性奴隷を飼ったのに

お小遣い月3万

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彼女が愛おしい

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 俺達が帰って来るとリビングにミナミがいた。
 ミナミの視線がアニーの左薬指にいったのがわかった。
 それにアニーも気づいて、大切に握っていた花束と一緒に後ろに手を隠した。
 明らかにミナミの機嫌が一瞬で悪くなった。

「恋のライバルがいるのに、こんなところでくつろいでいていいのかよ? その大きな胸は揉まれるためにあるんだろう? 無駄乳だな」
 とチェルシーがケラケラ笑いながら言った。

 ブチブチブチ、とミナミの頭の血管が切れる音がした。

 ミナミはチェルシーの首を掴み、窓に向かって投げた。
 バリン、と窓が割れてチェルシーが外に飛んで行く。

「生理か?」とバランが尋ねた。

「はぁ?」
 ヤンキーのような声をミナミが出す。

「これは間違いなく生理だな」

 この流れは前も見たような気がする。

 ミナミの高速パンチ。それをバランが食らって気絶した。

 アニーはビビリすぎてソファーにも座れず、小さく震えながら、セドリッグの隣で立ち尽くしていた。

「ミナミちょっと来てくれ」
 と俺は彼女の腕を掴んだ。

「アニーとセドリッグはココで待っていてくれ。後で話がある」

「かしこまりました」と執事が言う。


 不機嫌なミナミを連れて、2階の俺の部屋に連れて行った。
 部屋は大きい。ベッドがあり、ソファーがあり、服を収納するタンスもある。いつもメイドさんが綺麗にしてくれているから、ホコリ1つ落ちてない。

「なによ?」
 と不機嫌そうにミナミが言った。

 彼女が不機嫌になった理由はわかっていた。
 結婚指輪である。
 アニーには渡したのに彼女には渡していない。
 
 契約だけとはいえ、俺は2人と結婚する。
 片方に指輪を渡して、片方に指輪を渡していないのは不公平だと思う。
 ミナミにしたら優劣をつけられたと思ったんだろう。

 俺はアイテムボックスに手を突っ込んだ。
 手だけが何もない空間に吸い込まれて消えた。
 そしてアイテムボックスの中に入っていた紫の宝石が付いた指輪を掴んだ。
 幸運が上昇する魔法が付与された指輪である。
 幸せを感じる力が上昇するだけのアイテム。
 彼女に似合うような気がした。

「左手を出して」

「……別にほしくない」
 ミナミが不貞腐れている。

「いらないんだ。それじゃあいいや。アイテムボックスに仕舞っておこう」

「ほしい」
 と不貞腐れたまま彼女が言う。

「でも私の方が先にほしかった」

「順番があるのか?」

「私のほうが、小次郎を、その、想っていた、っていうか、好きだった時間が長い」
 顔を真っ赤にさせてミナミが言う。

「次から気を付けるよ」

 俺は彼女の左手を取り、薬指に指輪をはめた。
 魔道具は装備者に合わせてサイズを変化させる。
 ミナミは大切そうに左手を抱きしめた。

「それじゃあ戻ろうか?」
 と俺は言って、扉を開けようと取手を掴んだ。

 後ろから彼女にギュッと抱きしめられた。

は私のモノなんだから」
 とミナミが呟いた。

 お兄ちゃん、と久しぶりに彼女に呼ばれたような気がする。
 久しぶりに呼ばれたせいで、全てを失った少女のことを思い出す。
 両親を失い、兄弟を失い、友人を失い、手足も失った少女。彼女を背負って冒険をしていた日々のことを俺は思い出す。ずっと泣いていた彼女のことを思い出す。

が私の居場所なんだからね」

 ミナミにとっては俺が居場所。

 頑張って美しい大人の女性になったミナミ。
 頑張って誰よりも強い女性になったミナミ。
 頑張って俺を支えてくれたミナミ。
 全てを失った少女は、もういない。
 あっ、と俺は気づいた。
 
 彼女が愛おしい。

 俺は息を止めて、娘のことを思い出す。
 日本に戻りたかった。
 でも、この世界に俺を必要とする人がいる。

 色んな感情が押し寄せて、何をどうしたらいいのか、わからなくなる。
 彼女を置いて日本に帰れるのだろうか? 
 不安が押し寄せて来る。
 でも娘に会いたい。世界で一番愛している女の子。自分の命よりも百億倍は大切な女の子。
 
『パパはおとな』と4歳児の娘に言われたことがある。俺は大人なのだ。わからないことでも大人だから決断しないといけない時がある。大人だから苦しくても飲み込まないといけない時がある。
 ずっと先延ばしにしつづけたけど、決断する時が目の前まで迫って来ていた。

「戻ろう」と俺は微笑み、彼女を連れてリビングに戻った。


 リビングに戻るとチェルシーは帰って来ていた。それにバランも意識を取り戻している。

「悪い。俺、寝てたわ」とバランが言った。

「気にするな。眠たい時もある」と俺が言う。

 チェルシーがミナミにそっぽを向いた。
 彼女がチェルシーを抱きしめて、「ごめんね」と謝った。

「許さねぇ」とチェルシー。

「手料理を作ってあげるから許して」

「手料理はいらない」と猫が言う。

 チェルシーが左手の指輪を見つける。
 
 ミナミがチェルシーの顎下を撫でた。

「もっと左。そこそこ。そこを撫でてくれ」

「ココ?」

「めっちゃ気持ちいぃ。これだから猫はやめられないんだよな」

 どうやら2人は仲直りができたらしい。

 複雑に絡み合った感情を押し殺して、俺はセドリッグを見た。
 彼に尋ねないといけないことがあった。

「俺達が行くパーティーは決めてくれたか?」

 パーティーのことは俺にはわからなかった。だから執事に任せていた。

 俺とアニーの2人で貴族のパーティーに行くことになっていた。
 巨大な魔物が発生している。他の貴族の仕業かもしれない。
 魔物の駆除はバランがしている。
 だけど、いつ領民が危険な目に合うかわからない。
 もちろん街には結界が張ってある。
 でも領民の中には、街の外に行く行商人もいる。それに旅行する人もいるのだ。
 領主は領民の安全を守らなくてはいけない。
 だから魔物を巨大化させている犯人を探して、やめさせないといけなかった。

「大使館でやる舞踏会に出席の手紙を出させていただきました」
 とセドリッグが言った。

「それって鑑定士がいるパーティーじゃないの?」
 とミナミが尋ねた。

「はい。いると思われます」

 そういえば数年前に1度だけミナミを連れて行ったことがある。
 大使館でやる舞踏会は、独身貴族が妻になる女性を探すためのパーティーである。
 そのパーティーには王族もやって来て、どの子が一番可愛いのかのコンテストも行われたはず。
 
「アニーの奴隷がバレるんじゃねぇーか?」とチェルシー。

「バレません。アニー様を奴隷と鑑定する人はいないでしょう」とセドリッグが断言する。
 そして執事はアニーを見た。

「見破られるようでしたらご主人様の結婚相手には相応しくありません」
 ねぇ、アニー様? とセドリッグが尋ねた。

 セドリッグやべぇ。コイツは崖から子どもを落として這い上がって来させるタイプの教育をしている。

「はい」とアニーが返事をした。

「でも結婚の契約を交わしといた方がいいんじゃないか?」とチェルシーが尋ねた。

「そのパーティーには独身女性あるいは男性、その両親しか出席できません」
 とセドリッグが言った。

 正室を持った貴族は出席できないのだろう。

「あと王族の方が出席されます」

「いいと思う」とミナミが言う。

「俺もいいと思う」
 と言った。

 そのパーティーでは注目されるのは女性である。その隙に怪しい奴がいればチェルシーに頭を触らせることができる。
 王族が来るので、独身貴族とその両親のほとんどの人が来る。

「それと結婚式の準備は進んでいるのか?」
 と俺は執事に尋ねた。

「はい。そちらの方も進めさせていただいております」

「いつもありがとう、セドリッグ。色々させてすまない」

「何なりとご命令ください」
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