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1章 パパになる

第10話 必ず戻って来る。だから隠れといてくれ

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 半日ぐらい歩いた。
 何度か休憩を取って、3つ持って来た水袋を全て空にして川で補充した。もし川が見つからなかったら魔法で水を補給するつもりだった。
 ネネちゃんは妻が抱っこしている。
 魔物が現れた時に俺が戦わなくてはいけなかったから、赤ちゃんの抱っこを代わることはできなかった。

「赤ちゃんって何でこんなに可愛いんだろう?」と俺は尋ねた。
 尋ねたっていうか、アクビをしているネネちゃんが可愛いすぎて、心の声が漏れてしまった。
「親に守ってもらうために赤ちゃんは可愛いのよ」と美子さんが答えた。
「可愛いのも生存本能なの?」
 と俺は首を傾げた。
「そうよ」と彼女が答えた。
「赤ちゃんを守れば俺もパパになれるんだろうか?」と俺は尋ねた。
 美子さんはオッパイをあげることでママになったように思う。体を変化させてママになったのだ。
 俺はオッパイが出ない。だから父親の証がない。
「淳君はすでにネネちゃんのパパよ」
 と美子さんが言った。


 歩いていると馬車が盗賊に襲われているのを発見した。
 俺達は木々に隠れて盗賊からは見えない位置にいた。
 もしこれがネット小説とかで読まれるような俺TUEEEE小説なら、きっと簡単に盗賊を倒して助けた人から感謝されるのだろう。そして有益な情報だったりアイテムを貰ったりするんだろう。
 だけど俺は助ける気はなかった。
 俺が正義のヒーローぶって襲われた人を助けたら、家族を危険にさらすかもしれないのだ。
 もしも俺が殺されたら誰が彼女達を隣国まで護衛するのだろうか?
 それに俺が正義のヒーローぶったことで妻とネネちゃんまで盗賊に見つかって殺さる可能性もあるのだ。
 目の前に助けを求めている人がいても、自分の家族を天秤にかけたら助けてあげられなかった。
 妻が大切だった。ネネちゃんが大切だった。
 ゆっくりと音を立てないように盗賊から離れて行く。
 
 その時、「オギャー、オギャー」とネネちゃんが泣き始めた。
 美子さんを見ると泣き出しそうな顔をしている。

「誰かいるのか?」と盗賊の声がする。「見て来い」
 1人の盗賊がコチラに向かって来た。
 家族を守るために俺は考えた。
 走って逃げた場合について。
 もう考えたというよりも映像が頭に浮かんだ。妻はネネちゃんを抱えている。大人の男には簡単に追いつかれてしまうだろう。盗賊は剣を持っていた。
 妻が盗賊に背中から斬られる映像が頭に浮かんだ。
 もしかしたら剣だけではなく、盗賊は魔法攻撃もできるかもしれない。
 先制攻撃をした方が、家族が生き残れる可能性は高いのか?
 盗賊は5人いた。

「必ず戻って来る。だから隠れといてくれ」
 と俺は言った。
 襲われている人を助けるためじゃなく、家族を守るために戦うことを決意した。
「どうするの?」
 と不安そうに妻が尋ねた。
 ネネちゃんはオギャーオギャーと泣き叫んでいる。
「戦う」と俺は言った。

 俺は木の陰から出た。そしてコチラに向かって来ていた盗賊に手をかざした。
 一瞬、人殺しをすることを躊躇《ためら》った。だけど躊躇ったのは、ほんの一瞬だった。ココで俺が盗賊を倒さないと妻とネネちゃんの命を危険にさらす。

「ファイアーボール」
 と俺は叫んだ。
 手から炎が飛んだ。コチラに向かって来ていた人間が燃え上がる。
 今までにない火力が俺の手の平から放出した。美子さんのオッパイを飲んだことでスーパーパワーが出たのかもしれない。

 ファイアーボールをくらった盗賊は炎を消すために地面をジタバタと転げ回った。
「助けてくれ」と声にならない声で叫んでいる。まるで地獄の所業《しょぎょう》だった。

 服の焦げた匂い。それと同時に人間の肉が焼けた匂いがした。人間の肉でも焼肉を焼いた時と同じような香ばしい匂いがした。
 いつもなら次の魔法を出すまでにアイドリングタイムが生じる。
 だけど溢れ出す魔力のおかげで、一瞬で魔力が手に溜まった。

 残り4人の盗賊は怯えながらコチラを見ていた。まるでお化けと出会った時のような表情だった。仲間が助けてくれ、と言いながら燃え上がっているのだ。
 燃えていた盗賊は叫ばなくなり、黒コゲの状態で動かなくなった。

「ファイアーボール」と俺は叫んだ。
 俺の手から炎が飛び出す。
 そして1人の盗賊を炎上させた。
 盗賊は体に付いた炎を消すために地面をバタバタと転げ回った。そして仲間に「助けてくれ」と手を伸ばした。
 それを見た他の盗賊達は、走って逃げて行く。
 追いかけるつもりはなかった。逃げてくれるのなら逃げてくれた方が戦わなくて済むから有難い。

 襲われていた人達は全員で4人。護衛の冒険者らしき男性が2人に、老夫婦が2人。
 そのうち冒険者1人とマダムが怪我をしていた。助かったはずなのに4人がコチラを見て怯えていた。
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