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初デート
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恋人はちょっと。振られたってこと? 私とは付き合いたくないってこと? でも、セフレならいいって……。
セフレ……セフレって、あれか、体だけの関係ってやつ? 私の頭の中でセフレの文字が渦巻く。
「……私とは付き合わない?」
「ああ。それは駄目」
「どうして」
「どうしても」
はっきりとした理由があれば私もすっぱり諦めることができる。多分。でも、そんな曖昧な理由は到底受け入れられない。
「でも、セフレならいいんだ」
「セフレの意味知ってるのか」
私は夜崎さんを睨みつけた。
「茶化さないで。私のこと何だと思ってるの」
夜崎さんがゆっくり両手をつかんでいた肩から手を離した。。
「……そうだな、悪かった。今のは忘れてくれ。それと、もう合わせる顔がないから屋上にも来ない」
夜崎さんが勝手に屋上から出ていこうとする。私も急いで立ち上がり、手首をつかんで引き留めた。
「……駄目なんて言ってない」
恥ずかしさで夜崎さんの顔を直視できない。はっきりと振られ、拒絶された。それでも私は引き留めてしまった。心の中は怒りに支配されているはずなのに、どうしても夜崎さんを諦められない。傍から見たら、いや、自分でも変だと思う。
「……セフレの意味分かってるのか」
小さく頷く。
「……もし、あたしとちゃんと付き合えるようになると思ってるなら、そんな甘い考え捨てた方がいい」
私の考えていることはバッサリ切られた。それくらいで諦めるつもりはない。セフレからでもちゃんと恋人になれるはず。夜崎さんが何で恋人じゃなくてセフレならいいと言うのか、分からない。はっきりとした理由があるかも分からない。それでもいつか、夜崎さんが私を好きになってくれればそれでいい。
「いいよ。私のこと、好きだって言わせてあげる」
「本当にあたしのこと分かってる? そんな都合良くいかないよ」
夜崎さんが試すような視線を向けてくる。私はそれを黙って真正面から受け止めた。
どれくらい無言で睨み合っていただろうか。私たち二人しか世界にいないんじゃないかと思えるくらい静かだ。
おもむろに夜崎さんが唇を私の唇に近づけてきた。反応が一瞬遅れたが、間一髪右手を挟み、ファーストキスが奪われるのを防いだ。
「いきなり、何すんの!」
夜崎さんが抗議の声を上げているが、口を塞がれている所為で何を言っているのか聞き取れない。掌に感じる夜崎さんの唇が柔らかく心地いい。
「キスだろ、それくらい分かるだろ」
夜崎さんが呆れたように私を見る。
「それくらい分かるよ! 何でいきなりキスしようとするの」
「セフレだろ。それくらいするだろ。それにもっと凄いことするんだぞ」
「だからっていきなりキスしないでしょ。……もしかして、セ……その、しようとしたの?」
私は信じられない思いで夜崎さんをまじまじと見つめた。夜崎さんは平然と
「そうだよ」
なんて答える。
私は脱力し、その場に座り込んだ。
「セフレだからって、場所も時間もわきまえず、しないでしょ!」
「そりゃ、そうだな」
夜崎さんが楽しそうに笑った。
「じゃあ、今日学校終わったらあたしの家でしよう」
何がじゃあ、なのか分からないが、そんな軽いノリで言わないで欲しい。でも、このままだと流されて夜崎さんの家で……。考えろ、考えろ。
「……デート! デートしよう」
「は?」
夜崎さんが理解できないとでも言いたげな顔で私を見下ろす。何とか、それらしい言い分を……。
「いきなりするのも、趣がないでしょ。まずは、雰囲気が大事だと思う! そのためのデート」
夜崎さんが明らかに面倒くさそうな表情をする。
「セフレにそんなのいらないだろ」
「いるよ! ただすればいいってもんじゃないと思う。こう……お互いがお互いを想い合ってこそというか……」
自分でも何を言っているのか分からず、しどろもどろになってしまう。
夜崎さんは相変わらず面倒くさそうな表情を浮かべているが、やがて諦めたのか、苦笑いをした。
「まあ、よく分からんけど、するよ、デート」
やった! 私のしつこさの勝ちだ。
夜崎さんが、ただし、と言ってにんまりと笑う。
「デートしたら、あたしの家に来るんだぞ」
放課後まではそわそわしながら過ごした。夜崎さんとのデートにこぎ着けた。変な条件がついているけど。
そもそもデートとは、どこへ行って何をすればいいんだ。全国的に見れば田舎だが県内で考えると、私たちがいる高校は一番大きな駅まで徒歩十分と、最も栄えている場所にある。きっとデートをするなら駅の周りになるのだろうか。
全然分からない。友達とも遊びに行ったことのない私にはレベルが高すぎる。駅ビルでウィンドウショッピングなんて無難だろうか。あまりお金を使いたくないし。
私が悶々としているうちに、あっという間に放課後となってしまった。
「さて、デートとやらに行きますか」
さっきまで寝ていた夜崎さんが起き、私を試すように見てきた。
「どこに行くんだ」
「えっと、駅ビルでウィンドウショッピングとかどうでしょうか」
夜崎さんは
「まあ普通だな」
と呟いて立ち上がり、さっさと屋上から出ていこうとする。
「デートなんだからもうちょっと気使ってよ」
私は慌てて追いかけた。
学校から駅まで黙々と歩いた。何か話さないと、という緊張と日差しで体温がどんどん上がっていくのを感じる。
そういえば、学校の外で夜崎さんと一緒に行動するのは初めてだ。新鮮に感じる。夜崎さんは家で何をしているのだろう。一人のときとか何を考えているのだろう。前に聞いたような気がするけど、まともに返ってこなかった。
そんなことを考えているうちに、結局無言で駅に着いてしまった。
「あたしは見たいものとか特にないけど、春子はあるのか」
白状すると、特にない。なるべくお金を使わないように心がけてきた所為か、物欲が薄い。ここに来ればそれなりにデートっぽくなるかと目論んでいたが、やはり甘かった。夜崎さんも私と同じで物欲とかあまりなさそうだし、そもそも物事への興味も薄いのだろう。
「まあ、とりあえず見て回るか」
私の困惑が顔に出ていたのか、夜崎さんが気を遣うように言い、一人で歩き出してしまった。私は早足で夜崎さんの隣に並んだ。
「ごめんね、夜崎さん。無計画で」
「まあ、そんな気はしてたし、大丈夫」
その後も私たちは無言で駅の中を歩き続けた。どの店に寄ることもなく、休憩がてら、ファストフードのお店に入ることにした。私は一番安い飲み物だけを注文し、夜崎さんは飲み物とポテトを頼んだ。
空いているテーブル席に向かい合って座る。
「ごめん、夜崎さん。全然楽しくなかったでしょ」
私は申し訳なくなって俯き、自然と謝ってしまった。
「いや、新鮮で案外楽しかったよ」
その言葉に思わず顔を上げた。そこには自然な笑顔を浮かべている夜崎さんがいた。
「本当に?」
「ああ。……まあ、あたしにとってお楽しみはこれからだしな」
「うげ」
夜崎さんとのデートに浮かれ、失敗し、完全に忘れていた。夜崎さんとデートをして、その後……。
急に緊張してきた。本当に、するの……?
夜崎さんが春子も食べろよ、とポテトが入った紙袋をこちらに向けてきた。ありがとう、と言って一本だけ食べた。緊張で訳が分からなくなり飲み物の味も、ポテトの塩気も分からない。
「緊張してんの?」
夜崎さんが茶化すようにからかってきた。
「……うん」
今の私に虚勢を張る元気はなく、素直に認めた。
夜崎さんはしばらく私の顔を見てから、
「今日はしなくていいや」
と言いポテトを頬張った。
「……いいの? その、私とするためにしたくないデートまでしたのに」
「いいよ。そんなにガチガチの相手とやっても楽しくないだろうし」
助かった。夜崎さんとしたくないわけではないが、今日いきなり、というのは違う。でも、このまま引き下がるのは癪だ。
「来週またデートしよ。それまでに色々考えるから。そしたら……」
私が言い淀んだところで、夜崎さんが
「するか」
と軽く後を継いだ。
夜崎さんのあまりの軽さに呆れながら、私は小さく頷いた。
「でも、来週はもう夏休みじゃないか」
夜崎さんの言葉にはっとした。学校は今週までで、来週から夏休みだから、一日デートをすることを考えて計画を立てないといけない。いや、さすがに一日は無理か……?
「春子、聞いてる?」
私は我に返り、夜崎さんを見つめた。もう来週のデートのことで頭がいっぱいだ。
「ごめん、聞いてなかった」
「あたし、携帯持ってないから連絡できないだろ。もしデートするなら学校で会える内に日時を決めてくれ」
「分かった」
夜崎さんは本当に携帯電話を持っていないのだろうか。一緒に遊ぼうという仲になっても、実は持ってました、とはならないのだから、やはり持っていないのか。
まあ、それはそれとして、次のデートもできそうだし、今度こそ準備して、それで……。
そこまで考えて、私は恥ずかしさで頭を抱えてしまった。
セフレ……セフレって、あれか、体だけの関係ってやつ? 私の頭の中でセフレの文字が渦巻く。
「……私とは付き合わない?」
「ああ。それは駄目」
「どうして」
「どうしても」
はっきりとした理由があれば私もすっぱり諦めることができる。多分。でも、そんな曖昧な理由は到底受け入れられない。
「でも、セフレならいいんだ」
「セフレの意味知ってるのか」
私は夜崎さんを睨みつけた。
「茶化さないで。私のこと何だと思ってるの」
夜崎さんがゆっくり両手をつかんでいた肩から手を離した。。
「……そうだな、悪かった。今のは忘れてくれ。それと、もう合わせる顔がないから屋上にも来ない」
夜崎さんが勝手に屋上から出ていこうとする。私も急いで立ち上がり、手首をつかんで引き留めた。
「……駄目なんて言ってない」
恥ずかしさで夜崎さんの顔を直視できない。はっきりと振られ、拒絶された。それでも私は引き留めてしまった。心の中は怒りに支配されているはずなのに、どうしても夜崎さんを諦められない。傍から見たら、いや、自分でも変だと思う。
「……セフレの意味分かってるのか」
小さく頷く。
「……もし、あたしとちゃんと付き合えるようになると思ってるなら、そんな甘い考え捨てた方がいい」
私の考えていることはバッサリ切られた。それくらいで諦めるつもりはない。セフレからでもちゃんと恋人になれるはず。夜崎さんが何で恋人じゃなくてセフレならいいと言うのか、分からない。はっきりとした理由があるかも分からない。それでもいつか、夜崎さんが私を好きになってくれればそれでいい。
「いいよ。私のこと、好きだって言わせてあげる」
「本当にあたしのこと分かってる? そんな都合良くいかないよ」
夜崎さんが試すような視線を向けてくる。私はそれを黙って真正面から受け止めた。
どれくらい無言で睨み合っていただろうか。私たち二人しか世界にいないんじゃないかと思えるくらい静かだ。
おもむろに夜崎さんが唇を私の唇に近づけてきた。反応が一瞬遅れたが、間一髪右手を挟み、ファーストキスが奪われるのを防いだ。
「いきなり、何すんの!」
夜崎さんが抗議の声を上げているが、口を塞がれている所為で何を言っているのか聞き取れない。掌に感じる夜崎さんの唇が柔らかく心地いい。
「キスだろ、それくらい分かるだろ」
夜崎さんが呆れたように私を見る。
「それくらい分かるよ! 何でいきなりキスしようとするの」
「セフレだろ。それくらいするだろ。それにもっと凄いことするんだぞ」
「だからっていきなりキスしないでしょ。……もしかして、セ……その、しようとしたの?」
私は信じられない思いで夜崎さんをまじまじと見つめた。夜崎さんは平然と
「そうだよ」
なんて答える。
私は脱力し、その場に座り込んだ。
「セフレだからって、場所も時間もわきまえず、しないでしょ!」
「そりゃ、そうだな」
夜崎さんが楽しそうに笑った。
「じゃあ、今日学校終わったらあたしの家でしよう」
何がじゃあ、なのか分からないが、そんな軽いノリで言わないで欲しい。でも、このままだと流されて夜崎さんの家で……。考えろ、考えろ。
「……デート! デートしよう」
「は?」
夜崎さんが理解できないとでも言いたげな顔で私を見下ろす。何とか、それらしい言い分を……。
「いきなりするのも、趣がないでしょ。まずは、雰囲気が大事だと思う! そのためのデート」
夜崎さんが明らかに面倒くさそうな表情をする。
「セフレにそんなのいらないだろ」
「いるよ! ただすればいいってもんじゃないと思う。こう……お互いがお互いを想い合ってこそというか……」
自分でも何を言っているのか分からず、しどろもどろになってしまう。
夜崎さんは相変わらず面倒くさそうな表情を浮かべているが、やがて諦めたのか、苦笑いをした。
「まあ、よく分からんけど、するよ、デート」
やった! 私のしつこさの勝ちだ。
夜崎さんが、ただし、と言ってにんまりと笑う。
「デートしたら、あたしの家に来るんだぞ」
放課後まではそわそわしながら過ごした。夜崎さんとのデートにこぎ着けた。変な条件がついているけど。
そもそもデートとは、どこへ行って何をすればいいんだ。全国的に見れば田舎だが県内で考えると、私たちがいる高校は一番大きな駅まで徒歩十分と、最も栄えている場所にある。きっとデートをするなら駅の周りになるのだろうか。
全然分からない。友達とも遊びに行ったことのない私にはレベルが高すぎる。駅ビルでウィンドウショッピングなんて無難だろうか。あまりお金を使いたくないし。
私が悶々としているうちに、あっという間に放課後となってしまった。
「さて、デートとやらに行きますか」
さっきまで寝ていた夜崎さんが起き、私を試すように見てきた。
「どこに行くんだ」
「えっと、駅ビルでウィンドウショッピングとかどうでしょうか」
夜崎さんは
「まあ普通だな」
と呟いて立ち上がり、さっさと屋上から出ていこうとする。
「デートなんだからもうちょっと気使ってよ」
私は慌てて追いかけた。
学校から駅まで黙々と歩いた。何か話さないと、という緊張と日差しで体温がどんどん上がっていくのを感じる。
そういえば、学校の外で夜崎さんと一緒に行動するのは初めてだ。新鮮に感じる。夜崎さんは家で何をしているのだろう。一人のときとか何を考えているのだろう。前に聞いたような気がするけど、まともに返ってこなかった。
そんなことを考えているうちに、結局無言で駅に着いてしまった。
「あたしは見たいものとか特にないけど、春子はあるのか」
白状すると、特にない。なるべくお金を使わないように心がけてきた所為か、物欲が薄い。ここに来ればそれなりにデートっぽくなるかと目論んでいたが、やはり甘かった。夜崎さんも私と同じで物欲とかあまりなさそうだし、そもそも物事への興味も薄いのだろう。
「まあ、とりあえず見て回るか」
私の困惑が顔に出ていたのか、夜崎さんが気を遣うように言い、一人で歩き出してしまった。私は早足で夜崎さんの隣に並んだ。
「ごめんね、夜崎さん。無計画で」
「まあ、そんな気はしてたし、大丈夫」
その後も私たちは無言で駅の中を歩き続けた。どの店に寄ることもなく、休憩がてら、ファストフードのお店に入ることにした。私は一番安い飲み物だけを注文し、夜崎さんは飲み物とポテトを頼んだ。
空いているテーブル席に向かい合って座る。
「ごめん、夜崎さん。全然楽しくなかったでしょ」
私は申し訳なくなって俯き、自然と謝ってしまった。
「いや、新鮮で案外楽しかったよ」
その言葉に思わず顔を上げた。そこには自然な笑顔を浮かべている夜崎さんがいた。
「本当に?」
「ああ。……まあ、あたしにとってお楽しみはこれからだしな」
「うげ」
夜崎さんとのデートに浮かれ、失敗し、完全に忘れていた。夜崎さんとデートをして、その後……。
急に緊張してきた。本当に、するの……?
夜崎さんが春子も食べろよ、とポテトが入った紙袋をこちらに向けてきた。ありがとう、と言って一本だけ食べた。緊張で訳が分からなくなり飲み物の味も、ポテトの塩気も分からない。
「緊張してんの?」
夜崎さんが茶化すようにからかってきた。
「……うん」
今の私に虚勢を張る元気はなく、素直に認めた。
夜崎さんはしばらく私の顔を見てから、
「今日はしなくていいや」
と言いポテトを頬張った。
「……いいの? その、私とするためにしたくないデートまでしたのに」
「いいよ。そんなにガチガチの相手とやっても楽しくないだろうし」
助かった。夜崎さんとしたくないわけではないが、今日いきなり、というのは違う。でも、このまま引き下がるのは癪だ。
「来週またデートしよ。それまでに色々考えるから。そしたら……」
私が言い淀んだところで、夜崎さんが
「するか」
と軽く後を継いだ。
夜崎さんのあまりの軽さに呆れながら、私は小さく頷いた。
「でも、来週はもう夏休みじゃないか」
夜崎さんの言葉にはっとした。学校は今週までで、来週から夏休みだから、一日デートをすることを考えて計画を立てないといけない。いや、さすがに一日は無理か……?
「春子、聞いてる?」
私は我に返り、夜崎さんを見つめた。もう来週のデートのことで頭がいっぱいだ。
「ごめん、聞いてなかった」
「あたし、携帯持ってないから連絡できないだろ。もしデートするなら学校で会える内に日時を決めてくれ」
「分かった」
夜崎さんは本当に携帯電話を持っていないのだろうか。一緒に遊ぼうという仲になっても、実は持ってました、とはならないのだから、やはり持っていないのか。
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