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 リフティング、パス、サーブ、サーブレシーブ、さらに千屋さんのアタックのレシーブ。練習ではこれらをひたすら繰り返す。最初は意識し考えながらやっていた動作を無意識にそれでいて確実にできるように何度も何度も、来る日も来る日も繰り返して体に染みこませていった。
 七月中旬になり体育館にいるだけで汗が噴き出し、お姉ちゃんに買ってもらったインナーの実力を実感し始めていた。明賀先輩が大会について説明してくれることになり、練習前に宮成先輩含め全員が部室に集められた。
「大会の日程と試合相手が正式に決まったわ……その前に阿河さんは初試合だし、ルールのおさらいをしましょうか」
 練習でブロックやサーブを教えてもらったときにルールを説明してもらったが、試合未経験というのもあり改めて確認できるのはありがたい。
「コート上の一チームの人数は? 勝敗は?」
「人数は三人。一セット二十一点の二セット先取で勝ち」
「正解。ルールは大体バレーボールと一緒。大きな違いは?」
「腕は使えない。一人で連続三回触ってもいい。ローテーションはない。サーブは三本ずつで交代。これくらいですかね」
「ブロックは?」
「忘れてました。ブロックのタッチも一回と数える」
「大丈夫そうね」
 そう言うと明賀先輩が全員に一枚の紙を渡した。そこには大会要項とトーナメント表が記載されている。
「日程は八月最後の土日。四ブロックに分けて予選を行って一日目に代表四校を決める。二日目はその四校総当たりで順位を決める」
 トーナメント表を見ると、各ブロックに四校ずつある。つまり一日目に二試合、勝てば二日目になると三試合することになる。
 それにしても全国で十六校しか記載されていないトーナメント表を見ると、セパタクローは改めてマイナースポーツであることを思い出させる。
「私たちはCブロック。一回戦は千葉の東谷とうや高校……初めて聞く学校名だからたぶん初心者チームかしら」
 学校名の下にかっこ書きで県名が一緒に記載されている。北は宮城から南は福岡まで。どうも人が多い場所でしかチームにならないようだ。
「二回戦は、神奈川の名凜めいりん高校と埼玉のみなと高校の勝者。……どっちも初参加かしらね」
 明賀先輩が一度切り、紙から顔を上げ千屋さんを見た。
「千屋さんはずっと横浜よね? この高校知ってる?」
 千屋さんが横浜に住んでいることを今初めて知った。横浜から東京の井澄高校までは電車で一時間以上はかかるはずだ。それより、あたしは千屋さんのことをなにも知らない。……いや、別に知りたくもないか。
「さあ。他の人とか高校に興味ないので」
 千屋さんならそう言うと思っていた。これくらいのことなら千屋さんを理解している。
「となると、未知数の相手だけどおそらく初心者チームかしら。一日目は問題なさそうね」
 明賀先輩の言葉を表面だけなぞると慢心しているように思える。でも明賀先輩はそんなことはしない。一番勝つことに拘り日本一になりたがっているのは明賀先輩だ。あたしの緊張を少しでも和らげようとしているのだと分かる。
「二日目はどのチームが進出するか分からないわね……。どこも去年参加していた高校ばかりで、経験者だらけのはず」
「二日目の対戦校の対策はどうするんですか」
 あたしの問いに明賀先輩が困った表情を浮かべ腕を組み、「ううん」と唸った。
「ブロックの決勝戦を録画して、試合後に対策を立てるしかないわね」
「だれが録画するんですか? 宮成先輩ですか?」
「宮成さんは選手としてベンチにいてもらうから別の人を用意するわ」
 別の人をどうやって、と頭を傾げたあたしに宮成先輩が、
「彩夏ちゃん」
と声をかけてきた。
 宮成先輩を見ると、右手の掌を上に向け、親指と人差し指で丸を作った。

 夏休み前のテストをギリギリの成績で乗り越え夏休みに入った。明賀先輩は頭がいいと宮成先輩に聞いていたから明賀先輩が学年一位でも驚きはしない。でも、千屋さんが成績上位というのは納得できなかった。あたしの成績を知った千屋さんの馬鹿にするような目つきはもっと納得できなかった。
 夏休みは月曜日を除いて毎日朝から晩まで練習を重ね、培ってきたあたしの運動神経と勘を総動員させ動きを覚え込んだ。
 初心者とは思えない、と明賀先輩に太鼓判を押され、コンディションも最高の状態で大会当日を迎えた。
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