性奴隷を飼ったのに

お小遣い月3万

文字の大きさ
上 下
37 / 115

しおりを挟む
 ナナナは母親に赤ちゃんの抱っこを代わってもらって、2人は走った。
「お父さん」とナナナは呟いた。
 もう父親は奴隷狩りに捕まってしまっているかもしれない。
 
 木々に隠れながら何者かが2人を追いかけて来ていた。
 走って走って走って逃げているのに、どんどんと追い詰められて行く。
 近くの木々が揺れていた。
 

「この子を連れて、神子は走って逃げなさい」
 と母親は言って、赤ちゃんを渡した。

 妹は楽しそうにニッコリと笑った。

「……お母さんは?」

「後で追いかけるから」

 母親は赤ちゃんを落とさないように、抱っこ紐をナナナに強く結んだ。

「絶対に追いかけるから」
 と母親が言う。
「早く行きなさい」

 ナナナは走った。
 お母さんを置いて走った。
 走って走って走って走った。
 後ろを振り返ると遠くの方で大量の鳥が飛び立っていた。

 どれだけ走ったかわからないぐらいに彼女は走った。
 気づいたら太陽は傾いていた。

「まー、まー、まー」
 と妹が泣き叫んでいる。

 自分では母乳をあげる事はできない。
 母親を待つしかなかった。
 木の上に登った。
 母親が通り過ぎないように彼女は赤ちゃんを抱っこしながら、地面を眺めた。
 何日間も過ぎた。
 もう妹は泣かなくなった。

 母乳は出ないけど何度かナナナは赤ちゃんにおっぱいを吸わせた。
 今は疲れているのか妹は眠っていた。もう昨日から眠って目覚めなかった。

 ナナナは木から降り、食べれる葉っぱや虫を食べた。調理されていない葉っぱや虫は口に合わなかったらしく、彼女は苦そうな顔をしていた。
 それでも彼女は生きるために食べた。
 母親は生きていてほしい、とナナナに願ったのだ。
 それを彼女は叶えるために、美味しくない葉っぱや虫を食べた。

 ナナナは母親が来ることを期待して、それから何日も動こうとしなかった。
 草が揺れるたびに彼女は怯えた。
 風が吹くたびに彼女は怯えた。 
 何かの匂いを嗅ぎ分けて彼女は怯えた。
 そのたびに動かなくなった妹をギュッと抱きしめた。
 
 妹の様子がおかしい事にナナナは気づいていた。
 白い花の薬草を彼女は見つけ、それを石ですり潰して妹の口に入れた。
 その花はナナナが俺に売ってくれた薬草である。
 口の中に薬草を入れても赤ちゃんは起きなかった。
 それでも彼女は赤ちゃんを抱き続けた。
 絶対に手放してはいけない大切なモノだった。

「なー、なー、なー」
 と彼女が赤ちゃんに喋りかけた。

 私のことを呼んで、と彼女が言っているみたいだった。

「なー、なー、なー」
 だけど赤ちゃんは2度と喋らなかった。


 赤ちゃんに喋りかけている彼女の映像を見て、俺はある事を思い出していた。
「ボクの名前は……ナナナ」
 と彼女が俺に自己紹介したのだ。
 映像を見る限りでは彼女に名前は与えられていなかった。
 
 ナナナ。
 ずっと妹に、そう呼ばれたかったんだろう。

「なー、なー、なー」
 と起きない赤ちゃんに彼女はずっと喋りかけていた。


 ナナナは母親が来ないことを悟った。
 だから奴隷狩りがいる森から離れるために歩いた。
 歩いた先に何があるかもわからなかった。
 何日も何日も歩き続けた。
 妹は腐り始めている。
 彼女は薬草を見つけて妹に与え続けた。
 どうやらナナナは匂いで薬草を探しているらしい。
 葉っぱを食べ、虫を食べ、飢えをしのいだ。
 夜になると木の上に登り、魔物から身を隠した。

 そしてついに森を出た。
 森を抜けた場所にあったのは、ゴミ山だった。
 街から出たゴミが1つに集められた場所。発酵してガスも出ている。
 悪臭が酷い。
 だけど、そこに獣人が何十人も住んでいる。
 獣人は痩せこけ、顔も汚れてドロドロで、ゴミ山から拾ったボロボロの服を着ていた。

 彼女はゴミ山に住む獣人に喋りかけた。
 だけど無視された。
 無視されるとは思っていなかった。
 誰に喋りかけても無視された。
 彼女は歩きすぎていて、酷くお腹が空いていて、疲れていた。
 ゴミ山にできた穴に彼女は入った。

 遠くから獣人の喋り声が聞こえた。
「隣街の領主は獣人に優しいらしい」「アソコに行けば奴隷狩りには捕まらない」「でも隣街に行くまでに奴隷狩りに捕まるだろう」

 ちゃんと彼女は、その会話を聞いていた。

 ナナナは歩き疲れていたらしく、ゴミ山の穴の中で眠りに落ちた。

 目覚めた時に妹がいないことに混乱した。
 ずっと抱えていた妹がいなくなったのだ。
 寝ている時に落としてしまったのかもしれない。そう思った彼女は穴の中を探した。
 だけど妹の姿はなかった。

 外から肉が焼ける臭いがした。
 空腹だった。
 妹を探すより、肉の臭いに釣られて穴を出た。

 痩せこけた5人の男女の獣人が火を囲んで何かを焼いていた。
「ボクにも分けてほしい」
 と彼女が言って彼等に近づいて行く。

 だけど彼等が焼いているモノを見て、彼女は足を止めた。
 妹だった。
 彼女は息を止めて、火の中で焼かれる赤ちゃんの姿を見つめた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

趣味を極めて自由に生きろ! ただし、神々は愛し子に異世界改革をお望みです

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:52,899pt お気に入り:11,955

身体強化って、何気にチートじゃないですか!?

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:1,310

継母の心得

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:73,777pt お気に入り:24,118

異世界でいきなり経験値2億ポイント手に入れました

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:63pt お気に入り:5,649

筆頭騎士様の夜伽係

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:28,269pt お気に入り:1,606

厨二魔導士の無双が止まらないようです

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:42pt お気に入り:5,752

処理中です...