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1章 パパになる
第1話 女の子を拾う
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俺達は夫婦で異世界にやって来た。
旅行でフラッとやって来たんじゃなくて、気づいた時には異世界に転移していたのだ。
王様の手によって魔王を倒すために日本から召喚された。
だけど俺達には勇者の資質がなかった。
勇者になる者はステータス画面というモノが目の前に表示できるらしい。そしてゲームのようにレベルが上がるらしいのだ。
魔物を倒せば倒すほど勇者は強くなる。そして魔王を倒す力を得ることができるらしいのだ。
俺は初級魔法しか使えなかった。そして、それ以上の成長はなかった。
妻は魔法を使えなかった。のちにユニークスキルを持っていることに気づくのだけど、召喚されたばかりの当初は何の能力も無いと思われていた。
勇者の資質が無いからという理由で、俺達は知らない土地に放り出された。怒りを通り越して呆れみたいな感情を抱いた。
それなりに俺達は日本でうまくやっていたのだ。どこか別の場所に移住したい、と思わない程度に。
それなのに勝手に召喚して、不必要だから放り出す、ってどうなってんだよ。
子どもはいなかったけど夫婦の仲は良かった。妻の美子《みこ》さんとは俺が20歳の時に出会った。当時の彼女は25歳だった。結婚したのが、その3年後である。
子どもができなくて、体外受精も行った。
その当時、体外受精は保険適用外でお金がかかった。俺達が独身時代に貯めていたお金は全て費やした。
もちろん子どもができない体かどうかも調べた。2人に異常は見当たらない。見当たらないのに体外受精をしても子どもは出来なかった。
俺達の貯金が全て無くなった時に体外受精を止めた。それと同時に子どもも諦めた。
彼女に子どもを産ませてあげられないことが、本当に残念に思う。
美子さんも俺に子どもを作ってあげられなくて申し訳なさそうだったけど、俺は別に子どもがいなくてもよかった。
俺は子どもができることに関して不安を感じていた。
ちょっとだけ。いや、結構な不安を感じていた。
子どもが出来てしまったら大きな責任が生じるんじゃないか、と思っていた。
子どもが出来てしまったら死ぬほど辛い仕事からも逃げれないんじゃないか? 自分が下手なことをしたら子どもに影響を与えてしまうんじゃないか? まだまだ俺自身が子どもなので子育てができるか不安だった。
だから彼女が子どもを産めなくて申し訳なさそうにするのは、全然違うというか、本当に出来なかったら出来なくてよかったのだ。
子どもが出来ない、って言われると少しだけ欲しかったなぁ、って思う気持ちも芽生えたけど、それは死ぬまで美子さんの前では口にしないことを決意していた。
城から放り出された時に多少の金貨は渡された。これで召喚したことはチャラってことで、みたいなお金である。
俺達は日本に帰れないことに関して絶望した。
「ここで生きていかなくちゃいけないんだから前を向かなくちゃ」と美子さんは言った。
この人となら地獄でも生きていけるんだろうな。この人と一緒じゃなかったら確実に俺は死んでいた。こんな訳のわからない異世界に連れて来られて帰れないのだ。
拉致られて帰れない。これは国際問題である。
だけど美子さんがいる。
それに言葉も通じた。
みんな日本語を使っているって訳じゃないけど、異世界に召喚されたことで特殊能力を手に入れたらしく、異世界の言葉を聞き取ることができた。それに喋ることもできた。異世界の文字を読むこともできた。
俺達は平民街で家を借りた。木で作られたボロボロの長屋みたいなところである。
俺は冒険者として働くようになり、彼女は編み物や裁縫の先生として仕事をするようになった。彼女は人に教えるのが得意だった。日本にいた頃は小学校の先生をしていた。
異世界では2人が仕事をして生きていくにはやっとだった。
俺は山へ魔物を狩に出かけ、美子さんは川に洗濯にでかけた。なんか昔話みたいな感じだけど洗濯機がコチラの世界にはないのだ。
冒険者の収入源は主に3つある。クエストを達成した時の報酬。そしてアイテムを売却した時の手にするお金。そして犯罪者や強力な魔物を倒した時に貰える賞金。
ゴブリンの群れの討伐依頼があったので、俺はその依頼を受けていた。依頼期間は1ヶ月だった。
街は魔物が入って来ないように塀で囲まれ、門が設置されていた。
ゴブリンの群れは、森に小さなコロニーを作っていた。
討伐の依頼を出したのは商人ギルドらしい。街を行き来している商人が通る場所にゴブリンが出るらしいのだ。誰かが困れば依頼が発生する。
1日に1匹から2匹、コロニーから離れたゴブリンを倒せば1ヶ月以内には全滅させることができた。倒したゴブリンの左耳を切り取り、心臓をえぐり出す。
左耳は討伐の証拠として切り取らなくてはいけなかった。そして心臓は、空気に触れた瞬間に硬化するのだ。硬化した心臓は魔石と言われるモノになる。魔力が含まれた結晶になるのだ。売却することができるアイテムである。
ゴブリンのコロニーの場所を俺は把握していた。
寒い季節なのに森に入ると夏休みの匂いがした。小さい時にカブトムシを取りに父親に連れて行ってもらった山の匂い。歩くたびに枯葉を踏みしめる音がした。
辺りを警戒しながら一歩ずつ慎重に森の奥に進んだ。
木々に隠れた獣が俺を警戒している。
魔物が後ろから襲ってきそうで腰に付けている小刀を握った。
木々が風で揺れるたびに、心臓が大きく鳴った。
俺は魔物を倒したくなかった。怖いし、気持ち悪いし、ちょっと気を抜くと自分が殺されてしまうのだ。
冒険者の仕事は嫌いだった。
だけど生きて行くためには仕事をするしかなかった。
森の中を歩いていると竹のように中が空洞になっている植物が茂った場所に出た。
ザザザ、という竹のような植物の葉音。
何かが光っているのを発見する。
罠かもしれない。
だけど、その光に誘われて、恐る恐る俺は光に近づいて行った。
竹のような植物の一部が光っている。
指先でちょこんと触れてみた。
何も起きない。
なんで植物が光っているんだろうか?
俺は小刀を取り出して、光の正体を確認するために植物を切った。
光っていたのは親指ぐらいのサイズの赤ちゃんだった。
赤ちゃんというより、胎児といった方がいいのかもしれない。
まだお母さんのお腹の中に入っていてもおかしくない小さい胎児。
胎児は体を丸めて、米粒のような小さな指を吸っていた。
俺はお宝を手にするように慎重に、胎児を手にした。
胎児は俺の手の上でみるみると大きくなっていった。
ある童話のことが頭を過ぎった。
小さい時から知っている童話と同じシュチュエーションのせいで、摩訶不思議な現象を受け入れてしまっていた。
植物から取り出した赤ちゃんは、小型犬ぐらいのサイズになった。
「オギャー、オギャー」と赤ちゃんが泣き叫ぶ。
「赤ちゃん」と俺は確認するために呟いた。
脆くて小さい生き物が俺の腕の中で必死に泣いていた。
顔も体も真っ赤で、文字通りに赤ちゃんだった。
生きてますよ。
産まれてきましたよ。
赤ちゃんの泣き声は、そんな風に聞こえた。
「そうか」と俺は納得した。
この子に会うために俺は異世界に召喚されたのだ。
この子に会うために今まで俺は生きてきたのだ。
俺は赤ちゃんと出会って、そう思った。
辺りを見渡す。
赤ちゃんの泣き声で魔物を引き寄せていないか警戒した。
とにかく赤ちゃんを連れて美子さんの元へ帰ろう。
旅行でフラッとやって来たんじゃなくて、気づいた時には異世界に転移していたのだ。
王様の手によって魔王を倒すために日本から召喚された。
だけど俺達には勇者の資質がなかった。
勇者になる者はステータス画面というモノが目の前に表示できるらしい。そしてゲームのようにレベルが上がるらしいのだ。
魔物を倒せば倒すほど勇者は強くなる。そして魔王を倒す力を得ることができるらしいのだ。
俺は初級魔法しか使えなかった。そして、それ以上の成長はなかった。
妻は魔法を使えなかった。のちにユニークスキルを持っていることに気づくのだけど、召喚されたばかりの当初は何の能力も無いと思われていた。
勇者の資質が無いからという理由で、俺達は知らない土地に放り出された。怒りを通り越して呆れみたいな感情を抱いた。
それなりに俺達は日本でうまくやっていたのだ。どこか別の場所に移住したい、と思わない程度に。
それなのに勝手に召喚して、不必要だから放り出す、ってどうなってんだよ。
子どもはいなかったけど夫婦の仲は良かった。妻の美子《みこ》さんとは俺が20歳の時に出会った。当時の彼女は25歳だった。結婚したのが、その3年後である。
子どもができなくて、体外受精も行った。
その当時、体外受精は保険適用外でお金がかかった。俺達が独身時代に貯めていたお金は全て費やした。
もちろん子どもができない体かどうかも調べた。2人に異常は見当たらない。見当たらないのに体外受精をしても子どもは出来なかった。
俺達の貯金が全て無くなった時に体外受精を止めた。それと同時に子どもも諦めた。
彼女に子どもを産ませてあげられないことが、本当に残念に思う。
美子さんも俺に子どもを作ってあげられなくて申し訳なさそうだったけど、俺は別に子どもがいなくてもよかった。
俺は子どもができることに関して不安を感じていた。
ちょっとだけ。いや、結構な不安を感じていた。
子どもが出来てしまったら大きな責任が生じるんじゃないか、と思っていた。
子どもが出来てしまったら死ぬほど辛い仕事からも逃げれないんじゃないか? 自分が下手なことをしたら子どもに影響を与えてしまうんじゃないか? まだまだ俺自身が子どもなので子育てができるか不安だった。
だから彼女が子どもを産めなくて申し訳なさそうにするのは、全然違うというか、本当に出来なかったら出来なくてよかったのだ。
子どもが出来ない、って言われると少しだけ欲しかったなぁ、って思う気持ちも芽生えたけど、それは死ぬまで美子さんの前では口にしないことを決意していた。
城から放り出された時に多少の金貨は渡された。これで召喚したことはチャラってことで、みたいなお金である。
俺達は日本に帰れないことに関して絶望した。
「ここで生きていかなくちゃいけないんだから前を向かなくちゃ」と美子さんは言った。
この人となら地獄でも生きていけるんだろうな。この人と一緒じゃなかったら確実に俺は死んでいた。こんな訳のわからない異世界に連れて来られて帰れないのだ。
拉致られて帰れない。これは国際問題である。
だけど美子さんがいる。
それに言葉も通じた。
みんな日本語を使っているって訳じゃないけど、異世界に召喚されたことで特殊能力を手に入れたらしく、異世界の言葉を聞き取ることができた。それに喋ることもできた。異世界の文字を読むこともできた。
俺達は平民街で家を借りた。木で作られたボロボロの長屋みたいなところである。
俺は冒険者として働くようになり、彼女は編み物や裁縫の先生として仕事をするようになった。彼女は人に教えるのが得意だった。日本にいた頃は小学校の先生をしていた。
異世界では2人が仕事をして生きていくにはやっとだった。
俺は山へ魔物を狩に出かけ、美子さんは川に洗濯にでかけた。なんか昔話みたいな感じだけど洗濯機がコチラの世界にはないのだ。
冒険者の収入源は主に3つある。クエストを達成した時の報酬。そしてアイテムを売却した時の手にするお金。そして犯罪者や強力な魔物を倒した時に貰える賞金。
ゴブリンの群れの討伐依頼があったので、俺はその依頼を受けていた。依頼期間は1ヶ月だった。
街は魔物が入って来ないように塀で囲まれ、門が設置されていた。
ゴブリンの群れは、森に小さなコロニーを作っていた。
討伐の依頼を出したのは商人ギルドらしい。街を行き来している商人が通る場所にゴブリンが出るらしいのだ。誰かが困れば依頼が発生する。
1日に1匹から2匹、コロニーから離れたゴブリンを倒せば1ヶ月以内には全滅させることができた。倒したゴブリンの左耳を切り取り、心臓をえぐり出す。
左耳は討伐の証拠として切り取らなくてはいけなかった。そして心臓は、空気に触れた瞬間に硬化するのだ。硬化した心臓は魔石と言われるモノになる。魔力が含まれた結晶になるのだ。売却することができるアイテムである。
ゴブリンのコロニーの場所を俺は把握していた。
寒い季節なのに森に入ると夏休みの匂いがした。小さい時にカブトムシを取りに父親に連れて行ってもらった山の匂い。歩くたびに枯葉を踏みしめる音がした。
辺りを警戒しながら一歩ずつ慎重に森の奥に進んだ。
木々に隠れた獣が俺を警戒している。
魔物が後ろから襲ってきそうで腰に付けている小刀を握った。
木々が風で揺れるたびに、心臓が大きく鳴った。
俺は魔物を倒したくなかった。怖いし、気持ち悪いし、ちょっと気を抜くと自分が殺されてしまうのだ。
冒険者の仕事は嫌いだった。
だけど生きて行くためには仕事をするしかなかった。
森の中を歩いていると竹のように中が空洞になっている植物が茂った場所に出た。
ザザザ、という竹のような植物の葉音。
何かが光っているのを発見する。
罠かもしれない。
だけど、その光に誘われて、恐る恐る俺は光に近づいて行った。
竹のような植物の一部が光っている。
指先でちょこんと触れてみた。
何も起きない。
なんで植物が光っているんだろうか?
俺は小刀を取り出して、光の正体を確認するために植物を切った。
光っていたのは親指ぐらいのサイズの赤ちゃんだった。
赤ちゃんというより、胎児といった方がいいのかもしれない。
まだお母さんのお腹の中に入っていてもおかしくない小さい胎児。
胎児は体を丸めて、米粒のような小さな指を吸っていた。
俺はお宝を手にするように慎重に、胎児を手にした。
胎児は俺の手の上でみるみると大きくなっていった。
ある童話のことが頭を過ぎった。
小さい時から知っている童話と同じシュチュエーションのせいで、摩訶不思議な現象を受け入れてしまっていた。
植物から取り出した赤ちゃんは、小型犬ぐらいのサイズになった。
「オギャー、オギャー」と赤ちゃんが泣き叫ぶ。
「赤ちゃん」と俺は確認するために呟いた。
脆くて小さい生き物が俺の腕の中で必死に泣いていた。
顔も体も真っ赤で、文字通りに赤ちゃんだった。
生きてますよ。
産まれてきましたよ。
赤ちゃんの泣き声は、そんな風に聞こえた。
「そうか」と俺は納得した。
この子に会うために俺は異世界に召喚されたのだ。
この子に会うために今まで俺は生きてきたのだ。
俺は赤ちゃんと出会って、そう思った。
辺りを見渡す。
赤ちゃんの泣き声で魔物を引き寄せていないか警戒した。
とにかく赤ちゃんを連れて美子さんの元へ帰ろう。
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