優等生不良ちゃん

四国ユキ

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告白2

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 夏休みが終わり授業が始まった。私は当然のようにサボるために朝から屋上へ向かうが、そこに夜崎さんの姿はない。
 一限が終わり三年生の教室があるフロアに向かった。授業中だろうと夜崎さんを探しに行きたかったが、授業中にも関わらず廊下を練り歩いて先生に捕まるのが面倒で、一限が終わるのを待った。
 そもそも学校に来ているのか、分からない。相田さんと東京へ行ってしまったのではないだろうか、と最悪なパターンが頭をよぎる。
 教室を次々と覗いていく。金髪だから見つけやすいはずだ。夜崎さんとずっと屋上でサボってきたのに何組か知らない。屋上に行けば会えると思っていたから。
 ようやく夜崎さんのいる教室を見つけた。物憂い気に頬杖を付き窓の外を眺めている。周りには誰もいない。夜崎さんに話しかけるのは私くらいなんだ……。
 絵になるなあ、と思いながらまっすぐ夜崎さんの元に向かった。
 夜崎さんは逃げるそぶりを見せたが、私は夜崎さんの右手首を握り締め無言で歩き出した。
 夜崎さんが本気で抵抗すれば簡単に振りほどかれる。それでも夜崎さんは大人しく着いてきてくれる。
 周りが物珍しそうに見てくるがそんなものに構っていられない。私と夜崎さんはそのまま屋上へ出た。
「久し振りだね」
 私はつかんでいた右手首をようやく離した。ここまで来てくれたのだから、逃げはしないだろう。
「……そうだな」
 夜崎さんは私と目を合わせず、俯いている。
「それと、あのときは悪かった。いくらセフレでも八つ当たりみたいにしちゃいけないよな。本当にごめん」
 夜崎さんが目を合わせることなく、屋上から逃げるように出て行こうとする。
 私は夜崎さんの右腕を勢いよくつかんだ。
「一方的に言いたいこと言って終わり? 本当に悪いと思ってるなら目を見て言いなよ。それと私の話も聞いて」
 夜崎さんが一瞬嫌そうな顔をしたが、すぐに無表情に戻りようやく私の顔を見た。
「あのときはごめん。それとセフレももうやめよう。あたしの我が儘に付き合わせて悪かった」
 そう言うと再び夜崎さんは屋上から逃げようとする。私は全身に力を込め、夜崎さんを壁に押しつけた。
「だから、私の話を聞いてよ。何でそんなに勝手なの」
「離せ。力ならあたしの方が強いんだ。怪我したくないなら……」
「困ったときに暴力に頼るのやめなよ。そんなことで私は引き下がらないよ」
 夜崎さんの目を睨み自分を奮い立たせるように大声を出す。夜崎さんの言う通り、腕力じゃ太刀打ちはできそうにない。だからといって引く気はない。
「春子、いい加減に……」
「まだ暴力に頼る気? ……夜崎さんのお母さんみたいに」
 夜崎さんの顔が一瞬で歪み、右拳が振り上げられる。しばらく固まり、苦虫を噛みつぶしたような表情で拳を下ろし、力を抜いた。
「あいつの話は出すな……」
 こんなに弱々しい夜崎さんは初めて見た。あの母親と同じなんて言われたら堪えるか……。
「ごめん、でも私の話を聞いて欲しくて」
「今更話すことなんか……」
 夜崎さんに言いたいことはいくらでもある。でも正直頭の中でまとめ切れていない。勢いで夜崎さんを引っ張って来たけど、どうなるか分からない。
 でも、今を逃せない。
「夜崎さんのこと、相田さんから色々聞いた。ネグレクトされてたこと、相田さんがいなかったら今頃どうなっていたか分からないこと、全部」
 夜崎さんは特に反応も示さず
「そうか」
と一言だけ呟いた。
「相田さんに東京に行こうって言われたよね。断ったんだ」
「……迷ったけど、断った。ここに残っても相田さんと東京に行っても、結局は誰かに支配されるのと変わらないから」
 支配か。確かに言い得て妙だと思う。
 違う、私が言いたいことはそんなことじゃない。もっと夜崎さんの冷たく固まった心を解すような……。
「夜崎さんは、誰かに愛されたいんでしょ」
「……は?」
 あまりに唐突だったからか、夜崎さんは面くらった表情を浮かべ、上ずった声を上げた。
「そうでしょ」
 夜崎さんの目を見るが、夜崎さんはすぐに私から顔を逸らしてしまう。
「母親から愛されず、相田さんからは歪んだ愛を受けて、純粋に愛されることを知らないんでしょ」
 夜崎さんが目を瞑り、そうかも、と聞こえるか聞こえないかくらいの大きさで言った。
「だから私が告白したとき、セフレならいいなんて言ったんだ。無条件に愛してくれるのか試すように、まるで小さい子供みたいに」
「……本当は春子のことはどうでも良くて適当にあしらうためにそう言ったんだ」
「意固地にならないで! どうでもいいなんて思ってたら、その場で断るはずだよ。デートもセックスもするはずないじゃん!」
 夜崎さんは目を瞑ったまま、何も言わない。私の必死な言葉は届いているのだろうか。このまま夜崎さんが頑なに私の言葉を受け取ってくれなかったら……。
「愛情がどんなものかちゃんと分からない夜崎さんには難しいかもしれないけど、私はあの二人とは違うのは分かって。ちゃんと夜崎さんが好きだよ。だからこうして……」
「あたしのこと好きなのか、まだ? こんなでも……?」
 夜崎さんが目を開け、揺れる瞳で私を見つめてくる。私は力強く頷く。
「どうしてそんなにあたしのこと……」
「不良に絡まれてるとこを助けてくれたでしょ、格好良かった。後は一緒に過ごす内に段々ね」
「ずっと好きでいてくれる?」
「ずっと……と言いたいけど、それは夜崎さん次第かな」
「あたし……?」
「そう。私の好意を素直に受け取ってくれて、そして夜崎さん自身の気持ちに素直であれば、ずっと好きだよ」
「自分の気持ちに素直にって……どうすれば」
 この期に及んでまだそんなこと言うのか。夜崎さんは不器用だ。私は夜崎さんを抱きしめた。
「夜崎さんが好き。夜崎さんは?」
 夜崎さんが恐る恐る私を抱きしめ返してきた。
「……好きだよ、春子のこと。こんなあたしと一緒にいてくれて、楽しいことを教えてくれて、あたしのために必死になってくれる春子が好きだ」
 後半は夜崎さんが涙声になってしまい上手く聞き取れなかった。それでも私を好きだということだけはちゃんと伝わってくる。
「泣かないで」
 大粒の涙は拭っても拭っても滝のように流れ落ちる。
 夜崎さんを取り巻く環境が劇的に変わったわけではない。何も解決してないのかもしれない。母親のこと、卒業後のこと。それでもこれは大きな一歩だと思う。
 私は背伸びをし、優しくキスをした。
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