスはその腕を引っ張り、やや強引に自分の隣に座らせる。
そして、いつもとは逆、自分の胸にルアの頭を押し当てるようにして彼を抱きしめた。
「どうしたの?そんな不安げな顔でさ」
「俺は...不安そうにしていましたか」
「うん。とっても。話してよ、ルアの気持ちが聞きたいんだ」
ルアが身じろいだのでルークスは腕を緩める。するとルアは顔を上げてじっと暗い瞳でルークスの目を見つめた。
「最近...ルークスは俺の手を離れようとしている。身の回りのお世話を拒むようになって、1人で街にも出られて......そしてそれが楽しかったと。俺がいなくてもそんなに楽しそうで...」
「ルア」
「そのことにモヤモヤとしたものが溜まっていくんです。ルークスが楽しかったのなら喜ばなければいけないはずなのに、ルークスの成長を喜ばないといけないはずなのに。......どこか仄暗い感情が湧いてくるんです」
「仄暗い感情...」
「貴方が私の顔を不安そうだったというのなら...これは不安という気持ちなのかもしれませんね。ルークスに置いていかれる、捨てられてしまうのではないかと」
「貴方が俺なしで生きていく、そんな未来が怖い」
ルークスはその闇を閉じ込めたような瞳に呑み込まれてしまうかと思った。
吸い取られて彼の一部になるんでは無いかと思ってしまった。
ルークスはふるふると首を振ってそんな思考を吹き飛ばすと、ギュッと強くルアを抱きしめた。
「僕はルアを捨てたりしない。絶対に。
......どうやったら安心してくれる?ルアには心から笑っててほしいよ」
「...では、1つお願いを聞いて貰えませんか」
「なに?」
「ずっと俺の傍にいると、声に出して聞かせていただけませんか」
「そんなことでいいの?」
ルアは無言でこっくり頷く。
ルークスは微笑んでルアの頬に手を置いた
「僕はルアが望んでくれる限り、ずっとずっとルアの傍にいるよ」
すぅー......すぅー......
ルアはベッド脇に膝をつき、眠り込んだ主の寝顔を微笑みながら見つめていた。
「あぁ、ルークス」
ひそめた低い声でルアは囁く。
そっとルークスの顔を挟むようにベッドに両手をつくと、優しくその額に唇を落とした。
「...これで誓約は成立した」
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