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2章 赤ちゃんと孤児とオークキング
第15話 逆カタルシスの予感
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『ママさんパパさんワタチ、顔を上げれるようになったんですよ』と出来る事が増えて嬉しそうにうつ伏せの状態で顔を上げ、ヨダレをダラ~と垂らしてネネちゃんが笑う。
その状態のまま、両手両足を上げて飛行機のポーズをした。
可愛すぎて堪らんのですよ。もう存在が可愛すぎる。
なんなのですか、そのポーズ。パパを誘っているんですか? 抱っこしてギューしちゃう。「もう2度と離さないから」とか言っちゃう。そんな事をしたらウゥーとかアァーとか叫ばれる。
わかったよ、とネネちゃんを床にリリースすると、両手両足を上げて飛行機のポーズ。
キャワイイ。
「写真でこの一瞬を撮影しといて」
と俺が言う。
美子さんが笑う。
「この世界にカメラなんてモノは無いわよ」
「クソ。俺にはカメラが必要なんだ」
「もうそろそろ仕事に行かないといけないんじゃない?」
「わかってる」
と俺は言って、凹む。
仕事が嫌い嫌い大っ嫌い、ずっとネネちゃんとイチャイチャしときたい俺はこの世界で生きていくために仕方なく立ち上がる。
「行って来るね」
と俺が言う。
「玄関までお見送りする」
と美子さんが言った。
そして絶賛飛行機ポーズ中だったネネちゃんを妻が抱っこした。
「いってらっしゃい」と美子さんが言う。
「行って来ます」と俺が言う。
「行ってくるね」と俺がネネちゃんに言う。
そして俺が扉を開けるとパパがどこかに行くことがわかったらしく、今生の別れみたいに赤ちゃんが大泣きを始めた。
「仕事が終わったらパパは帰って来るよ」と美子さんが言った。
「すぐ帰って来るからね」と俺は手を振る。
ネネちゃんの泣き声に後ろ髪を引っ張られて、俺は冒険者ギルドに向かった。
冒険者ギルドに張り出されているクエストのほとんどがオークの討伐依頼になっている。
仕方がないのでオーク討伐のクエストを持って受付に行った。
「オークの討伐依頼ばっかりなんですね?」
すっかり顔なじみになった受付のお姉さんに俺は言った。名前は知らない。胸元に名前が書かれたバッチが付いている訳でもないのだ。
金髪の髪をショートカットにした目がクリクリした可愛らしい二十歳ぐらいの女の子である。
「森の奥深くにオークキングが生まれたらしく、大量発生しちゃっているんですよ」と困ったように受付のお姉さんが言った。
「オークってどんな魔物なんですか?」
オークというのは豚の顔をした二足歩行の魔物であることは知っていた。だけど俺の知識が合っているのか擦り合わせとかないといけないのだ。
「オークというのはエルフ族が闇落ちした魔物であると言われています」
と受付のお姉さんが言った。
オークとエルフが俺には結びつかなかった。
「エルフの特徴的な尖った耳が付いています。肌はどす黒く、顔は醜悪です。豚のような顔をしています」
「弱点はありますか?」
「弱点というより注意事項ならあります。近づかないでください。力が強いので捕まると千切られます」
千切られる、と俺は驚く。
体を千切られるのを想像した。
「あ、そうだ」と受付のお姉さんが言った。「もしこの国にオークキングが迫って来たら冒険者ギルドに所属する者はオークキングの討伐に向かってもらいます」
強制レイドバトルがあるのか、と俺は驚愕する。俺めっちゃ弱いよ。役に立たんよ。未参加にしてくれないかな、と俺は思う。
今日も仕事に行って帰って来れるのか、不安を抱えているぐらいなのだ。
「ニホンジンだから大丈夫ですよね」と受付のお姉さんは言った。
勇者召喚されるのは日本人ばかり。勇者と言えば日本人。
そして俺も日本人である。
だけど俺は残念な日本人だった。
ステータス画面を発現できなかったのだ。成長しない日本人なのである。
美子さんのミルクで強くなったけど、それは多少のことである。
「アイツ、ニホンジンだぜ」と誰かが言った。今だに俺の事を強いと思っている奴等がいる。
あんな奴が強い訳がねぇー、と思われて、強いところを見せて、まさかアイツがあんなに強かったのか、とカタルシスになるはずなのに、今の俺の現状は逆カタルシス状態だった。強いと思われていて弱いのだ。
そもそも強かったら、こんなとこにいねぇーよ。
ココにいる事が弱さの証明だった。なのに周りは、そんな風には見ない。
不安を抱えて俺は冒険者ギルドを出た。
森の中。草むらに隠れて息を潜める。魔物の通り道が出来ていた。何度も通ったらしく、足跡で柔らかい土が固められていた。草木も折られている。川辺が近くにある。水を飲むために何度も通ったのだろう。
この観察眼は、弱いからこそ養われたモノである。
強かったら出会い頭に殺せばいいのだ。
俺は弱いから不意打ちの先制攻撃をして、生きて帰るために勝率を上げなくてはいけなかった。
草むらに隠れて待っているとソイツはやって来た。2メートルはある巨漢。歩くたびにズシン、ズシンと地面が揺れた。
今まで見たどんな魔物よりも大きかった。糞尿の匂いがした。ハエがたかっている。
近づいたら千切られる、と受付のお姉さんは言った。だけどお近づきになりたいとは到底思えない。
こんな巨大な魔物をどうやって倒すんだろうか?
家にいるネネちゃんと美子さんの事を考えた。2人の笑顔が浮かぶ。どんな事があっても家に帰らないといけない。
今日は観察だけにしよう。
冒険者ギルドではオークの討伐のクエストしか今はない。生活していくには、いつかオークを倒さないといけなかった。
情報ではオークキングが出現したので、オークが大量発生している。群れで行動する魔物じゃないと繁殖は進まない。
はぐれオークは、群から爪弾きにされたか、あるいはバカで群れから迷ってしまったのか。
それとも、と俺は考える。
スズメバチやアリのように食料を探して群れに帰る習性があるのか。
オークの食料は何なのか?
手に何かを持っていて、オークは歩きながら食べていた。
何を食べているんだろう?
草むらの中で目を凝らして、オークが食べているモノを見た。それは肉だった。ケンタッキーのようにモグモグと食べていた。
オークが持っているのは人間の腕だった。
ブヒブヒ、とオークの鼻が動いた。
そして草むらに隠れている俺と目が合った。
ヤバい、バレた。
その状態のまま、両手両足を上げて飛行機のポーズをした。
可愛すぎて堪らんのですよ。もう存在が可愛すぎる。
なんなのですか、そのポーズ。パパを誘っているんですか? 抱っこしてギューしちゃう。「もう2度と離さないから」とか言っちゃう。そんな事をしたらウゥーとかアァーとか叫ばれる。
わかったよ、とネネちゃんを床にリリースすると、両手両足を上げて飛行機のポーズ。
キャワイイ。
「写真でこの一瞬を撮影しといて」
と俺が言う。
美子さんが笑う。
「この世界にカメラなんてモノは無いわよ」
「クソ。俺にはカメラが必要なんだ」
「もうそろそろ仕事に行かないといけないんじゃない?」
「わかってる」
と俺は言って、凹む。
仕事が嫌い嫌い大っ嫌い、ずっとネネちゃんとイチャイチャしときたい俺はこの世界で生きていくために仕方なく立ち上がる。
「行って来るね」
と俺が言う。
「玄関までお見送りする」
と美子さんが言った。
そして絶賛飛行機ポーズ中だったネネちゃんを妻が抱っこした。
「いってらっしゃい」と美子さんが言う。
「行って来ます」と俺が言う。
「行ってくるね」と俺がネネちゃんに言う。
そして俺が扉を開けるとパパがどこかに行くことがわかったらしく、今生の別れみたいに赤ちゃんが大泣きを始めた。
「仕事が終わったらパパは帰って来るよ」と美子さんが言った。
「すぐ帰って来るからね」と俺は手を振る。
ネネちゃんの泣き声に後ろ髪を引っ張られて、俺は冒険者ギルドに向かった。
冒険者ギルドに張り出されているクエストのほとんどがオークの討伐依頼になっている。
仕方がないのでオーク討伐のクエストを持って受付に行った。
「オークの討伐依頼ばっかりなんですね?」
すっかり顔なじみになった受付のお姉さんに俺は言った。名前は知らない。胸元に名前が書かれたバッチが付いている訳でもないのだ。
金髪の髪をショートカットにした目がクリクリした可愛らしい二十歳ぐらいの女の子である。
「森の奥深くにオークキングが生まれたらしく、大量発生しちゃっているんですよ」と困ったように受付のお姉さんが言った。
「オークってどんな魔物なんですか?」
オークというのは豚の顔をした二足歩行の魔物であることは知っていた。だけど俺の知識が合っているのか擦り合わせとかないといけないのだ。
「オークというのはエルフ族が闇落ちした魔物であると言われています」
と受付のお姉さんが言った。
オークとエルフが俺には結びつかなかった。
「エルフの特徴的な尖った耳が付いています。肌はどす黒く、顔は醜悪です。豚のような顔をしています」
「弱点はありますか?」
「弱点というより注意事項ならあります。近づかないでください。力が強いので捕まると千切られます」
千切られる、と俺は驚く。
体を千切られるのを想像した。
「あ、そうだ」と受付のお姉さんが言った。「もしこの国にオークキングが迫って来たら冒険者ギルドに所属する者はオークキングの討伐に向かってもらいます」
強制レイドバトルがあるのか、と俺は驚愕する。俺めっちゃ弱いよ。役に立たんよ。未参加にしてくれないかな、と俺は思う。
今日も仕事に行って帰って来れるのか、不安を抱えているぐらいなのだ。
「ニホンジンだから大丈夫ですよね」と受付のお姉さんは言った。
勇者召喚されるのは日本人ばかり。勇者と言えば日本人。
そして俺も日本人である。
だけど俺は残念な日本人だった。
ステータス画面を発現できなかったのだ。成長しない日本人なのである。
美子さんのミルクで強くなったけど、それは多少のことである。
「アイツ、ニホンジンだぜ」と誰かが言った。今だに俺の事を強いと思っている奴等がいる。
あんな奴が強い訳がねぇー、と思われて、強いところを見せて、まさかアイツがあんなに強かったのか、とカタルシスになるはずなのに、今の俺の現状は逆カタルシス状態だった。強いと思われていて弱いのだ。
そもそも強かったら、こんなとこにいねぇーよ。
ココにいる事が弱さの証明だった。なのに周りは、そんな風には見ない。
不安を抱えて俺は冒険者ギルドを出た。
森の中。草むらに隠れて息を潜める。魔物の通り道が出来ていた。何度も通ったらしく、足跡で柔らかい土が固められていた。草木も折られている。川辺が近くにある。水を飲むために何度も通ったのだろう。
この観察眼は、弱いからこそ養われたモノである。
強かったら出会い頭に殺せばいいのだ。
俺は弱いから不意打ちの先制攻撃をして、生きて帰るために勝率を上げなくてはいけなかった。
草むらに隠れて待っているとソイツはやって来た。2メートルはある巨漢。歩くたびにズシン、ズシンと地面が揺れた。
今まで見たどんな魔物よりも大きかった。糞尿の匂いがした。ハエがたかっている。
近づいたら千切られる、と受付のお姉さんは言った。だけどお近づきになりたいとは到底思えない。
こんな巨大な魔物をどうやって倒すんだろうか?
家にいるネネちゃんと美子さんの事を考えた。2人の笑顔が浮かぶ。どんな事があっても家に帰らないといけない。
今日は観察だけにしよう。
冒険者ギルドではオークの討伐のクエストしか今はない。生活していくには、いつかオークを倒さないといけなかった。
情報ではオークキングが出現したので、オークが大量発生している。群れで行動する魔物じゃないと繁殖は進まない。
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それとも、と俺は考える。
スズメバチやアリのように食料を探して群れに帰る習性があるのか。
オークの食料は何なのか?
手に何かを持っていて、オークは歩きながら食べていた。
何を食べているんだろう?
草むらの中で目を凝らして、オークが食べているモノを見た。それは肉だった。ケンタッキーのようにモグモグと食べていた。
オークが持っているのは人間の腕だった。
ブヒブヒ、とオークの鼻が動いた。
そして草むらに隠れている俺と目が合った。
ヤバい、バレた。
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