上 下
24 / 56
2章 赤ちゃんと孤児とオークキング

第24話 魔物の場所

しおりを挟む
 3人には新しいスキルの練習をしてもらった。
 門を出てすぐのところ。魔物が入って来ないように堀が作られていた。国全体を堀で囲んでいる。俺達がイメージする国と、こちらの国では規模が違う。1つの国が街1つ分ぐらいの大きさなのだ。街の中心には王都があり、さらに王都は堀で囲まれていた。
 魔王を倒すことで魔物の存在が消える、と信じられている。
 それぞれの国から勇者を召喚して冒険をさせていた。どの国の勇者が魔王を倒せるのかを競っていると聞いたことがある。
 魔王に勝つことができた勇者を召喚した国は政治的に有利な立場になれるのだろう。詳しくは知らない。
 堀の中には綺麗にすんだ水が流れていた。水源は川から持って来ているらしい。目を凝らせば川の中に川魚を見ることができた。

 アイリのプラントグローズは攻守ともに使えるスキルだった。
 彼女はバリアを張るように自分の周りをドーム状に植物を囲んでいた。

 クロスは俺のことを隠蔽した。
「隠蔽」と俺の近くで叫んでいたのに、数分後には「もう無理だ」と言って地面に寝転がった。隠蔽は相当な魔力を使うらしい。ブーストをかけていない状態ではクロス自身を含めて2人を隠蔽するのがやっとだった。しかもスキルを保てるのは5分が限界だった。これは純粋に魔力不足なのもあるだろう。

 マミは岩に向かってファイアーボールを撃っていた。だけど火の玉は狙い位置と違う場所に飛んでいき、木を燃やした。俺はウォーターボールで火を消した。
 30分もしないうちに3人とも魔力不足になったらしく地面にへたり込んだ。

「だいたい新しいスキルの使い方はわかったか?」
 と俺は尋ねた。
 うん、と力なく3人が頷いた。
「先生、私もう森の中には入れません」
 とアイリが言った。
「私も」「俺も」とクロスとマミが言う。
「大丈夫だ。回復するための団子は多めに持って来ている」
 と俺は言って、腰につけた巾着から団子を取り出した。
「わぁーー、これうまいやつ」とクロスが言った。
 女子2人は黙ってパクッと食べた。
 3人が団子を食べて、魔力を回復したらしく元気よく立ち上がった。

「今日の目標は」と俺は言った。「昨日の場所まで行って帰って来ること」
「オークは倒さないの?」とマミが尋ねた。
「無理しなくていい。トラウマになっている昨日の場所に行って帰って来たらいいんだ」と俺は言った。
「ロトム兄ちゃんとシン兄ちゃんの物、なにか残ってるかな?」
 とクロスが言った。
「探そう」とマミが言う。
 コクリ、とアイリも頷いた。
 3人は気丈に振る舞っているけど、昨日仲間が殺されているのだ。
 
 3人の頭を撫でると金箔のような光が降り注いだ。俺の【愛情】のスキルである。効果はステータスアップ。さらに庇護下はステータスの上昇率が2倍になる。心なしか降り注ぐ金箔の光が多いような気がした。

 森の中に入る。
 昨日の出来事がフラッシュバックして体が震えた。もう少しで俺達は死んでいたのだ。
 気丈に振る舞っていた3人も森に入れば口数が減った。
 俺達の事を嘲るように、草木が揺れている。
 魔物の気配を感じるように五感を研ぎ澄ませた。
 辺りを見渡す。
 オークがいない事を確認しながら前に進む。
 俺達は大丈夫である、と自分に言い聞かせた。森に入る勇気はある。まだ冒険者としてやっていける。

 そして昨日の場所まで、やって来た。
「アイリ、隠密を使ってくれ」と俺は言った。
 大きな生物が歩く足音が聞こえたのだ。
「はい」とアイリが答えた。
「みんなもアイリから離れるな」と俺が言う。
 2人がコクリ、と頷く。
 アイリの隠密には許容範囲があるらしい。せいぜい半径2メートル。そこから出てしまうと気配で魔物に気づかれてしまう。

 岩陰に隠れて、足音が聞こた方を見た。
 そこにはオークがいた。
 豚のような醜悪な顔。尖った耳。
 デップリとした上半身は裸で、獣の皮を剥いだ毛皮を下半身に巻いている。
 手には錆びた剣を持っていた。
 そしてネックレスのように、2人の少年の頭部を紐に巻きつけて首からぶら下げていた。
 戦利品として首に巻いているのか? いや、違う。誘きよせるために2人の少年を首に巻いているのだ。それじゃあ誰を誘き寄せるために頭部を巻いているのか? 殺した少年達の仲間である。

「帰るぞ」と俺は言った。
 だけど遅かった。
 クロスが鬼のように怒り、オークを見ていた。
「隠蔽」とクロスがスキルを唱えた。
 目の前にいたはずのクロスがいなくなる。
 咄嗟に俺はクロスがいたところに手を伸ばす。
 でも俺はクロスを触ることができなかった。

 まだまだ残っている枯葉を踏み締める足跡だけが聞こえた。
 クロスは隠蔽を使ってオークに近づいて行った。

 俺はアイリとマミを見た。
 2人は泣き出しそうな顔をして、足音が聞こえる空間を見ていた。
「オークを倒す」と俺は言った。

 クロスは隠密の許容範囲から超えてオークに近づいて行く。
 オークは何かを感じているのか、首を傾げて何もない空間を見ていた。
 
「スラッシュ」とクロスの声が聞こえた。
 オークに不意打ちの斬撃を喰らわしたらしい。
 斬撃後、隠蔽のスキルは解除されてオークの目の前にクロスが出現した。
 しかも不意打ちも致命症になっていない。お腹を切ったけど、錆びた剣はオークの脂肪に阻まれて奥まで入っていなかった。

 オークがヨダレを垂らしてクロスの首を掴もうとした。

「サンダーボルト」と俺は叫んだ。
 
 オークがクロスを掴む前に、俺のサンダーボルトがオークにダメージを与えた。
 サンダーボルトで麻痺するのは10秒ぐらいである

「アイリ、プラントクローズでオークを拘束」と俺が言う。
「はい」とアイリが言う。

「プラントクローズ」と彼女が言うと地面から木の根っこが出てきてオークを拘束していく。

「クロス、今のうちにオークの首にスラッシュを決めろ」と俺は叫んだ。

「スラッシュ」
「スラッシュ」
「スラッシュ」
「スラッシュ」
 とクロスは何度もオークの首に斬撃した。

 何度目かのスラッシュで、オークから蒸気みたいな塊が飛び出してきた。初めて見るモノだった。
 そして、その蒸気は分裂してクロスとアイリと俺へ飛んで来る。

『クロスのレベルが上がりました』
『アイリのレベルが上がりました』
『中本淳のレベルが上がりました』

 女性のような、機械音のような声が脳内から聞こえた。
 レベルが上がったのだ。

 オークが死んでもなお、スラッシュを撃ち続けるクロスの元へ行く。
「クロス」と俺が呼びかけても、彼は斬撃をやめなかった。
 腕を掴んで、彼を止めた。
 クロスは泣きながら俺を見た。
「もうオークは死んでいる」と俺が言った。

 勝手に飛び出した彼を怒るつもりだった。もしかしたらクロスが死んでいたかもしれないのだ。だけど彼の顔を見て、怒る気力を失った。
 その代わり、俺は彼の頭を撫でた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

そよ風と蔑まれている心優しい風魔法使い~弱すぎる風魔法は植物にとって最高です。風の精霊達も彼にべったりのようです~

御峰。
ファンタジー
才能が全てと言われている世界で、両親を亡くしたハウは十歳にハズレ中のハズレ【極小風魔法】を開花した。 後見人の心優しい幼馴染のおじさんおばさんに迷惑をかけまいと仕事を見つけようとするが、弱い才能のため働く場所がなく、冒険者パーティーの荷物持ちになった。 二年間冒険者パーティーから蔑まれながら辛い環境でも感謝の気持ちを忘れず、頑張って働いてきた主人公は、ひょんなことからふくよかなおじさんとぶつかったことから、全てが一変することになる。 ――世界で一番優しい物語が今、始まる。 ・ファンタジーカップ参戦のための作品です。応援して頂けると嬉しいです。ぜひ作品のお気に入りと各話にコメントを頂けると大きな励みになります!

孤児による孤児のための孤児院経営!!! 異世界に転生したけど能力がわかりませんでした

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はフィル 異世界に転生できたんだけど何も能力がないと思っていて7歳まで路上で暮らしてた なぜか両親の記憶がなくて何とか生きてきたけど、とうとう能力についてわかることになった 孤児として暮らしていたため孤児の苦しみがわかったので孤児院を作ることから始めます さあ、チートの時間だ

覚えた魔法は異世界召喚魔法!?

もぐら
ファンタジー
いつもと同じ日常を過ごしていた主人公は、クラスごと異世界に飛ばされてしまった。 他のクラスメイトは、チートと呼ばれるような力を手に入れているなか主人公は能力の使い方が分からなく弱者と呼ばれていた。しかし、それは常識では考えられない能力だった! 素人なもので展開遅くてすいません。 9話くらいからメインに入っていきます。 ノベルバでも同じタイトルでだしています。

異世界転移して5分で帰らされた帰宅部 帰宅魔法で現世と異世界を行ったり来たり

細波みずき
ファンタジー
異世界転移して5分で帰らされた男、赤羽。家に帰るとテレビから第4次世界大戦の発令のニュースが飛び込む。第3次すらまだですけど!? チートスキル「帰宅」で現世と異世界を行ったり来たり!? 「帰宅」で世界を救え!

異世界でチート能力貰えるそうなので、のんびり牧場生活(+α)でも楽しみます

ユーリ
ファンタジー
仕事帰り。毎日のように続く多忙ぶりにフラフラしていたら突然訪れる衝撃。 何が起こったのか分からないうちに意識を失くし、聞き覚えのない声に起こされた。 生命を司るという女神に、自分が死んだことを聞かされ、別の世界での過ごし方を聞かれ、それに答える そして気がつけば、広大な牧場を経営していた ※不定期更新。1話ずつ完成したら更新して行きます。 7/5誤字脱字確認中。気づいた箇所あればお知らせください。 5/11 お気に入り登録100人!ありがとうございます! 8/1 お気に入り登録200人!ありがとうございます!

処理中です...