性奴隷を飼ったのに

お小遣い月3万

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純白のドレス

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 大使館で行われる舞踏会の当日。
 独身女性は純白ドレスを着る。それが、このパーティーでのドレスコードだった。
 アニーは肩まで見える純白のドレスを着て俺の目の前に現れた。
 彼女の美しさに俺は息を飲んだ。

 こんなにアニーは美しかったっけ?
 彼女が俺に微笑みかけた。

「すごく綺麗だ」
 と自然に俺は呟いていた。 

「豚もおだてれば衣装だな」とチェルシーが言った。
 色んな言葉が混じりすぎて、猫がなにを言っているのかがわからない。

 他の仲間達は仕事でいなかった。
 家にいるのはチェルシーと執事とメイド達だけである。
 俺もドレスコードでタキシードを着ていた。いつも付けていない蝶ネクタイを付けているから首が苦しい。

「ご主人様」とセドリッグに声をかけられた。「宝飾品《ほうしょくひん》をアニー様に付けてあげてください」

「あぁ、そうだったな」
 と俺は言う。
 セドリッグから純白のドレスに合うようなアクセサリーを用意するように頼まれていた。

 この世界では宝飾品は見た目の美しさも必要だけど、どういった魔法が付与されているのかも必要とされている。どれだけ大切に扱われているのか、という目安になるらしい。
 アイテムボックスの中にはアクセサリーが山ほど収納されていた。その中から彼女が似合いそうな物を選んでいた。
 
 ピアスをアイテムボックスから取り出した。

「ご主人様が付けてあげてください」
 とセドリッグに言われる。

 俺が付けていいの?

 アニーがフィギュアみたいな耳を俺に向けた。
 緊張しているのか俺の手が震えていた。
 彼女の耳にはピアスが入るような小さな穴が空いている。
 この日のために開けたんだろう。
 アニーの白い耳にピアスを付けた。

 次に眩い光を放ったネックレスをアイテムボックスから取り出した。

「俺が付けてあげようか?」とチェルシーが言う。

「実は俺、猫アレルギーなんだ。チェルシーは向こうに行っててくれ」

「嘘だ。お前が俺を撫でてくしゃみしたことねぇーだろう」

 しっ、しっ、と手で猫を払い退ける仕草をする。

 そしてアニーの首に手を回して、ネックレスを付けてあげた。
 未成熟なのに、すでに魅力を放っている彼女の鎖骨のあたりにネックレスがフィットした。

 次はキラキラと輝くティアラをアイテムボックスから取り出した。
 彼女は少しかがんだ。
 ティアラを彼女の頭に付けた。

 お姫様のように気高く、美しい姿になった。

 全てのアクセサリーが、彼女のために作られたように、すごく似合っている。

 メイド達からはため息が漏れた。

 世界で一番美しい女の子が、俺の目の前にいた。

「すごく美しいよ」と俺は言った。

「孫にも小判が棒に当たる、だな」
 猫が何を言いたいのか、俺にはさっぱりわからなかった。

「あの汚なかったアニーが、こんなに綺麗になるとはな」とチェルシー。

「あぁ」

「その姿で撫でてもらいたいてぇーな」

「アニーに近づくなよ」

「なんでだよ?」

「ドレスに毛が付いてしまうだろう。それと俺にも近づくなよ。タキシードに毛がついてしまう」

 わかったよ、と言いながらチェルシーがアニーに近づく。

 彼女が微笑み、チェルシーに手を伸ばした。
 その手を俺は掴んだ。

「それじゃあ行こう」

「おい」とチェルシーが叫んだ。「アニーが俺を愛撫するところだったのに」

「させねぇーよ。毛が付いてしまうだろう」

「俺も付いて行く」

「来るな。お前はココでお留守番だ。念話するから、それまで待っていてくれ」

 チェ、と猫が舌打ちをした。


 俺達はユニコーンがひく馬車に乗った。
 セドリッグも付いて来るらしく、別の馬車に乗った。
 一緒の馬車に乗らないのは、気を使ったんだろう。

 お世話係として従者1人だけ同行は許可されていた。セドリッグが自ら名乗りをあげたのはやべぇ鑑定士が来ているかもしれないからである。
 もともとセドリッグは貴族に仕えていた。やべぇ奴も知っているんだろう。
 どんな鑑定士かはわからないけど、ソイツが来ていたらセドリッグがアニーを守る。
 鑑定スキルは情報の蓄積《ちくせき》によるものである。ヤバい奴というのは、膨大な情報を持った奴がいるということである。
 いくら所作や見た目が貴族でも、細やかな情報で奴隷とバレてしまう可能性があった。
 なんだかんだ言ってセドリッグ先生は教え子が気になるみたいである。

 このパーティーは街の周辺で魔物を巨大化させている犯人を探すのが目的だった。
 アニーが怪しい奴を探して、小さなワープホールからチェルシーが手を出してソイツの頭に触れて記憶を読み取る。そして犯人を探す。

 念話のスキルについても全員に説明している。心で会話することができる。ただし念話のスキルを使えるのは俺だけだった。みんなと心の中で会話できるのは俺だけ。

 馬車の中。
 彼女は背筋を真っ直ぐに伸ばしてソファーに座っていた。

 俺は彼女をジッと見た。
 ずっと見ていられるぐらいに美しかった。
 アニーがソファーに座っているだけで映画のワンシーンのようだった。
 彼女は映画のポスターになり、本の表紙になり、名画になるぐらいに美しかった。
 
 俺は素敵な絵を見るように彼女のことを見てしまっていた。
 アニーが俺の視線に気づき、俺を見た。

 目が合った。

 しばらくの間、俺達は何も言わずに見つめ合っていた。

 ゆっくりと彼女が俺の手を握った。

「私も勇者様に愛されるように頑張ります」
 とアニーが言った。

 私も、と彼女は言ったのだ。
 他の誰かを俺が愛しているみたいな言い方だった。
 俺とミナミが、そういった関係になったことに彼女は気づいているんだろう。
 大使館に到着するまでアニーは俺の手を離そうとしなかった。


 大使館はザ貴族の建物みたいな館である。
俺のイメージの大使館はパスポートを無くした時に行く場所だけど、ココでは貴族の交流の場所らしい。

 ザ貴族の館にアニーをエスコートして入ると貴族達の化粧や香水の匂いが充満していた。
 純白のドレスを着た女性達。タキシードを着た男性達。
 アニーは、このパーティーにいる女性のなかでダントツで美しかった。
 みんな俺の隣にいる美少女に目を奪われている。
 高級グラスを落としたり、人の足を踏みつけたりする貴族達。

「なんて美しい女性なんだ」
 ため息交じりに誰かが呟いた声が聞こえた。

 アニーに全ての視線が向けられた。
 ここにいる人は誰も彼女が性奴隷として売られていたことを知らない。
 ここにいる人は誰も彼女がナイフで首を刺して自殺しようとしていたことを知らない。
 アニーは誰よりも美しかった。
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