性奴隷を飼ったのに

お小遣い月3万

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すごく日本に帰りたい。今すぐに帰りたい。でも……

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 食事を終えて、デザートのアイスがメイドさんに配膳《はいぜん》された。

「アイスまであるの?」とカヨは驚いていた。

「毒味しましょうか?」とアニーが言った。

「アニーばかりズルイよ。ボクも毒味したい」とナナナが言い出す。

「お願いするわ」とカヨ。

「ボクしていい?」とナナナ。

「いいですよ」とアニー。

 ナナナがスプーンを握りしめて、席を立った。

「いっておくけど一口だけだからね」とカヨが言う。

「一口ルールね」
 とナナナがニヤリと笑った。
 そして彼女はアイスを底から持ち上げた。

「あっ、全部取らないでよ」
 とカヨ。

「一口は一口だもん」
 ガブリとナナナがアイスを頬張った。

 俺はナナナの頭にチョップした。

「毒味で全部食べる奴があるか」
 と俺が言う。

「ごめんなさい」
 とハムスターみたいに口いっぱいにアイスを入れてナナナが謝った。

「私のアイス……」とカヨが悲しそうな顔をした。

「俺のアイスならあげようか? 一口食べちゃったけど」
 と俺が言う。

「キモヤリのアイスなんていらないわよ」
 とカヨが言う。

 キモヤリってなんだ? 俺のあだ名か?

 グハハハ、とバランが笑っている。

「キモヤリだって」と机を叩いてバランが笑う。

「キモヤリがどういう意味かお前わかってんのかよ?」とチェルシーが聞いた。

「わからん」とバランが言う。

「わかってねぇーのに笑うんじゃねぇーよ」
 とチェルシーがツッコんだ。

「もしかして気持ちいい槍を持った男の略か?」
 とバランが尋ねた。

「お前、文脈読み取れよ。キモヤリってキモイヤリチンの略だろうが。お前が付けたあだ名だろうが」
 とチェルシーが言う。

「そもそもキモイヤリチンってなんだ?」
 とバラン。

「小次郎のことを言うんだよ」

「小次郎ってキモイヤリチンだったのか?」
 とバラン。

 俺はツルッパゲの大男を無視する。
 差し出したアイスが溶けていく。

「それじゃあ」とアニーが言った。
「小次郎様のアイスを私がいただき、私のアイスを池崎様にあげましょうか?」

 アニーはそう言って俺のアイスを受け取り、自分のアイスをカヨに渡した。

「ありがとう」と俺は言った。
 これでカヨはアイスを食べることができる。

「アナタがお礼を言うことじゃないわ」
 とカヨが言った。
「ありがとう」

「どういたしまして」
 とアニーが言った。
「私は小次郎様のアイスが食べれて嬉しいです」

 別にそんなの聞いてない、とボソリとカヨは呟いた。

「ところで池崎様はいつ日本に帰られるのですか?」
 とアニーが尋ねた。

「日本に帰れないわよ」
 とカヨが言う。

「いつでも日本に帰れるよ」
 と俺は言った。

 驚いた表情で彼女が俺を見る。

「えっ?」

「池崎様はいつでも日本に帰れるんだ」
 と俺が言う。

「どういう事?」

 賢者の石のアイテムの説明を俺がする。

「君はそれを使って日本に帰るんだ」
 と俺は言った。

 カヨは嬉しいと悔しいと悲しいの間の笑いをした。

「帰りたくないのか?」と俺は尋ねた。

「帰りたいわよ」
 とカヨが言う。
「すごく日本に帰りたい。今すぐに帰りたい。でも……」

「でも?」

「やり残したことがある」
 と彼女が言った。

「やり残したこと?」
 と俺は尋ねた。

「……」

「俺達が力になれるのなら、俺達がそのやり残したことを手伝ってあげる」
 と俺が言う。

「……信用できない」

「そうか」と俺は呟いた。
 そりゃあ、そうか。
 彼女にとっては異世界に来てから出会った人間なのだ。
 訳もわからない相手なのだ。

「わかった」と俺は言った。
「それじゃあ、手伝ってほしかったら俺に言ってくれ。それと日本に帰りたくなったら俺に言ってくれ。必ず君の力になる。必ず君を日本に帰す」

「……」
 カヨが静かにアイスを食べた。

「君が信用できなくても、君が俺のことが嫌いでも、どんな事があっても俺は君を裏切らないし、どんな事があっても俺は君の味方になるつもりだから」

「惚れるわ~」とチェルシーが言った。
「この優しさと包容力で何人の女の子を手に入れたんでしょ?」

「黙れ」と俺が言う。

「言っておきますけど、日本で妻になるかもしれないけどアンタは私より後妻《ごさい》ですからね」とチェルシーが言う。

「言ってる意味がわかんねぇーよ」
 と俺が言った。

「みんなの気持ちを代弁してあげてんだよ」
 ケラケラとチェルシーが笑う。

「全然違うよ」とナナナが言う。
「ボクが思っているのはね、故郷に帰っていなくなる人にボク達の大切な王様と結ばれてほしくないんだよ。王様は池崎様? あれ? カヨって名前じゃなかったけ? のことが好きみたいだから、みんなちょっと不安なんだよ」

「安心してください。絶対に私はこの人のことを好きになったりしません」
 とカヨが言った。

「うん」
 と俺は頷く。
 好きにならなくてもいい。
 ちょっと悲しいけど、俺のことを好きにならずに日本に帰れば俺達は出会うことがなく、将来的に彼女を悲しませることがないのだ。
「それでいいよ。俺が君のことを大切に思っているだけだから」

「キモイってマジで」
 とカヨが言った。

「小次郎様はキモくないです」
 とアニーがキレた。
「小次郎様は本当に優しい方です。誰よりも人のために動ける人です。アナタのことを真剣に考えているんです。小次郎様のことをキモイって言わないでください」

 半泣きでアニーが言った。
 さっきから俺がキモイ、って言われて彼女は悔しかったんだろう。

「いいんだよアニー。日本の常識からしたら何人も妻がいることは気持ち悪い文化に見えるんだ。それに俺はキモイって言われても別に平気だし」

「でも私は許せません」
 とアニーが泣きそうに言った。

「……」とカヨ。

 やべぇー。
 このままじゃあ亀裂が入っちゃう。
 悪口の説明をしなくちゃ。
 悪口の説明ってなんだよ?

「彼女は異世界に来て辛い思いをして来たんだ。ずっと池崎様は苦しかったんだ」と俺は言った。「チェルシーだってバランだって俺に悪口を言うだろう。あれは俺に甘えているんだ。悪口を相手にぶつけることができるのは相手に甘えているんだ。この世界で彼女に甘えることができる人がいるだけで俺は嬉しい」

 嬉しくないっすよ。ちゃんと傷ついています。
 でも悪口は相手に甘えている、って思えたら許せるかも。
 アニーを納得させるために言ったけど、自分自身の慰めにもなっていた。

「俺、甘えてねぇーけどな」
 とバランが言う。

「黙れ」と俺が言う。

「そうですか」
 とアニーが下唇を噛み締めて言った。

「池崎様は池崎様らしくしてていいんだよ」と俺は言った。
 カヨへのフォローも忘れていない。

「……」
 
「せっかく俺の国に来たんだから、明日にでも街の案内をしよう」と俺は言った。
 すぐに話を切り替える素早さ、これがオッさん力《りょく》というやつである。
 カヨには日本に帰る前に俺の街を見てほしかった。
 異世界が嫌な思い出ばかりじゃなく、いい思い出も作ってほしかった。異世界にもいい場所はあるんだ、と思ってほしかった。

「小次郎様が池崎様を連れて行くんですか?」
 とアニーが尋ねた。

「そうだよ」と俺が言う。

「小次郎様は忙しいですから、私が案内します」
 とアニーが言った。

「それじゃあ一緒に行こうか?」
 と俺が言う。

「ボクも行きたい」
 とナナナが手をあげた。

「妾は無理じゃ。仕事がある」と愛が言った。

「仕方ねぇーな。最近、小次郎とも遊んでやれてねぇーし、遊んでやるか」
 とチェルシーが言う。
 別にお前は誘ってないけどな。
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