8 / 9
8話
しおりを挟む
「お前いつになったら滉太と別れる?」
「ハ???喧嘩売ってる??」
人気のない海浜公園で、俺たちはまだベンチに座って喋っていた。
海来が残ってくれていたのは、俺のまだ戻りたくないという心情を汲んでなのか、ただ缶コーヒーの残りを飲んでしまいたかっただけなのかは知らないが。
とにかく海来がすぐそこの自販機で買ってくれたコーンスープを飲みながら冒頭の問いかけをすれば、直ぐに喧嘩腰で返答があった。
「別れませんけど??俺さっき愛について熱く語ったばっかじゃん?」
彼が俺を睨みつけるようにこちらを向いているのは分かっていたが、俺はあえて海来の方を向かなかった。
いつまでも落ちてこないコーンを諦めて、缶を握りしめるとポツリと言う。
「だっていつまで経っても番わないし」
「おま、」
「別れたら俺にもチャンスあるし」
「あ?…………は?」
俺は自分でもぶすくれた顔をしていると自覚しながら海来に向き直った。
海来は珍しくキョトンとしたあどけない顔をしている。
俺はそれを可愛いなと思う。
男に可愛いと思ったら終わりだと言うが、それならもう俺は救えない所まで来てしまっているのだろうか。
じっと目を合わせる俺に、数回瞬きをした海来はガジガジと自分の頭をかいた。
「あ~……まじか……」
「ン。俺に惚れられて嬉しいだろ?」
「いや普通にこっちの性格悪い方で惚れられるなんて思ってなかったワ……」
「性格悪いか?口は悪ぃけど」
「少なくとも滉太の前で見せられねぇって自覚してんだから良くはないだろ」
「ずっと思ってたんだけどさ、兄貴に対してなんで海来ってそんな猫かぶってるわけ?」
子供だから、とか気の迷いだ、とかで拒絶されなかった安心感から俺はずっと気になっていたことへと話を持っていく。
海来の滉太に対する猫かぶりは半端じゃない。
たまに目の前で見ると鳥肌が立つほどだ。
本当に好きなら素の自分を愛して欲しいと思ったりしないんだろうか。
少なくとも俺はそうだ。
全ての俺を受け入れて欲しいし、相手の全てを受け入れたい。
「いや別に大した理由はないけど……
なんか可愛こぶっちゃうんだよな、やっぱあいつの前だと」
「可愛こぶりだったのかよ」
「恋する乙女になっちゃうってワケ。ま、普通にあの状態で出会ったから素を出すタイミング失ったってのもあるけど」
これにはなるほどなと俺は深く頷いた。
あの状態で出会って仲良くなったのなら、それを崩すような真似は中々勇気がいるだろう。
兄貴はあの笑顔と性格で多くの人を惹き付ける。
そして惹き付けられた人は皆恐れる。滉太の笑顔を曇らせること、失望されること、拒絶されることを。
同じ人間に想いの方向性は違えど惚れ込んだ人間としてはよく分かる。
「あ~……それでさっきの話だけど」
「そういうちゃんとしてくれるとこ好きだ」
「ンッ…アリガト……じゃなくて、俺滉太一筋だからさ」
「知ってる。でも諦めない」
「そか。じゃあ俺も揺らがない」
そう言って海来はニコリと笑った。
淡い髪色が夕日に照らされてキラキラと輝き、まるで水面のようだった。
海来はいつか髪には1等気を使っているのだと言っていた。
磨けば磨くほど美しくなるから手入れが好きなのだと。
俺はそのひと房を取り、そっと口づける。
「そんなん誰に習ったワケ?お兄さんに言ってみ?」
「さあね」
「おーおー将来が怖いねぇ」
ニヤニヤと笑ってちっとも照れる様子を見せない海来に俺は内心歯噛みする。
今はまだ。
でも、いつかきっと。
「ハ???喧嘩売ってる??」
人気のない海浜公園で、俺たちはまだベンチに座って喋っていた。
海来が残ってくれていたのは、俺のまだ戻りたくないという心情を汲んでなのか、ただ缶コーヒーの残りを飲んでしまいたかっただけなのかは知らないが。
とにかく海来がすぐそこの自販機で買ってくれたコーンスープを飲みながら冒頭の問いかけをすれば、直ぐに喧嘩腰で返答があった。
「別れませんけど??俺さっき愛について熱く語ったばっかじゃん?」
彼が俺を睨みつけるようにこちらを向いているのは分かっていたが、俺はあえて海来の方を向かなかった。
いつまでも落ちてこないコーンを諦めて、缶を握りしめるとポツリと言う。
「だっていつまで経っても番わないし」
「おま、」
「別れたら俺にもチャンスあるし」
「あ?…………は?」
俺は自分でもぶすくれた顔をしていると自覚しながら海来に向き直った。
海来は珍しくキョトンとしたあどけない顔をしている。
俺はそれを可愛いなと思う。
男に可愛いと思ったら終わりだと言うが、それならもう俺は救えない所まで来てしまっているのだろうか。
じっと目を合わせる俺に、数回瞬きをした海来はガジガジと自分の頭をかいた。
「あ~……まじか……」
「ン。俺に惚れられて嬉しいだろ?」
「いや普通にこっちの性格悪い方で惚れられるなんて思ってなかったワ……」
「性格悪いか?口は悪ぃけど」
「少なくとも滉太の前で見せられねぇって自覚してんだから良くはないだろ」
「ずっと思ってたんだけどさ、兄貴に対してなんで海来ってそんな猫かぶってるわけ?」
子供だから、とか気の迷いだ、とかで拒絶されなかった安心感から俺はずっと気になっていたことへと話を持っていく。
海来の滉太に対する猫かぶりは半端じゃない。
たまに目の前で見ると鳥肌が立つほどだ。
本当に好きなら素の自分を愛して欲しいと思ったりしないんだろうか。
少なくとも俺はそうだ。
全ての俺を受け入れて欲しいし、相手の全てを受け入れたい。
「いや別に大した理由はないけど……
なんか可愛こぶっちゃうんだよな、やっぱあいつの前だと」
「可愛こぶりだったのかよ」
「恋する乙女になっちゃうってワケ。ま、普通にあの状態で出会ったから素を出すタイミング失ったってのもあるけど」
これにはなるほどなと俺は深く頷いた。
あの状態で出会って仲良くなったのなら、それを崩すような真似は中々勇気がいるだろう。
兄貴はあの笑顔と性格で多くの人を惹き付ける。
そして惹き付けられた人は皆恐れる。滉太の笑顔を曇らせること、失望されること、拒絶されることを。
同じ人間に想いの方向性は違えど惚れ込んだ人間としてはよく分かる。
「あ~……それでさっきの話だけど」
「そういうちゃんとしてくれるとこ好きだ」
「ンッ…アリガト……じゃなくて、俺滉太一筋だからさ」
「知ってる。でも諦めない」
「そか。じゃあ俺も揺らがない」
そう言って海来はニコリと笑った。
淡い髪色が夕日に照らされてキラキラと輝き、まるで水面のようだった。
海来はいつか髪には1等気を使っているのだと言っていた。
磨けば磨くほど美しくなるから手入れが好きなのだと。
俺はそのひと房を取り、そっと口づける。
「そんなん誰に習ったワケ?お兄さんに言ってみ?」
「さあね」
「おーおー将来が怖いねぇ」
ニヤニヤと笑ってちっとも照れる様子を見せない海来に俺は内心歯噛みする。
今はまだ。
でも、いつかきっと。
3
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
めちゃめちゃ気まずすぎる展開から始まるオメガバースの話
雷尾
BL
Ωと運命の番とやらを、心の底から憎むΩとその周辺の話。
不条理ギャグとホラーが少しだけ掛け合わさったような内容です。
箸休めにざざっと書いた話なので、いつも以上に強引な展開かもしれません。
ある日、木から落ちたらしい。どういう状況だったのだろうか。
水鳴諒
BL
目を覚ますとズキリと頭部が痛んだ俺は、自分が記憶喪失だと気づいた。そして風紀委員長に面倒を見てもらうことになった。(風紀委員長攻めです)
アルファとアルファの結婚準備
金剛@キット
BL
名家、鳥羽家の分家出身のアルファ十和(トワ)は、憧れのアルファ鳥羽家当主の冬騎(トウキ)に命令され… 十和は豊富な経験をいかし、結婚まじかの冬騎の息子、榛那(ハルナ)に男性オメガの抱き方を指導する。 😏ユルユル設定のオメガバースです。
噛痕に思う
阿沙🌷
BL
αのイオに執着されているβのキバは最近、思うことがある。じゃれ合っているとイオが噛み付いてくるのだ。痛む傷跡にどことなく関係もギクシャクしてくる。そんななか、彼の悪癖の理由を知って――。
✿オメガバースもの掌編二本作。
(『ride』は2021年3月28日に追加します)
なぜか大好きな親友に告白されました
結城なぎ
BL
ずっと好きだった親友、祐也に告白された智佳。祐也はなにか勘違いしてるみたいで…。お互いにお互いを好きだった2人が結ばれるお話。
ムーンライトノベルズのほうで投稿した話を短編にまとめたものになります。初投稿です。ムーンライトノベルズのほうでは攻めsideを投稿中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる