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現在編② 融和

Side Story 12 - Boy Makes Boy Cry

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あれから俺は毎日カフェに通った。

俺を完全に無視してる幸に話しかける勇気もなく、ただそこに座って幸の存在を感じるだけの日々。俺はそれだけで満たされてた。

「啓お前、ただのアホやな。知ってたけど」
「いつも俺様なくせに、なんで幸ちゃんに対してだけはヘタレなんだろうねー」
「お前から幸ちゃんに話かけえや」
「ムリ」
「幸ちゃんからは話しかけにくいでしょ? 啓に振られたと思ってるんだから」
「う゛、……振ってねえし」
「だーかーらー、幸ちゃんはそうは思、」
「あ、あいつ。また来やがった」
「ん? あー、もしかしてあの男が幸ちゃんの『朔にぃ』か」
「別に幸のじゃねえし」
「あっちは幸ちゃんに気がありそうだけどねー」
「お、『朔にぃ』えらい積極的やな。幸ちゃんの手ぇ握ってるわ」
「な、」
「って嘘やけど」
「ちっ、瑠偉お前いい加減にしろよ」
「せやけど積極的なのはほんまや。幸ちゃんにがんがん話しかけてんで」
「幸ちゃんもまんざらでもないんじゃない? 楽しそうに笑ってるし」

気になって幸を盗み見ると、確かに幸はあいつに可愛い笑顔を見せている。

「そんな顔するくらいなら幸ちゃんに話しかけなよ」
「いつまでもヘタレとっても何も始まらんで?」

煌と瑠偉の言う通りだと思うものの、俺は幸に話しかける勇気のないままカフェ通いを続けてた。

その日もいつものようにカフェに行き、何もできずに帰るんだろうと思ってた。あいつが幸の手を握るのを目にするまでは。

「幸……」

あいつに幸を取られたくない一心で、衝動的に体が動いていた。じゃなきゃ俺は一生幸に話し掛けられなかったかもしれない。

怒った顔で俺をじっと見つめる幸。
傷ついた顔を見せまいとする幸。

「好きだ」

どんな幸でも好きだ。
俺の想いはどうしたら幸に伝わる?

必死で泣くのを堪えてる幸。
泣いて、怒って、喚いて、俺に縋りつく幸。

幸……幸……
幸はこんなにもたくさんの想いを抱えて、自分の心の中だけに守ってきたんだな。
こんなにも傷ついて、ひとりで怯えてた幸に気付いてあげられなくてごめん。
ひとりにしてごめん。傷つけてごめん。泣かせてごめん。

幸の想いが愛しくて、幸が愛しくて、心が痛い。
幸が俺にぶつけてくれた想いはぜんぶ受け止めるから、幸を抱き締めていいかな?
嫌いも大嫌いもちゃんと受け取める。反省する。だから幸からの好きを受け取っていいかな?

「啓」

泣きじゃくる幸を抱き寄せて……まあ本人の許可なくだけど……幸せに浸ってたのに、肩を叩かれて仕方なく振り返る。

「は? 恭介? なんでいんの?」
「なんでいんのじゃないよ。ここ俺の店だから」

意外すぎる従兄弟の登場に思わず素に戻って尋ねた俺に、恭介は呆れ顔だ。恭介がカフェだのバーだのをプロデュースしてんのは知ってたけど、ここもその一つだったとは……って、恭介の店で幸がバイトしてるってことは……

「もしかして恭介お前、」
「啓、ここ座って」

さっさと近くのテーブルに座った恭介が、向かいの席をトントンと指で示す。人騒がせなことをしでかした自覚はあるので、俺は素直にそれに従った。幸は大人しく俺にされるがまま俺の隣に座り、ひっくひっくとしゃくりあげている。たぶん俺と恭介の会話も耳に入ってないに違いない。

「とりあえず、これ。急いで作って各テーブルに人数分配ったから。あと、新たにお客さんは入れないし、今いるお客さんにはこの余興が終わるまでいてもらう」
「余興って……」
「いいから、これ読んで」

恭介に渡されたパンフレットのような紙にはこう書かれていた。


~~~~~~~~~~
お客様へ

本日は当カフェをご利用いただきまして誠にありがとうございます。

お客様にはただ今目の前で繰り広げられているドラマチックな展開にさぞや驚いたことでしょう。
ご安心ください。これは当カフェのオーナーがお客様に感謝の気持を込めて企画した余興です。

なお、本人の許可なく勝手に写真や動画を撮影したりSNSなどに公開することは犯罪です。
本日の余興がどこかに公開されるようなことがあった場合、直ちに刑事告訴する所存です。
参考までに、名誉棄損罪の刑罰は3年以下の懲役……

~~~~~~~~~~


「恭介お前、これ……」

爽やかな外見とは裏腹に実は腹黒いのは恭介のお家芸みたいなもんだけど、自分の店の客を脅すような真似までするとは。それもこれも俺のため……ってか、幸と俺のためにやってくれてんだと思うと胸にぐっとくるものがある。

俺も後先考えず幸に声を掛けはしたけど、その後の展開をSNS上に晒される可能性については危惧してたし、何かあった場合は対処する心づもりでいた。とはいえ恭介のやり方の方がより確実で効果的だ。

「幸也が泣き止んだら今日はもう帰っていいからって言っといて」
「わかった」
「あ、帰る前にうち来てよ。幸也のこと驚かせたいし」
「ああ」
「じゃあ、そういうことで」

いつもの胡散臭い恭介の笑顔が、このときほどカッコよく見えたことはない。
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