16 / 49
10
しおりを挟む
リフティング、パス、サーブ、サーブレシーブ、さらに千屋さんのアタックのレシーブ。練習ではこれらをひたすら繰り返す。最初は意識し考えながらやっていた動作を無意識にそれでいて確実にできるように何度も何度も、来る日も来る日も繰り返して体に染みこませていった。
七月中旬になり体育館にいるだけで汗が噴き出し、お姉ちゃんに買ってもらったインナーの実力を実感し始めていた。明賀先輩が大会について説明してくれることになり、練習前に宮成先輩含め全員が部室に集められた。
「大会の日程と試合相手が正式に決まったわ……その前に阿河さんは初試合だし、ルールのおさらいをしましょうか」
練習でブロックやサーブを教えてもらったときにルールを説明してもらったが、試合未経験というのもあり改めて確認できるのはありがたい。
「コート上の一チームの人数は? 勝敗は?」
「人数は三人。一セット二十一点の二セット先取で勝ち」
「正解。ルールは大体バレーボールと一緒。大きな違いは?」
「腕は使えない。一人で連続三回触ってもいい。ローテーションはない。サーブは三本ずつで交代。これくらいですかね」
「ブロックは?」
「忘れてました。ブロックのタッチも一回と数える」
「大丈夫そうね」
そう言うと明賀先輩が全員に一枚の紙を渡した。そこには大会要項とトーナメント表が記載されている。
「日程は八月最後の土日。四ブロックに分けて予選を行って一日目に代表四校を決める。二日目はその四校総当たりで順位を決める」
トーナメント表を見ると、各ブロックに四校ずつある。つまり一日目に二試合、勝てば二日目になると三試合することになる。
それにしても全国で十六校しか記載されていないトーナメント表を見ると、セパタクローは改めてマイナースポーツであることを思い出させる。
「私たちはCブロック。一回戦は千葉の東谷高校……初めて聞く学校名だからたぶん初心者チームかしら」
学校名の下にかっこ書きで県名が一緒に記載されている。北は宮城から南は福岡まで。どうも人が多い場所でしかチームにならないようだ。
「二回戦は、神奈川の名凜高校と埼玉の湊高校の勝者。……どっちも初参加かしらね」
明賀先輩が一度切り、紙から顔を上げ千屋さんを見た。
「千屋さんはずっと横浜よね? この高校知ってる?」
千屋さんが横浜に住んでいることを今初めて知った。横浜から東京の井澄高校までは電車で一時間以上はかかるはずだ。それより、あたしは千屋さんのことをなにも知らない。……いや、別に知りたくもないか。
「さあ。他の人とか高校に興味ないので」
千屋さんならそう言うと思っていた。これくらいのことなら千屋さんを理解している。
「となると、未知数の相手だけどおそらく初心者チームかしら。一日目は問題なさそうね」
明賀先輩の言葉を表面だけなぞると慢心しているように思える。でも明賀先輩はそんなことはしない。一番勝つことに拘り日本一になりたがっているのは明賀先輩だ。あたしの緊張を少しでも和らげようとしているのだと分かる。
「二日目はどのチームが進出するか分からないわね……。どこも去年参加していた高校ばかりで、経験者だらけのはず」
「二日目の対戦校の対策はどうするんですか」
あたしの問いに明賀先輩が困った表情を浮かべ腕を組み、「ううん」と唸った。
「ブロックの決勝戦を録画して、試合後に対策を立てるしかないわね」
「だれが録画するんですか? 宮成先輩ですか?」
「宮成さんは選手としてベンチにいてもらうから別の人を用意するわ」
別の人をどうやって、と頭を傾げたあたしに宮成先輩が、
「彩夏ちゃん」
と声をかけてきた。
宮成先輩を見ると、右手の掌を上に向け、親指と人差し指で丸を作った。
夏休み前のテストをギリギリの成績で乗り越え夏休みに入った。明賀先輩は頭がいいと宮成先輩に聞いていたから明賀先輩が学年一位でも驚きはしない。でも、千屋さんが成績上位というのは納得できなかった。あたしの成績を知った千屋さんの馬鹿にするような目つきはもっと納得できなかった。
夏休みは月曜日を除いて毎日朝から晩まで練習を重ね、培ってきたあたしの運動神経と勘を総動員させ動きを覚え込んだ。
初心者とは思えない、と明賀先輩に太鼓判を押され、コンディションも最高の状態で大会当日を迎えた。
七月中旬になり体育館にいるだけで汗が噴き出し、お姉ちゃんに買ってもらったインナーの実力を実感し始めていた。明賀先輩が大会について説明してくれることになり、練習前に宮成先輩含め全員が部室に集められた。
「大会の日程と試合相手が正式に決まったわ……その前に阿河さんは初試合だし、ルールのおさらいをしましょうか」
練習でブロックやサーブを教えてもらったときにルールを説明してもらったが、試合未経験というのもあり改めて確認できるのはありがたい。
「コート上の一チームの人数は? 勝敗は?」
「人数は三人。一セット二十一点の二セット先取で勝ち」
「正解。ルールは大体バレーボールと一緒。大きな違いは?」
「腕は使えない。一人で連続三回触ってもいい。ローテーションはない。サーブは三本ずつで交代。これくらいですかね」
「ブロックは?」
「忘れてました。ブロックのタッチも一回と数える」
「大丈夫そうね」
そう言うと明賀先輩が全員に一枚の紙を渡した。そこには大会要項とトーナメント表が記載されている。
「日程は八月最後の土日。四ブロックに分けて予選を行って一日目に代表四校を決める。二日目はその四校総当たりで順位を決める」
トーナメント表を見ると、各ブロックに四校ずつある。つまり一日目に二試合、勝てば二日目になると三試合することになる。
それにしても全国で十六校しか記載されていないトーナメント表を見ると、セパタクローは改めてマイナースポーツであることを思い出させる。
「私たちはCブロック。一回戦は千葉の東谷高校……初めて聞く学校名だからたぶん初心者チームかしら」
学校名の下にかっこ書きで県名が一緒に記載されている。北は宮城から南は福岡まで。どうも人が多い場所でしかチームにならないようだ。
「二回戦は、神奈川の名凜高校と埼玉の湊高校の勝者。……どっちも初参加かしらね」
明賀先輩が一度切り、紙から顔を上げ千屋さんを見た。
「千屋さんはずっと横浜よね? この高校知ってる?」
千屋さんが横浜に住んでいることを今初めて知った。横浜から東京の井澄高校までは電車で一時間以上はかかるはずだ。それより、あたしは千屋さんのことをなにも知らない。……いや、別に知りたくもないか。
「さあ。他の人とか高校に興味ないので」
千屋さんならそう言うと思っていた。これくらいのことなら千屋さんを理解している。
「となると、未知数の相手だけどおそらく初心者チームかしら。一日目は問題なさそうね」
明賀先輩の言葉を表面だけなぞると慢心しているように思える。でも明賀先輩はそんなことはしない。一番勝つことに拘り日本一になりたがっているのは明賀先輩だ。あたしの緊張を少しでも和らげようとしているのだと分かる。
「二日目はどのチームが進出するか分からないわね……。どこも去年参加していた高校ばかりで、経験者だらけのはず」
「二日目の対戦校の対策はどうするんですか」
あたしの問いに明賀先輩が困った表情を浮かべ腕を組み、「ううん」と唸った。
「ブロックの決勝戦を録画して、試合後に対策を立てるしかないわね」
「だれが録画するんですか? 宮成先輩ですか?」
「宮成さんは選手としてベンチにいてもらうから別の人を用意するわ」
別の人をどうやって、と頭を傾げたあたしに宮成先輩が、
「彩夏ちゃん」
と声をかけてきた。
宮成先輩を見ると、右手の掌を上に向け、親指と人差し指で丸を作った。
夏休み前のテストをギリギリの成績で乗り越え夏休みに入った。明賀先輩は頭がいいと宮成先輩に聞いていたから明賀先輩が学年一位でも驚きはしない。でも、千屋さんが成績上位というのは納得できなかった。あたしの成績を知った千屋さんの馬鹿にするような目つきはもっと納得できなかった。
夏休みは月曜日を除いて毎日朝から晩まで練習を重ね、培ってきたあたしの運動神経と勘を総動員させ動きを覚え込んだ。
初心者とは思えない、と明賀先輩に太鼓判を押され、コンディションも最高の状態で大会当日を迎えた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
M性に目覚めた若かりしころの思い出
kazu106
青春
わたし自身が生涯の性癖として持ち合わせるM性について、それをはじめて自覚した中学時代の体験になります。歳を重ねた者の、人生の回顧録のひとつとして、読んでいただけましたら幸いです。
一部、フィクションも交えながら、述べさせていただいてます。フィクション/ノンフィクションの境界は、読んでくださった方の想像におまかせいたします。
雨上がりに僕らは駆けていく Part2
平木明日香
青春
学校の帰り道に突如現れた謎の女
彼女は、遠い未来から来たと言った。
「甲子園に行くで」
そんなこと言っても、俺たち、初対面だよな?
グラウンドに誘われ、彼女はマウンドに立つ。
ひらりとスカートが舞い、パンツが見えた。
しかしそれとは裏腹に、とんでもないボールを投げてきたんだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる