スキルを持たないバカ冒険者が女の子とキスしたら魔力が全回復するようになり、やがて幼馴染を救うために魔王と戦う

お小遣い月3万

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1章 覚醒するバカ

第8話 女性ハーピーを売りに行く

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 お弁当を食べえた頃に先輩冒険者がダンジョンの出口に帰って来た。
 ようやく俺も穴から抜け出して、彼等に近づいて行く。
 先輩冒険者は食事を終えたライオンのようだった。
 この人達、自分で弱いって言ってたよな? 全然、そんな雰囲気はない。
 むしろ凄腕の冒険者のように見える。
 三人の体には血の海で泳いできたんじゃないか、というぐらいに血まみれだった。
 それが普通のことのように談笑している。
 その和んだ雰囲気が三人の姿とミスマッチで、この人達に逆らってはいけないと思わせた。
 マッチョな内田さんが大きな鳥を二匹抱えている。
 その鳥というのは、もちろんハーピーである。
 綺麗な髪がノレンのように垂れている。
 そのハーピーどうするんだよ? 
 高く売れる、って言っていたけど、本当に売ってしまうんだろうか?
 田中中は近藤さんにお姫様抱っこされている。巨漢を軽々と抱っこして、血まみれで談笑している。
 これで冒険者では弱い方なんだよな? 強い魔物ならすぐに逃げる、って自分達で言ってたもん。
 足が震える。
 喋りかけたくない。だけど喋りかけないのも失礼な気がした。
 近づくと鉄の匂いがして吐き気がする。
 さっき食べた卵焼きや冷凍食品が胃から飛び出してきそう。
「お疲れ様です」
 と俺は声をかけた。
 三人が振り返る。
「おぉー、生きてたか」
 と近藤さんが言った。
「今日はかなりの儲けだな」
 と細田さんが言った。
「それ生きてるんっすか?」
 俺はハーピーを指差して尋ねた。
「生きてるよ。戦利品」
 と内田さんが言った。
 本当に吐きそう。


 俺達がダンジョンから出ると黒くて禍々しい異世界の扉が消滅していく。
「ダンジョンは生命反応が無くなったら、こうやって消滅するんだ」
 と近藤さんが言った。
 魔物を皆殺しにしないかぎりはダンジョンを攻略したとはいえないらしい。
 それから俺達は仮設ハウスで無事に帰って来たことを軍人さんに報告した。
 田中中は軍人さんが病院まで運んでくれるらしい。
 彼は生きているのか死んでいるのかわからないけど安らかに眠っていた。


 三人はハイエースで来ていたらしい。ハイエースというのはネコバスぐらいの大きな車である。
 その車に二匹と言えばいいのか? それとも二人と言えばいいのか? 植物の根っこみたいなものをグルグル巻かれたハーピーを乗せた。
 二人とも女性ハーピーだった。
 早く家に帰りたくて仕方がない。
「君も入りなよ」と近藤さんに言われる。
「ぼくはちょっとアレなんで」と俺は断りを入れた。
「遠慮するなよ。送って行ってやるから」と近藤さんに言われる。
 問答無用だった。
 断りきれない。仕方なく車に乗った。
 血まみれ冒険者三人も同じ車に乗っているから、血反吐の匂いが車の中に充満していて、車が走り出す前に酔ってしまいそうだった。
 運転席には細田さん。助手席には内田さん。後部座席に俺と近藤さんが乗った。
「君はスキルが無いんだってな」と近藤さんが言った。
「知ってたんですか?」
「あらかじめ、どんな新人が来るのか情報を貰えるからな」
 可哀想に、と近藤さんが呟いた。
「君はすぐに死ぬよ」
 俺は窓から見える景色を眺めた。
 ダンジョンで生き延びている人が言うのだ。
 下唇を噛みしめる。
 弱いハーピーでも俺は倒すことができないだろう。
 お母さんの事を思った。お父さんがダンジョンに飲み込まれて、女手一人で俺達を育ててくれた。
 お母さんに俺の死を伝えたくない。
 思春期真最中の妹にもお兄ちゃんの死を伝えたくない。
 俺がいなくなって誰かの悲しみになるのが嫌だった。
「死にませんよ」
 と俺は言った。
 近藤さんは笑っていた。
 彼の顔を見る。
 明日になったら忘れそうな顔である。
「君は絶対に死ぬ」
「先輩方は生きてるじゃないですか」
「俺達がどうやって生きているのか教えてあげようか?」
「結構です。帰ります」
「小林君って言うだっけ?」
「はい」
「もし君がダンジョンで生き残れるなら、俺達のようにしか生きられない」
「……」
 駅前でも車から降ろしてもらえなかった。
 女性のハーピーを売るためにハイエースは歓楽街に向かっている。
      

 ハイエースが雑居ビルの前に止まる。
 内田さんが二人のハーピーを抱えて雑居ビルに入って行く。
 俺は後ろから付いて行った。
 冬になれば冷たくなる団地の扉を開けて彼等が中に入って行く。
 生きて行くために彼等がしていることを知る必要があった。
 だけど知りたくなかった。付いて行きたくなかった。
 お化け屋敷に入るように足を震わせながら扉を抜ける。
 

 新喜劇に登場してくるようなヤクザがいるんじゃないか、と思っていたけど、そうではなかった。
 職員室に置かれているような机が何台か置かれてあり、スーツ姿の男性が5人ほどパソコンの前で作業している。
 会社ってこんな感じなのかもしれない、というイメージの事務所だった。
「ハーピィーを二人、連れて来ました」と内田さんが言う。
 ツーブロックにしたスーツを着た男性が対応している。
 ハーピー二人で百万円、という言葉が聞こえた。
 一人50万円で売れたらしい。
「それと、この子にちょっとハーピィーを抱かせてやってほしい」
 近藤さんが言った。
「えっ?」と俺が驚く。
 抱きたくねぇーよ。
「これも冒険者になるための経験なんだよ」と近藤さんが言う。
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