性奴隷を飼ったのに

お小遣い月3万

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魔王は悲しい

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 どうしたらこの戦争に勝つことができるのか? ずっと戦争をしていた人に聞きに行くことにした。
 聞きに行くっていうか、結構の頻度で会いに行っている相手である。
 
 ワープホールを使ってダンジョンの奥深くに移動する。
 ダンジョンなのに森の中。
 一軒のログハウスが建っている。

 中に入る。
 でも彼女はいなかった。
 どっかに行ったのかな?

 魔力感知で彼女を探した。
 イライアは自分の魔力を封印して、俺の魔力を持っていた。
 だから魔力感知をすると、もう1人の俺の居場所がわかる。

 彼女の元に向かった。
 イライアは岩の上に座っていた。

 グスングスンと口と鼻から空気を漏らして、イライアは泣いていた。
 思わず木の陰に隠れてしまった。
  
 彼女の膝の上にはバハムートのバッハがいて、ご主人様を慰めるために頬を舐めていた。
 彼女はウサギ耳がついた白いパーカーを着ている。

 イライアは何かを思い出しているんだろうか。

 妊娠すると情緒不安定になる。ホルモンバランスが崩れるからである。

「なぜ隠れておるんじゃ?」
 とイライアが泣きながら尋ねた。

 バレていたらしい。
 木の陰から出た。
 そして彼女の隣に腰を下ろした。

 2畳ぐらいある岩の上。
 綺麗に削られていて、平《たいら》になっている。
 魔法で削ったんだろう。

 俺は彼女が泣き止むまで何も喋らなかった。

 バッハが頭を俺に押し付けてくる。あんなに強かったバハムートも今では彼女のペットである。
 しばらくバッハの頭を撫でてあげると満足したらしく、岩から降りて薬草を食べに行った。

「妾が殺して来た人達のことを思い出してしまったんじゃ」
 と彼女が言った。

「そっか」と俺は言う。

「今になって自分がどれほどの罪を作って来たのかわかって後悔している。妾は罪深い。妾が殺して来た人達もみんな誰かに愛されていたはずなのじゃ」

 俺は何も言えなかった。
 魔王が殺して来た人達を俺は知っている。
 魔王に家族を殺された人達を俺は知っている。
 彼女は罪深い。
 でも彼女は旦那を取り戻すために頑張ってきただけなのだ。
 俺も彼女の気持ちがわかった。
 世界中の全ての命を引き換えに、愛した人を取り戻したい。

 俺は彼女の背中をさすった。
 まだイライアは泣いている。
 君は悪くない、とは言えない。
 俺は彼女を抱き寄せて頭を撫でた。
 イライアは俺の胸の中でひとしきり泣いた。

 それから体を移動させて俺は彼女を背中から抱きしめた。
 イライアは俺に体重を預けている。

「妊娠してから、ずっと悲しいんじゃ」
 と魔王が言う。

「妊娠中はホルモンバランスが崩れて情緒不安定になるから仕方がないよ」
 と俺が言う。

「そうか」とイライアが頷く。
「この子がいるから妾は悲しいのじゃな」

「出来ればイライアを俺の館に連れて行きたい。ずっとそばにいてあげたい」

「バカな事を言うでない。妾は追われている身じゃぞ。他国の人間に妾が見つかってしまったらお主の計画が全て無くなるじゃろう」

「毎日、イライアに会いに来る」

「ありがとう」と彼女が言った。「お主がいれば悲しみも紛れる」

 俺はパーカーの上から彼女のお腹を撫でた。

「ちょっとお腹が出て来たと思わぬか?」
 と彼女が言った。

「本当だね」
 と俺が言う。

 イライアが俺の手を握った。

「キスしてくれぬか?」

 俺は彼女にキスをした。
 それは魔力供給のキスじゃない。
 悲しみを紛らわすためのキスだった。

 それから俺は彼女の小麦色の首筋を舐めた。

「クスグッたいのぉ」と彼女が笑った。

「もっと色んなところを舐めてあげましょうか?」
 と俺が言う。

「お主は気持ち悪いのぉ」
 と彼女が笑った。

 そして俺達はクスクスと笑い合った。
 笑うのが収まると見つめ合って、またキスをした。

 しばらく俺は彼女とイチャイチャした。
 妊婦さんには愛情が必要だった。
 そばに誰かがいる必要があった。
 だからイライアを家に招きたい。できれば俺の妻にしたい。一緒に子どもを育てたい。
 でも彼女は魔王で、罪人で、追われている身で、俺の家に招くことはできない。
 それをイライアはわかっていた。
 それを俺はわかっていた。

 イチャイチャが落ち着いて、岩の上で彼女に腕枕をして寝転んだ。

「もう国は独立できたのか?」
 とイライアが尋ねて、ようやく俺は彼女に戦争のことを聞きに来たことを思い出す。

「イライアに聞きたいことがある」
 と俺は言った。

「なんじゃ?」
 と彼女が尋ねる。

 俺は今の現状について喋った。隣接する国同士の戦争。裏でバビリニアの暗躍。そして独立すれば戦争に巻き込まれること。

 星のカケラについてイライアに伝えることはできなかった。彼女には世界中の人を殺してでも叶いたい夢がある。
 だけど星のカケラはミナミを蘇らせるために使う。

「どうすれば、俺の国は勝つことができる?」
 と俺は尋ねた。

 彼女は何百年もずっと戦争をして来たのだ。

「ふむ」と彼女が言った。
「お主が言うように、独立してから戦争に巻き込まれる可能性はある。だけど妾の見立てでは、その可能性は少ないような気がする」
 
「どうして?」
 と俺は尋ねた。 
 
「お主の国が街を囲い込んだとして、それに激怒したソビラトがお主の国を攻めたとする。そしたらエジーがソビラトを攻めて来るじゃろう。戦力をお主の国に割いてしまったらソビラトは負けてしまう。逆も同じじゃ。だから戦力をお主の国に割けないのじゃ。お主の国に攻めて来るということは2つの国が共闘した時じゃ。でも戦争をしている2つの国が共闘することなんて、なかなか無いはずじゃ」

「それじゃあ、どうすれば?」

「何もするでない。しばらくは……」と彼女が言った。

 それから俺達は戦争の戦略について話し合った。
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