異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万

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3章 子どもの終わり

第45話 マミの幸福と勇者の目覚め

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 マミにお付き合いしている男性を紹介された。パン屋さんで働く、ダニーという好青年だった。
 あっ、と俺は気づく。
 今まで気づかなかったけど、マミは美しくなっていた。
 赤い髪はツヤツヤになり、肌はスベスベになり、眼差しは大人が持つソレになっていた。
 そして彼女は恥ずかしそうに、照れくさそうに、ダニーを俺に紹介した。

「よかった」と俺は呟いた。
 幸せそうに笑っているマミを見て、俺は本当に良かったと思う。
 出会った時の汚れた少女は、もう目の前にはいない。
 彼女は美しく、たくましく、幸せそうだった。自分の力で幸せを手に入れるだけの力を持っていた。
 
 マミの隣に座るアイリを見た。
 緑髪のアイリが、友の幸せを祝福している。
 急に胸がいっぱいになった。
 よかった、と俺は思う。
 普通の女の子が手に入れる幸福がマミの手の平にあって。
 そして友の幸福を祝福できる女の子にアイリはなれて。
 アイリの手の平にも、普通の女の子の幸福がきっとあって、俺は普通に3人には幸せになってほしかったのだ。
 ……3人には。

「先生、私、この人と結婚するの」
 とマミが言った。
「あぁ」と俺は頷く。
「なんでパパは泣いてるの?」とネネちゃんが尋ねた。
 嬉しいんだ、と俺は答えようとしたけど、泣いている姿を見せるのが恥ずかしくて、照れ臭くて、泣いているのを必死に隠すのが精一杯で、ネネちゃんの質問には答えられなかった。
「痛いの?」
 とネネちゃんが、俺の顔を覗いて来る。
「痛いの痛いの、飛んでいけ」
 と娘が俺の背中をさすって、痛いのを飛ばしてくれる。
「淳君」
 と美子さんが言って、布を渡してくれる。
 俺は、それを受け取り、涙を拭いた。

「なんでマミお姉ちゃんも泣いているの?」
 とネネちゃんが尋ねた。
「マミお姉ちゃんに痛いの、飛んで行った?」
「アイリお姉ちゃんも泣いてる」とネネちゃんがアワアワしている。

 この世界で生きられなかった子ども達が立派な大人になっていく。
 彼女達のそばにいて、よかったと俺は思った。
 美子さんが昔に言っていた事を思い出す。教育は見返りがあるものなのだ。その見返りというのは、その子が幸せになること。
 本当に見返りをもらえた。彼女達の先生になれて良かった。

 それと同時にある事に気付いてしまう。
 1人では幸せになれないという事である。

 マミにはダニーという恋人ができた。アイリにもいつか大切な人ができるだろう。
 俺には美子さんがいて、ネネちゃんがいて、アイリがいて、マミがいて、5年で出会った人達がいる。美子さんにも教え子達がいて、ネネちゃんにも子ども園に友達がいて、アイリとマミにも友達や大切な人がいて、……俺達だけで、この国を捨てて逃げていいのか? 幸せは誰かと一緒に共有するモノなんじゃないか? 
 逃げた先にも敵は現れるだろう。
 逃げて逃げて逃げて、色んな幸福を捨てて、逃げるために俺は強くなった訳ではなかった。
 どんな敵が現れても家族を守るために強くなったのだ。

 ダニーが帰り、後片付けをした後に改めてアイリとマミにテーブルについてもらった。
「美子さんも話を聞いてほしい」と俺は言って、妻にも椅子に座ってもらった。

 ネネちゃんは木で作られたおもちゃで遊んでいた。ベッドで眠る勇者が気になるらしく、チラチラとベッドの方を見ていた。

 俺はサリバン軍がこの国に進行している事を美子さんに話した。

「俺はこの国を守りたい」

 美子さんは下を向いていた。
「……勝算は?」とボソリと妻が尋ねた。
「俺達3人と勇者がいる。逃げた先でサリバン軍に出会うより、今が1番戦力があると思う」
「私も戦いたい」とマミが言った。
「ダニーもダニーの家族もいるから」
「私も戦う」とアイリが言った。
 はぁ、と妻が溜息を漏らす。
「絶対に勝ってよ」
「美子さん達は老紳士のシェルターの中にいてくれ」

「ママ」とネネちゃんが叫んだ。
 娘はベッドを覗き込んでいる。
「女の人が起きてる」
 カーテンの向こう側に、女性が起き上がっているシルエットが見えた。
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