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9話

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庭をゆっくりと歩いていると、ふわふわと宙を浮く布の端がルークスの視界に入った。

「レディ・リリィ!」

ルークスが声を上げると、ゆったりとした豪奢なドレスを身にまとった貴婦人は空中でピタリと止まった。
身なりは完璧な貴婦人のそれだが、その顔はまっさらでなんのパーツも付いていない。

『どうしたの、ルークス』

鈴の鳴るような声でレディ・リリィが応えて、ふわふわとルークスの近くまで寄ってきた。
ルークスはそれを見上げてにっこりと笑う。

「聞きたいことがあって」
『なにかしら?』
「最近魔物関連の変な噂なんて聞きませんでしたか?」
『変な噂?』

そう、ルークスは兄ルベリオの失踪は魔物の仕業では無いかとあたりをつけて、怪しい魔物が最近現れてはいないかと情報収集に努めることにしたのだ。餅は餅屋。魔物のことは魔物に、だ。
しかしレディ・リリィは頬に手を当てて首を傾げるばかり。

『うぅん、最近は平和だもの』
「そうですか...。なにか企んでるとか人攫いとか...なんでもいいんですが」
『あぁ。人攫いで思い出したわ』

残念そうに肩を落としたルークスは、続くレディ・リリィの言葉にパッと顔を上げた。

『森に住むある魔物が子供を喰らっているんじゃないかと、少し前噂になっていたの』
「森の?」
『ええ。森に迷い込んだ子供を攫ってるんじゃないかって』
「なるほど...」

ルークスは顎に手を当てトントンと指で叩きながら考え込む。
この付近で森と言えば、この屋敷がある通りを抜けて、市民街と反対の方向に真っ直ぐ向かったところにある深い森のことを指す。
人は深く入り込まず魔物が多い森でもある。
確かめに行く価値はあるだろう。

「ありがとう、レディ・リリィ」
『いいえ。それよりルークス、遊びましょう』
「もちろん。何をしようか」

魔物たちにとって、視える人間というのは物珍しく、加えてその人間と遊ぶというのはなかなか楽しい道楽であるらしい。
情報や物をくれるのと引き換えに、こうして共に遊ぶことを強請られるのは良くあることだった。
遊ぶといっても、ただ話すだけだったり一緒に踊ったりと様々だ。
今日は一体なにをするのだろうと、ルークスは胸を躍らせ笑顔をこぼした。
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