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2章 赤ちゃんと孤児とオークキング

第17話 少年少女

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 この状況を打開する策があるのか確認するために、ステータス画面を発動させた。
 目の前にステータス画面が表示される。

『中本淳《なかもとじゅん》 31歳』
『称号 パパは戦士』
『レベル5』

 パパは戦士ってなんだよ? と俺は思う。
 そう思ったことで時間が無いのに詳細を開いてしまった。
     
『パパになること、家族を守ること、帰宅を切に願うこと、の3つの条件を満たすことで与えられる称号』

 新しく手に入れたパッシブスキルというものを確認したい。
 パッシブスキルってどういう意味だろう? 常に発動されるみたいな意味だっけ?

(パパは戦士のパッシブスキル)
『愛情……頭を撫でることで一定時間のステータスが上がる』
『忍耐と柔軟性……自身の体力と防御とスピードがアップする』
『家事……家の掃除が得意になる』
『サポーター……そばにいることで子どもの集中力がアップする』
『経済……ドロップアイテムが高価になる』

 パパは戦士のパッシブスキルを見て、冒険者達を助けてあげられそうにないと思った。
 俺の体力と防御とスピードが強化されたのは有難い。
 有難いけど、オークを倒して誰かを守るまでには至らないだろう。

 もしかしたら『愛情』も戦闘で使えるかもしれない。だけど、どれだけステータスがアップするかはわからない。
 嬉々として冒険者に向かっているオークAの後ろ姿を見た。
 
 ステータス画面に目を戻す。
 まだ何か見落としているかもしれない。

(スキル)
『ファイアーボール』
『ウォーターボール』
『ウインドブレード』
『アーススプリッター』
『サンダーボルト』

 サンダーボルト?
 使ったことがない技が1つだけ含まれていた。

 ファイアーボルトは得意技だから、よく使う。
 ウォーターボールは敵に使ってもダメージが少ない。だからお風呂の水を溜める時に使う。
 残りの2つはたまに使う。
 だけどサンダーボルトは使ったことがなかった。
 もともと使えたのか、それともどこかのタイミングで習得したのか?
 

 俺は嬉々として走っているオークを見た。サンダーボルトがあれば冒険者達を助けられるのか?
 少なくともオークに追いかけられても俺の方が早い。逃げ切る事は出来る。
 俺はオークAを後ろから追いかけた。

 人を助ける時の心得。
 自分を犠牲にしない。助けられないと思ったら悪いけど、すぐに逃げさせてもらう。一緒に死ぬ意味もないし、義理もないのだ。

 パッシブスキル『忍耐と柔軟性』のおかげで走るスピードが上がっていた。
 前までは全速力ですら自転車に負けていた。だけど今はバイクすらも追い越せそうだった。
 こんなに能力が飛躍するなら、ステータス画面が異世界に来た時から発動できて、魔王を倒すために訓練した勇者はどれほどの力を持っているんだろうか? 
 少なくてもオークを倒せないということはないだろう。

 オークは巨大な足でドシドシと地面を揺らしながら走っていた。
 追いかけられていた時はパニックでわからなかったけど、オークのスピードは遅い。もしかしたら俺が早くなっただけかもしれない。

 サンダーボルトを出そうと思った。
 だけど射程距離がよくわからん。
 もう少し近づいた方がいいのか?

 もたもたと俺がしているせいでオークAは冒険者達に辿り付いてしまった。

 そこは血肉の匂いが広がっていた。
 臓器が散らばり、頭部が2つ転がっていた。
 2つの頭部は、まだ小学校を卒業したばかりのような少年達の頭部だった。
 オークBは少年の腑《はらわた》をうどんのように啜っていた。口周りどころか、オークBは全身血まみれだった。少年達の血だろう。

 うっ、と俺は吐きそうになる。
 吐き気を食い止めて、生き残りの冒険者達を見た。
 杖を握った少女が2人。
 震えながら剣を握る少年が1人。
 3人とも子どもだった。
 小学校を出たばかり。あるいは小学生の高学年ぐらいの年齢。
 孤児だと思う。
 お金を稼ぐために冒険者をやる孤児は多い。
 なんで逃げねぇーんだよ。みんながバラバラの方向に逃げたら全滅は免れる。
 そう思った。

 3人は逃げないんじゃなく、逃げられないのだ。
 片足を折られていた。変な方向に足が曲がっている。
 オークBは冒険者が逃げないように足を折っていた。

 それなのに3人は震えながら立って、オークと向き合っていた。

 そして新たなオークの登場で、必死に立って抗おうとしていた3人が地面に倒れた。

 大人の俺が少年少女を置いて逃げれないと思った。
 もしオークを倒せなくても、子ども達を逃してあげなくちゃ、と俺は思った。

 美子さんとネネちゃんの顔が頭に浮かんだ。
 家に帰ってネネちゃんを抱きしめたい、と思う。
 2人に愛してる、って伝えたい。
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