異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万

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3章 子どもの終わり

第47話 vs勇者

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 勇者は22歳、ちょいギャルだった。
 名前はユキリン。ゆきという名前だけど、ユキリンって呼んでくれという事でユキリンと呼ぶ事になった。
 
 ユキリンの剣は、ネネちゃんが触ってから小さいままで元に戻らなかった。剣がネネちゃんを選んだみたい。
 もうユキリンの手にはしっくりと馴染まないらしい。
 だから勇者の剣はネネちゃんが貰うことになった。その代わり、いつまででも家にいていいという交換条件である。
 この国には彼女の武器庫があって、本来なら瞬間移動が使えるからアイテムボックスとして使用しているらしいけど、その武器庫にユキリンは剣を取りに行った。
 そのついでに王様に会って、自分の所在地と現在の状況を話して来たらしい。朝に行って、日本刀のような剣を戻って来たのは夕方だった。
 彼女はプンプンと怒っていた。

「スキルを封印されてるっていうのに、サリバン軍と戦ってくれだって。私に死ね、ってこと? マジ無いわ」
 と彼女が言った。
「俺達は戦うけど」
「マジで言ってるの? あのサリバンだよ」
「俺達じゃ無理か?」
「絶対に無理。私が完全体セル状態でも勝利確率5割だよ」
「君はサリバンにやられた訳じゃないんだね?」
「違う違う。見たこともない女の魔人。四天王の1人って言ってたけど、単独で行動してた」
 とユキリンが言う。
「お腹空いた。美子さんご飯まだ?」
 と彼女がキッチンに立つ美子さんに向かって言った。
「もう少しで出来るわよ」
「了解」

 勇者ユキリンは絵を書いてるネネちゃんを後ろから抱きしめ、「何書いてるの?」と尋ねた。
「うんち」
「お姉ちゃんがマキマキうんち描いてあげよっか?」
「描いて描いて」
 勇者ユキリンがマキマキうんちを描く。
 ネネちゃんが嬉しそうに笑っている。

「ユキリン」と俺が言う。
「明日、俺と手合わせしてくれないか?」
「手合わせ?」
「練習で戦ってくれないか?」と俺は言い直す。
「オーケー」
 めっちゃ軽く了承された。
「美子さんの回復能力って腕とか斬っても元に戻るの?」
 コイツ俺の腕を斬る気なのか?
「戻るよ」
 とキッチンから美子さんの声が聞こえた。
「剣の斬れ味をたしめたかったんだ」
 とユキリンがニッコリと笑う。
 コイツ、サイコパスじゃねぇーか。
「パパ強いよ」とネネちゃんが言う。
「それでもお姉ちゃんの方がもっともっと強いんだよ」
「スキルが使えなくても?」とネネちゃんが尋ねた。
「当たり前じゃん。あっ、パパさんは気にせずスキルを使ってくれていいから」


 そして勇者ユキリンと手合わせすることになった。俺はスキルは使うつもりはない。
 今回の目的は、俺がどこまで勇者の強さに近づいているのかの確認と、ユキリンがスキル封印されている状態で、どれほど強いかを確認するためのモノである。

 さすがに国の中で対決すると被害が生まれてしまうので、森の開けた場所で戦う事になった。
 森には木が生えていない場所がある。弟子達と手合わせするために俺が作った場所である。
 美子さんの仕事が休みで、ネネちゃんも連れて見学に来ている。なぜかアイリとマミも見学に来ていた。
「パパがんばれ」と遠くからネネちゃんの応援が聞こえる。

 ユキリンは美子さん製作の服を着ていた。白を基調とした民族衣装のような服である。
 俺は舐められているらしく、彼女は防具を着ていなかった。
 俺は両膝両肘に防具を付けて、頭も鉄で作られた防具を付けていた。

「それじゃあパパさん」とユキリンが言う。
 ユキリンは俺の事をパパさんと呼ぶ。
 ユキリンが石を拾う。
「この石が地面に落ちた時が対決のスタートね」
 ユキリンが石を空に向かって指ではじいた。
 まだ心の準備をしていないのに、石が落下して行く。
 俺は息を吸う。
 
 石が地面に落ちる。

 その瞬間には、俺の目の前にユキリンが立っていた。
 早い。
 ユキリンは、やっぱり俺を舐めていて、まだ剣を抜く気がないらしい。
 ユキリンがパンチしてきた。

 早い。だけど避けれないスピードじゃない。
 顔面に向けられたパンチを俺は避けた。
 彼女のパンチがどれぐらいの威力か試してみたい。
 次のユキリンのパンチを俺は右手で受けた。
 パン、と銃声のような爆音が受けた右手から聞こえた。
 たぶん、まだまだ本気じゃない。
 彼女の拳を俺は握った。
 握った反対の拳からもパンチ。
 それを左手で俺は受けた。さっきよりも強い。
 両手を捕まえた。
 次は足か?
 そう身構えていると頭突きがくる。
 俺は咄嗟にユキリンを突き飛ばして頭突きを回避。

「私の攻撃をあえて受けるのはいいけど、攻撃しないと私は倒せないよ?」
 お前の攻撃力はどれぐらいなんじゃ? と言っているのだろう。
 
 俺は踏み込んだ。
 一瞬で勇者との距離を詰める。
 太ももに向かってキックする。
 勇者は軽々と俺の蹴りを受けた。

 拳と蹴りのやり合いが続く。
 どんどんと彼女も俺も本気モードになっていく。
 本気で殴り合ったら俺達は互角だった。
 
 スキルを使わない=《イコール》殴り合いや斬り合いだと勝手に俺は決めつけていた。
 勇者は俺から距離を取り、瓦礫割りをするように地面を殴った。
 ボコン。
 地面が割れ、砂煙が舞って辺りが見えなくなる。
 そこに銃弾のような小石がピュンピュンと飛んで来た。
 小賢しい、と俺は思う。
 
 砂煙から抜けるために、俺は上空にジャンプした。
 砂煙は確かに抜けた。
 だけど勇者は、それを狙っていたのだ。
 俺より先にジャンプしていた勇者が、俺より上空から岩を落として来た。

 ユキリンは楽しそうに笑っていた。
 
 スキルは使いたくなかったけど、上空から落とされた岩を避けるためにスキルを使わざるえなかった。

「フェニックスの祝福」
 と俺は叫んだ。
 体が燃え上がり、フェニックスの形の炎に体が包まれた。
 俺はフェニックスの形の炎を操り、空を移動する。

 フェニックスの祝福はマミのスキルである。
 
 岩を避け、上空から落下しているユキリンのところへ飛んで行く。
 フェニックスの祝福で攻撃しようとした。
 
 ユキリンは鞘から剣を出した。
 見た目は日本刀に近い。
 だけど、鞘から取り出した剣は漆黒だった。

 コレはヤバい。
 わからんけど、超ヤバい。
 フェニックスの祝福で攻撃するのをやめた。

「私の負け」と地面に降り立った彼女が言う。
「いや、俺の負けだ。俺はスキルを使わずに戦うつもりだったんだ」
「私も剣を鞘から出さずに戦うつもりだった」
「俺の事を斬る気じゃなかったの?」
「ビビらしただけでおます」
 とユキリンが言う。
「つーか、パパさんレベルなんぼよ?」
「327」
「マジっすか。異常者じゃん」
「ユキリンは?」
「140」
「俺達でサリバンは倒せる?」
「わからん」と彼女が言う。
「でも1カ月後なら確実」
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