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第1章 幼なじみの転生は気付けない(1) SIDE ケン
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■■■ 第1章 幼なじみの転生は気付けない ■■■
SIDE ケン
二流大学を卒業し、派遣社員として働き始めて半年。
オレはあまり気の進まなかった高校の同窓会に顔を出した。
大学になっても唯一繋がっていたゲーム仲間が行くというから……というのは口実で、幼なじみのマリに会ってみたかったのだ。
ワンチャン何かいいことが……なんて妄想もしたが、当然そんなことは起きるはずもなく、会はお開きとなった。
だが、学年一かわいいとも言われた幼なじみに、大学4年間一度も彼氏ができなかったと知れただけでも、来た甲斐があった――。
そんなことを思うようだから、オレも彼女ができなかったのだ。
いや……正直に言おう。
幼稚園の頃から好きだったマリが、ずっと忘れられなかったんだ。
大学時代に女子とのチャンスが全くなかったわけではないのに、この想いがどうしても邪魔をした。
だと言うのにオレは、今日もマリに話しかけられなかった。
二次会になど行く気にもなれず、そっと人の輪から離れたその時――
「ケンは二次会行かないの?」
オレの行く手を、マリがひょいと遮った。
肩口で切りそろえた黒髪が、傾けた肩をさらりと流れる。
高校の頃、マリはみんなが髪を染めているからこそ、自分は染めないのだと、明るく笑って言った。
どういうポリシーなのかはわからないが、それは今も続いているらしい。
「やめとくよ」
我ながらそっけない態度だ。
小学生かオレは。
一番気安く話せたはずの幼なじみは、いつの間にか一番緊張する相手になっていた。
「ええ~?」
こいつのことを可愛い……いや、好きだと認識したのはいつ頃だったか。
高校? 中学?
もっと前だったかもしれないし、そうではないかもしれない。
ただ一つわかるのは、無駄に時を重ねてしまったということだけだ。
「じゃあさ、久しぶり二人でお話ししない?」
マリの口から出たのは思いがけない言葉だった。
飲み屋の看板に照らされた彼女の顔が赤く見えるのは気のせいだろうか。
もしかすると、酔っているのかもしれない。
この期に及んでオレは迷ってしまった。
すぐにでも頷きたい。
仕事中のオレなら「よろしくお願いします」と頭を下げただろう。
拒否権などないからだ。
だが、マリを前にして心が子供の頃に半分戻ったオレは、気恥ずかしさが先に来た。
そして、それを後悔するのはすぐ後だ。
繁華街の混雑した歩道に、高級車が突っ込んできたのだ。
オレは無意識のうちにマリを突き飛ばしていた。
自分にこんな動きができるなんて意外だった。
褒めてやりたい。
車にはね飛ばされたオレは、全身を強く打ち付け、歩道を転がった。
不思議と痛みは感じない。
ただ、自分の体はもうだめなんだと、なんとなく理解した。
――どうせ死ぬなら、マリに告白しときゃ良かった。
「ケン! ケーン!」
マリが駆け寄って来る。
膝をついてオレの顔を見下ろすマリの目から涙がこぼれた。
オレにも泣いてくれる人がいたんだな。
どうせなら、最後の記憶はマリの笑顔が良かったと考えるのは贅沢だろうか。
頬に落ちるマリの涙の温度すら感じない。
オレの意識はそのまま闇へと落ちていった。
SIDE ケン
二流大学を卒業し、派遣社員として働き始めて半年。
オレはあまり気の進まなかった高校の同窓会に顔を出した。
大学になっても唯一繋がっていたゲーム仲間が行くというから……というのは口実で、幼なじみのマリに会ってみたかったのだ。
ワンチャン何かいいことが……なんて妄想もしたが、当然そんなことは起きるはずもなく、会はお開きとなった。
だが、学年一かわいいとも言われた幼なじみに、大学4年間一度も彼氏ができなかったと知れただけでも、来た甲斐があった――。
そんなことを思うようだから、オレも彼女ができなかったのだ。
いや……正直に言おう。
幼稚園の頃から好きだったマリが、ずっと忘れられなかったんだ。
大学時代に女子とのチャンスが全くなかったわけではないのに、この想いがどうしても邪魔をした。
だと言うのにオレは、今日もマリに話しかけられなかった。
二次会になど行く気にもなれず、そっと人の輪から離れたその時――
「ケンは二次会行かないの?」
オレの行く手を、マリがひょいと遮った。
肩口で切りそろえた黒髪が、傾けた肩をさらりと流れる。
高校の頃、マリはみんなが髪を染めているからこそ、自分は染めないのだと、明るく笑って言った。
どういうポリシーなのかはわからないが、それは今も続いているらしい。
「やめとくよ」
我ながらそっけない態度だ。
小学生かオレは。
一番気安く話せたはずの幼なじみは、いつの間にか一番緊張する相手になっていた。
「ええ~?」
こいつのことを可愛い……いや、好きだと認識したのはいつ頃だったか。
高校? 中学?
もっと前だったかもしれないし、そうではないかもしれない。
ただ一つわかるのは、無駄に時を重ねてしまったということだけだ。
「じゃあさ、久しぶり二人でお話ししない?」
マリの口から出たのは思いがけない言葉だった。
飲み屋の看板に照らされた彼女の顔が赤く見えるのは気のせいだろうか。
もしかすると、酔っているのかもしれない。
この期に及んでオレは迷ってしまった。
すぐにでも頷きたい。
仕事中のオレなら「よろしくお願いします」と頭を下げただろう。
拒否権などないからだ。
だが、マリを前にして心が子供の頃に半分戻ったオレは、気恥ずかしさが先に来た。
そして、それを後悔するのはすぐ後だ。
繁華街の混雑した歩道に、高級車が突っ込んできたのだ。
オレは無意識のうちにマリを突き飛ばしていた。
自分にこんな動きができるなんて意外だった。
褒めてやりたい。
車にはね飛ばされたオレは、全身を強く打ち付け、歩道を転がった。
不思議と痛みは感じない。
ただ、自分の体はもうだめなんだと、なんとなく理解した。
――どうせ死ぬなら、マリに告白しときゃ良かった。
「ケン! ケーン!」
マリが駆け寄って来る。
膝をついてオレの顔を見下ろすマリの目から涙がこぼれた。
オレにも泣いてくれる人がいたんだな。
どうせなら、最後の記憶はマリの笑顔が良かったと考えるのは贅沢だろうか。
頬に落ちるマリの涙の温度すら感じない。
オレの意識はそのまま闇へと落ちていった。
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