異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万

文字の大きさ
上 下
16 / 56
2章 赤ちゃんと孤児とオークキング

第16話 ステータス画面が発動できるようになりました

しおりを挟む
 俺が草むらに隠れていることを認識してオークが近づいて来た。
 匂いでバレた?
 ヤバい。
 手を伸ばせばオークの足が届く距離だった。
 逃げ切れるイメージができない。
 心臓の音がドクンドクンと鳴った。
 死ぬかもしれない、と思った瞬間に冷や汗が身体中から流れる。
 家には妻と娘が待っているのだ。どんな事があっても家に帰らなくてはいけなかった。
 俺は魔力を手に溜めた。
 やられる前にやる。

「ウインドブレード」
 俺は立ち上がり、スキルを叫んだ。

 射程距離が短いものの、殺傷能力があるスキルだった。
 この距離ならオークの首が切れる、と判断した。いや、お願いだからオークの首が切れますように、という願いを込めてスキルを出した。
 風の刃はオークの首に直撃した。
 だけどオークの首には掠り傷が出来ただけだった。
 攻撃したはずなのに、何もなかったように醜い豚はヨダレを垂らして俺を見下ろしている。

 レベルが違う。
 ゲームの序盤にいるけど倒すことができないボスクラスの敵だった。
 俺は判断を間違えたんだろうか? 逃げるべきだったんだろうか? 
 もしかしたら俺はオークに見つかった時点で詰んでいたのかもしれない。

 美子さんの顔が頭に浮かんだ。ネネちゃんの顔が頭に浮かんだ。
 俺は2人がいる家に帰らないといけなかった。だけど俺のスキルではオークを倒すことができない。

「無理だ」と俺は呟いた。
 これから醜悪な豚に殺される。おしっこを漏らしてしまいそうだった。
  
 オークはプシューと大きな鼻息を出した。
 
 逃げなきゃ、と俺は思った。
 生きて家に帰らなくてはいけない。
 俺はオークを背にして走ろうとした。
 だけど逃してくれなかった。
 醜悪な魔物が俺の腕を掴んだ。

「ぎゃー」と俺は叫んだ。
 掴まれた腕の骨がぐちゃぐちゃに折れたのだ。

 ただただ帰りたかった。
 俺がいなくなったら美子さんは大変だろう。どうやって生きて行くんだろうか? 美子さんの悲しむ顔が頭に浮かんだ。
 それにネネちゃんはパパを知らないで大きくなってしまう。
 帰らなくちゃ。
 俺は家に帰って、赤ちゃんのミルク臭い匂いを嗅がなくちゃいけないのだ。
 帰らなくちゃ。
 帰らなくちゃ。
 帰らなくちゃ。

 オークが汚くて大きな口を開けた。俺を食べる気なんだろう。

「ウインドブレード」と俺は叫んだ。
 風の刃は俺の腕を切った。
 俺はオークに捕まれていた腕を切り離したのだ。
 痛い。
 痛い。
 痛い。
 痛い。
 血が溢れ出している。
 帰らなくちゃ。
 痛い。

『3つの条件がクリアしたので【パパは戦士】の称号が与えられます』
 と脳内で声が聞こえた。
 初めて聞く女性のような機械的な声だった。
 だけど俺はそれどころではなかった。
 腕を切り落としてオークから逃げようとしていた。
 オークが餌《おれ》に手を伸ばす。
 このままでは捕まる。

『【パパは戦士】の称号を獲得したことで、パッシブスキル【愛情】【忍耐と柔軟性】【家事】【サポーター】【経済力】が手に入りました』

 オークの手が俺を掴もうとした。
 だけどギリギリのところで逃れた。
 俺の体に変化が起きていた。
 体がさっきよりも軽かった。

『ステータス画面が発動できるようになりました』
 と女性のような声が脳内に響く。
 
 俺は脳内に響く声を聞きながら走った。
 ドシドシ、と後ろからオークが追いかけて来ている。
 走りながら俺は腰につけた巾着に手を突っ込んで団子を掴んだ。
 そして口に入れた。
 切り落としたはずの手が復元していく。
 逃げ切れる、と俺は思った。
 家に帰ることができる。また美子さんやネネちゃんに会うことができるのだ。
 俺は必死に走った。
 醜悪な豚が二本足でドドドドドと俺を追いかけて来ていた。

 オークは足を止めた。
 魔物が俺を餌にすることを諦めらしい。
 オークは方向転換をして、別の方向に向かって走り始めた。
 ドドドドド、とオークが走って遠くに離れて行く。

「助けてくれ」
 どこかで誰かの叫び声が聞こえた。
 
 俺は足を止めて、オークが向かった先を見た。
 4人の冒険者パーティが別のオークと戦っていた。
 冒険者パーティが戦っているオークのことを仮にオークBと呼ぶ。
 俺を追いかけていたのを仮にオークAと呼ぶ。
 冒険者パーティは劣勢で、誰かの肉片が飛び散っていた。
 もしかしたら、さっきまで5人か6人パーティだったのかもしれない。
 1人の冒険者がオークBに頭を鷲掴みにされていた。
 そして「助けてくれ」と仲間に向かって叫んでいた。
 いやいやいや助けられへんがな、と仲間も後退っている。
 有名なヤンキーに絡まれた小学生みたいになっている。
 そこにオークAが走って向かっている。

 このまま逃げたら俺は助かる。
 俺には家族がいる。
 家族は俺の帰りを待っているのだ。
 だから絶対に死ねないのだ。
 絶対に勇者を気取るな、と心の中で念じた。
 俺は弱い日本人である。
 毎日せっせと冒険者稼業をして家族が生活するだけの金額を稼ぐのがやっとなのだ。
 俺に誰かを助ける力は無い。
 
 だけど俺は、そこから逃げることが出来なかった。
 もしかしたら彼等を助けることが出来るスキルがあるかもしれない。そう思って俺はステータス画面を開いた。  
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?

伊東 丘多
ファンタジー
ジャストキルでしか、手に入らないレアな石を取るために冒険します 小さな少年が、独自の方法でスキルアップをして強くなっていく。 そして、田舎の町から王都へ向かいます 登場人物の名前と色 グラン デディーリエ(義母の名字) 8才 若草色の髪 ブルーグリーンの目 アルフ 実父 アダマス 母 エンジュ ミライト 13才 グランの義理姉 桃色の髪 ブルーの瞳 ユーディア ミライト 17才 グランの義理姉 濃い赤紫の髪 ブルーの瞳 コンティ ミライト 7才 グランの義理の弟 フォンシル コンドーラル ベージュ 11才皇太子 ピーター サイマルト 近衛兵 皇太子付き アダマゼイン 魔王 目が透明 ガーゼル 魔王の側近 女の子 ジャスパー フロー  食堂宿の人 宝石の名前関係をもじってます。 色とかもあわせて。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

転生貴族可愛い弟妹連れて開墾します!~弟妹は俺が育てる!~

桜月雪兎
ファンタジー
祖父に勘当された叔父の襲撃を受け、カイト・ランドール伯爵令息は幼い弟妹と幾人かの使用人たちを連れて領地の奥にある魔の森の隠れ家に逃げ込んだ。 両親は殺され、屋敷と人の住まう領地を乗っ取られてしまった。 しかし、カイトには前世の記憶が残っており、それを活用して魔の森の開墾をすることにした。 幼い弟妹をしっかりと育て、ランドール伯爵家を取り戻すために。

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

処理中です...