上 下
10 / 22
FILE 01 女学園バラバラ死体事件

FILE01 女学園バラバラ死体事件-2

しおりを挟む
 まだ登校してくる生徒の多い中、校門に黒塗りの車が横付けされた。
 そこに乗り込むミカに、羨望の眼差しとため息が漏れる。
 こうしてみると、その美しさは実に絵になる光景だ。

 しかし、ミカに続いて俺が乗り込むと、空気が露骨に刺々しいものへと変わった。
 こうならないよう、せっかく二人の登校時間をずらしたのに台無しだ。

「なんでアイツまで一緒に乗るんだ?」
「くそう……俺もミカさんとご一緒したい」
「なんかの容疑者なんじゃね?」

 好き勝手言われ放題である。

「ちょっと、日頃の行いを改めた方がいいんじゃない?
 相棒として恥ずかしいわ」

 静かに走り出した車の中でそう言うミカは、さして気にした風でもない。
 本心では、恥ずかしいなどと思ってはいないのだろう。

「言いたいヤツには言わせておけばいい」

「強がりでそう言っているなら鼻で笑うところだけど、あなたにはそれを言う強さがあるものね」

 有象無象のヤジよりも、俺のことを信用してくれているということか。

 周囲のイメージほど天才ではない彼女だが、物事への評価を自分で行えるのは一つの才能だと思う。

 …………
 ……

 車が到着したのは、警察署だった。
 ほんとに俺ってなんかの容疑者なのか?
 んなわけないな。

「署長を呼んでください」

 ミカは病弱設定のまま、静かに受付の婦警へ話しかける。

「どうしたのお嬢さん。署長にいきなり会えたりはしないんですよ」

 婦警さんはこういったことにはなれてますから、といった雰囲気でミカをいなそうとする。

「存じています。行きましょう、愁人」

 一方のミカも同様だ。
 婦警を無視して、奥へと進んでいく。

「ちょ、ちょっと待って!」

 慌てた婦警さんが追って来るが、ミカは小さくため息をついてスマホを取り出した。
 ワンコールも待たずにつながった相手に向かって、静かに言う。

「部下の教育はしておいてください、とお願いしたはずですが」

 そうとだけ伝えると、ミカは婦警にスマホ差し出した。

「いったい何……え? 署長? は、はい。承知しました……」

 相手は署長なのだろう。
 通話を終えた婦警は、訝しげな顔で俺たちを見送るのだった。

「私もこの仕事を始めて間がないから、顔パスとはいかないのよね。
 と言っても、顔が割れるのも問題ではあるんだけど。
 そのために、目立たないよう受付には話を通しておくよう上から通達されてるはずなんだけど……」

 署長室へ向かう途中、彼女はいつもの調子へと戻っていった。
 学校モードから仕事モードへ切り替えたのだろう。

 署長室はちょっとした会議室ほどの広さがあった。
 その机には、殺人事件と思われる資料が広げられ、正面の大きなモニターにも、情報が映し出されている。

「受付では申し訳ありませんでした。事情を説明していた担当者が、たまたまトイレに行っていたようでして……」

 恐縮しきりの署長であるが、 内心「なぜこんな小娘に……」と考えている。
 そのことに、ミカは気づいていないようだ。
 まあ、署長の気持ちもわかる。

「いいわ。事件の概要を説明してください」

 ミカに促され、署長が資料を指しながら説明を始める。

 そういえば、署長室には俺たちの他には彼しかいない。
 そのレベルの機密ということだ。

「これが現場写真です」

「うわ……」

 ミカが眉をひそめるのも無理はない。
 署長が指した写真には、五体がバラバラになった女性の死体が写っていた。
 かなり丁寧にばらばらにされている。
 両足と左腕は肉が剥がされ、骨がばらばらに折られている。

「被害者の名前は、柳優南(やなぎ ゆうな)。
 犯行時刻は、昨日の夕方16時~18時頃。
 今日になって、捜査中に関係者の記憶が消え始めていることが発覚した。
 そこで規則に則って、『組織』に連絡したと言うわけです。
 それでは、私はこれで。
 誰も入って来ないようにしてありますので、気のすむまでお使いください」

 署長はそう言うと、部屋を出て行った。

「彼らの殺しは、記憶がなくなるという特性上、雑で感情的なものが多いけれど、ここまで猟奇的な現場は初めて見たわ。
 きっと、強い恨みを持つ者の犯行ね」

「いや、違うな」

 ミカの分析に、俺は異を唱えた。

「どういうこと?」

 自分の予想を否定されて不快に感じるだろうが、時間との勝負だ。
 余計な気遣いはせず、ざくざく行かせてもらう。

「猟奇殺人のように見せかけているが、何かを探ろうとしている。
 強盗が家中の引き出しを開けていくように、人間の体を解体している」

「なんでそんなことがわかるの?」

「死体の配置だよ。
 無造作にばらまかれてるように見えて、脚から順番に丁寧に解体されてる。
 そこまでなら、几帳面な猟奇殺人者ということもあるが、右腕だけ肉が剥がされていない。
 左腕の途中で解体作業が終わっている」

「左腕の前骨あたりね」

「そう。おそらくこの犯人は、左腕で目的のモノを見つけたんだ」

「すご……この資料を見ただけでそこまで……。
 でも左腕にいったい何があったの?」

 自分の考えをすぐに改められるのは、彼女の美徳だな。

「それはこれから調べよう」

「骨に宝石でも埋め込まれてたのかしら」

「プランダラーは人間と同じように、金目的で殺すことも多いという話だな」

「そう。怨恨と並んで、かなりの割合を占めるらしいの。
 彼らは人間と精神的に融合しているせいか、人間の欲望をより強く持っているから」

「彼らも、どうせなら良い暮らしをしたいってわけか」

「そういうことね」

 人間や魔族相手の理屈が通じるということだ。
 人間と精神構造の異なる神族を相手にしたときと比べれば、やりやすいというものだ。

「それからもう一つ気付いたことがある。
 調べさせておいてくれないか?
 平行作業で『時短』したい」

「いいけど、まだなにかあるの?」

「この死体、左腕に新しい手術跡がある。上手く隠してあって、犯人は気づかなかったようだな」

「ほんとだ……」

 写真をかなり拡大しても微かに見える程度、上手く隠してある。

「事件に関係あるかはわからないが、担当医を見つけて、話を聞いておいてくれ」

「わかったわ。手配しておく」

 ルカは「ほんとよく気付くわね」と感心しながら、スマホを操作するのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

神代の終わりの物語

漆海 次郎
ファンタジー
 かつて神と人は、地上で共存していた。  神が生きる神話の時代は既に終わりを迎え、人の世となっていた。  舞台は未だ信仰の息付く豊葦原。  主神<荒津比売>を信仰する王制国家であったが、今その政治は混乱を極めている。  現王の崩御によってはじまった、現王派と元老院による主権争い。  王族らが掲げるのは、主神を鎮め奉り、その恩恵をいただく御神鎮守。  元老院が掲げるのは、主神をこの世へ来臨させ他国を侵略する御神来臨。  対立する二つの派閥は、それぞれ次世代を担う国王の候補として王子を擁立した。  現王派は第一王子、涼介を。  元老院はその双子の弟、流之介を。  これは、政治に翻弄される若者達の物語。 ************************* 以前別サイトにて連載していた完結済の作品です。若干手直しして再連載完了済。 日常メインでじんわりゆっくり核心に迫っていくので気長にお読みください。 途中でルビつける気力が失せました。問い合わせいただければ返答します…。 Twitterにて小ネタや立ち絵等適宜投稿してます。 ※ぬるめですが性描写(近親相姦に準ずるもの、NL、BL、前戯~本行為までまちまち)あり。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

死んだと思ったら異世界に

トワイライト
ファンタジー
18歳の時、世界初のVRMMOゲーム『ユグドラシルオンライン』を始めた事がきっかけで二つの世界を救った主人公、五十嵐祐也は一緒にゲームをプレイした仲間達と幸せな日々を過ごし…そして死んだ。 祐也は家族や親戚に看取られ、走馬灯の様に流れる人生を振り替える。 だが、死んだはず祐也は草原で目を覚ました。 そして自分の姿を確認するとソコにはユグドラシルオンラインでの装備をつけている自分の姿があった。 その後、なんと体は若返り、ゲーム時代のステータス、装備、アイテム等を引き継いだ状態で異世界に来たことが判明する。 20年間プレイし続けたゲームのステータスや道具などを持った状態で異世界に来てしまった祐也は異世界で何をするのか。 「取り敢えず、この世界を楽しもうか」 この作品は自分が以前に書いたユグドラシルオンラインの続編です。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

裏社会の令嬢

つっちー
ファンタジー
ある日、学校へ行く途中トラックに轢かれそうになった小さな子供を助けたと同時に身代わりになって死んでしまった私、高ノ宮 千晴は目が覚めたら見知らぬ天井を見上げていた。 「ふぇ!?ここどこっ!?」 そして鏡を見るとそこには見目麗しい5歳?の少女が...!! これは異世界転生してしまった少女、高ノ宮 千晴改めアリス・ファーロストがなんとなく生きていく物語。

召喚アラサー女~ 自由に生きています!

マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。 牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子 信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。 初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった *** 異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います

処理中です...