スキルを持たないバカ冒険者が女の子とキスしたら魔力が全回復するようになり、やがて幼馴染を救うために魔王と戦う

お小遣い月3万

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1章 覚醒するバカ

第13話 VS怖いお兄さん

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 ダンジョンから出ると現代の日本の空は墨汁のように黒かった。
 ダンジョンの出入り口である黒い渦は空気の抜けた風船のように萎んでいく。
 消えて行くダンジョンを見ながら俺は考えた。
 ダンジョンとは一体何なんだろう?
 どこかにある異世界。
 フィールド、というのは結界で覆われた土地である。
 ハーピーは言っていた。「魔王様に言われたの。あの場所を守りきれば新しくできる土地の領土をやろう、って」
 消えた島国があるという事をミクは言っていた。
 ハーピーの言う新しい領土というのは、もしかしてこの地球のことなのか? 
 もしかして魔物と人間の領土の奪い合いをしているんじゃないだろうか?
 冒険者というのは自国の領土を守る人間のことを言うんだろうか?
 そもそもなぜダンジョンには冒険者しか入れないんだろう?
 神様からダンジョンに入る許可がおりないとダンジョンには入れなかった。
 ダンジョンの出入り口である黒い渦で弾かれて入れないのだ。
 そもそもなぜダンジョンを破壊しないといけない? 
 それはバーストするからである。
 バーストというのは中の魔物が溢れ出て来ることのことを言う。
 なぜバーストするのか?
 領土を奪うため?
 だから地球が奪われないために神様が冒険者を選択しているんだろうか?
 色々と謎。
 つーか神様って何だよ。
 何で俺は成長する?
 俺のスキルは無かった。
 なのに、スライムのスキルを手にいれた。
 いや、スライムのスキルが使えるように成長したと言うべきなんだろうか。
 俺は一体、何なんだろうか?
 この世界に俺みたいな人間がいるんだろうか?
 もしかして神様が本当にいるとしたら、俺には使命みたいなものがあるんだろうか?
 ググってみよう。
 俺みたいな人間がいるのか? ダンジョンとは何なのか?


 仮設ハウスに戻ると骨になった三人の大学生を受付のお姉さんに引き渡した。
 そして仮設ハウスに置いていた荷物の中からアイフォンを取り出す。
 知らない電話からの着信が50件以上あった。
 嫌な予感がした。
 初心者が太鼓の達人をするようなリズムで心臓が鳴っていた。
「ライン教えて」
 とお嬢に言われる。
 うん、と頷き、俺はラインのQRコードを出す。
 田中中がお嬢の後ろでアイフォンを持って待っている。
「それじゃあ、お嬢、僕のも読み取ってください」
「あなたのはいらないわ」
「えっ」
 お嬢はアイフォンをバッグに入れ、仮設ハウスから出て行く。
「おい、太」
 と田中中が言う。
「太って呼ぶんじゃねぇーよ」
「お嬢のライン送って来いよ」
「なんでお前偉そうなんだよ?」
「だってスキル無いんでしょ?」
 ククク、と田中中が笑っている。
 コイツ吸収してやろうか?
「僕は弱い者をゴミのように見るところがあるんだ」
「すごい事、言うな」
「なんでお前みたいなゴミがお嬢とライン交換できるんだよ?」
「次、ゴミって言ったら殴るからな」
「殴ってみろ。僕はヒーラーだぜ。すぐに治してやる」
 ドス、とお腹を殴った。
「グヘホ」
 と田中中が言う。
 つい殴ってしまった。
「ヒールをかけるまでもないね」
「帰るわ。もうお前と二度とダンジョンに入らないから」
「全部、嘘じゃん。嘘に決まってるじゃん。光太郎くん。次も入ろうよ」
「お前とは絶対に入らない」
「冗談が通じないんだから」
「触って来るな。デブ」
「怒らないで光太郎くん」
 別に怒ってない。
 むしろ関心しているぐらいである。
 コイツすげぇーよな。
 今まで死ぬかもしれない場所にいたと思えないテンションで、ずっとふざけているんだから。
 面識ない奴に対しても、ずっとふざけているんだから。
 嫌われても、ずっとふざけているんだから。
「田中ってずっとふざけているよな?」
「僕はふざけてないよ? ずっと真剣だよ。強い人には付いて行きたいし、できればパーティーを組みたい。だって死にたくないもん。弱い奴はバカにする。自分より弱い奴を作って、ソイツにずっと荷物持ちをさせたい。光太郎くんなんて最高じゃん。無能なバカだから永遠の荷物持ちじゃん」
 コイツの事をすげぇーと思った俺がバカでした。
 ずっとバカにされているだけでした。


 ずっと知らない電話からの着信が気になっていた。
 駅に向かって歩いている途中、その着信にかけ直そうかどうか迷っていると母親からの電話がかかってくる。
「もしもし光太郎?」
 母親は少し焦っている様子だった。
「ダンジョンは大丈夫だった?」
「大丈夫だよ」
「よかった」
「うん」
「それと」と母親が言う。「純子が帰って来ないの。友達にも連絡したけど、今日は帰ったって言ってるし」
「俺の方でも探してみる」
「疲れているところごめんね」
 うんうん、と俺は首を横に降った。
 電話を切ると知らない電話からの着信。
 この着信が誰からか俺は気づいていた。
 そして、もしかしたらソイツが純子を攫ったんじゃないか、と思っている。
 知らない電話からの着信を取る。
「もしもし」
「もしもし。小林光太郎くん?」
 男の人の声。
「俺のことわかる?」
 なんとなくわかる。
「ちょっとウチで妹さんを預かってるから、今日中に五十万持って来て。ちゃんと賠償金は返そうね」
 怒りで息を思いっきり吸った。
 妹に手を出すんじゃねー。


 ちょうど今日は一週間前のダンジョンの報酬が入っている日だった。
 その事を見越して奴等は俺の妹を攫ったんだろう。
 ちゃんとお金を返さないと妹がどうなっても知らないよ? そういう脅しなんだろう。
 ATMに行く。
 キャッシュカードは持っていた。夏にバイトで作った銀行口座にダンジョンのお金を振り込むようにしていたから、このカードにお金が入っているはずだった。
 ちゃんと50万が振り込まれていた。
 Fランクのダンジョンの支給額。
 それでも俺には安いような気がした。
 金額が増えても、ダンジョンに入るというのは命を差し出すみたいな行為なのだ。
 だから、どれほどの金額を渡されても安いような気がする。


 そして俺は電車に乗って、あの店まで行った。
 電車に揺られながら妹のことを考えていた。
 俺と妹は三つ歳が離れている。
 そのおかげで生まれて来た時から彼女のことを覚えている。
 壊れそうなほどの小さい体。
 お兄ちゃんが守らなくちゃいけないと思っていた。
 なのに、なのに、バカな兄のせいで、妹が危険な目に晒されている。



 雑居ビルの扉を開けた。
 四人のスーツを来た男が事務所にいた。
 俺を見つけた男が、「来たか」と嬉しそうな声を出した。
「妹は無事ですか?」
 と俺は尋ねた。
「何もしてないよ。君がお金さえちゃんと払ってくれたらね」
「なんで妹を攫ったんですか?」
「どうしたの? 超怖いんだけどーー」
 と男が言う。
「ダンジョン2回目? ちょっとたくましくなったんじゃないの?」
「なんで妹を攫ったか聞いてるんだよ? その答えでお前を殺す」
 男は大爆笑。
 殺すだって、と言いながら笑っている。
 怖いお兄さん、と思っていたけど、今見たら一ミリも怖くなかった。
「調子こいてんじゃねぇーぞ」
 と男が急に怒鳴る。
 男の手には銃が握られていて、俺に銃口を向けている。
「お前が早くお金を持って来ねぇーから、わざわざ妹を誘拐して脅してあげてんじゃねぇーか。手数料として一千万円追加な」
 気づいた時には俺は男に触れていた。
 きっとコイツ等は俺を脅し続けるつもりなのだ。
 そして、そのたびに家族が危険に晒される。
 そんな奴を生かしてはおけない。
 守るべきものを危険にさらせない。
「吸収」
 右手が掃除機のようになる。
 ズボボボボ、と男を吸い込んで行く。
 そして目の前にいたはずの男がいなくなる。
「なにしてんだ?」
 後ろから声がした。
 他のスーツを着た男が俺に銃口を向けていた。
 バン、と音がする。
 たぶん銃が打たれたんだろう。
 お腹のあたりに血が噴き出す。
 痛いと思う前に傷が治る。

『銃の攻撃スキル、銃弾が撃てるように成長しました』

 道具に攻撃されても、そのスキルを身につけることができるらしい。
 そのスキルが使えるように成長するらしい。
 神様の声が聞こえた後、たしかに銃弾を撃てるという確信があった。
 人差し指を男に向ける。
 レ○ガンの構え。
 そして人差し指から銃弾を発射させた。
 バン、という音と共に、男は倒れていた。


 もう一人いた男が逃げるように隣の部屋に行く。
 彼は逃げたんじゃなく、人を呼びに行ったらしい。
 扉から別の男が出てきた。
 俺が知っている奴だった。
「近藤さん」と俺が言う。
 ヒゲが薄っすら生えている近藤さん。
 初めてのダンジョンで一緒に入った先輩である。
 彼はパーカーとジーパンというラフな服装をしていた。
「なんで近藤さんがここに?」
「だってココは俺の店だもん」
「そうですか」
「小林くんって言うんだっけ? 従業員を殺しちゃったの?」
「なんでこんな事してるんですか?」
 俺は近藤さんの質問に答えずに、質問で返した。
「言ってるじゃん。ダンジョンに入らないためだって。そのためにはお金が必要なんだよ」
「妹は大丈夫なんですか?」
「妹さん? まだ何もしてないよ。君がダンジョンで死んだら売るつもりだったけど」
「……犯罪じゃないですか?」
「犯罪の何が悪いの? 俺達はダンジョンに入りたくないのに入ってるんだぜ? 不公平だろう」
「だからって俺の妹を……」
 俺は近藤さんに指を向けていた。
「えっ、なにそれ? なにかのスキル? 君、無能だよね?」
 植物が急に俺の腕に絡まってきた。
 なにかのスキルか?

『冒険者の攻撃スキル、植物を操るを扱えるように成長しました』

「あっ、それ俺のスキル」と近藤さんが言った。
 観葉植物の枝が俺の腕を掴んでいる。
「植物がないフィールドでは役に立たないんだよ」
 俺は植物を吸収した。
 観葉植物が、ズボボと俺の手の平に入って行く。
 近藤さんの驚いた顔。
 次の瞬間には彼は倒れていた。
 俺が銃弾で近藤さんの頭を撃ったからである。
 近藤さんの後ろの壁には、泥でもぶつけたみたいに脳味噌がバシャとこびり付いた。
 

 残っていた一人を吸収して、俺は倒れていた男と近藤さんも吸収した。
 そして壁に付いている血も壁ごと吸収した。それと床の血もタイルごと吸収した。
 証拠を残したくないと思った以上に、純子に見せたくなかった。
 体のどこに入っているかはわからないけど、肉以外は消化されていないことはわかる。
 だから肉以外を吸収すると違和感が残った。
 吸収する時に手の平に大きな穴ができて、それが掃除機みたいに吸引するのだけど、肉以外の物を吸収すると、その手の平にできた大きな穴にカサブタみたいなものが出来るような違和感が残った。
 純子は観葉植物に羽交い締めにされていた。
 植物の枝が彼女の腕と足を掴み、葉っぱは目を隠していた。
 枝を折り、純子を救出する。
「お兄ちゃん?」
「大丈夫か? 何かされたか?」
 純子が首を横に降る。
「お兄ちゃん」
 純子が涙を流しながら泣いている。
 ごめんな、お兄ちゃんのせいで。
 もう二度とこんな怖い思いはさせないから。
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