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過去編⑤ 疑心

Side Story 8 - Boy Finds Boy's Ex

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幸の口から拓真さんの話がでたとき、嫌な予感がした。
誕生日の次の日、俺はそれを確かめるべく拓真さんのショップを訪れた。

無言で入り口に突っ立ったままの俺を見て、拓真さんは察したようだ。

「もう誕生日プレゼント貰った?」

そう問われ、幸に貰ったピンキーリングをした手を掲げて見せた。

「いい出来だったろ?」
「昔、幸と付き合ってた?」
「それ聞いてどうすんの?」
「どうもしない」
「なら聞かなくていいんじゃね?」

にっこり笑って余裕をみせる拓真さんにはムカつくけど、言われてみれば確かにそうだ。
そのまま帰ろうとして、拓真さんがしているリングに目が吸い寄せられた。

「そのリング……」
「ああ、これ?」

掲げた右手の薬指にある、天使の翼のペアリング。
拓真さんがしてるのは左翼で、幸のは右翼だった。

俺の小指にピッタリだったからピンキーリングだと勘違いしてた。
あれは幸の薬指に合わせて作られた、拓真さんとペアのリングだったんだ。

「これ、俺が一番最初にデザインしたペアリングでさ」

拓真さんがリングを愛おしそうに撫でる。

「二つ合わせると天使の両翼になんの」

知ってるよ。

「幸也の十六の誕生日プレゼントに作ったんだ。あいつ、すげえ喜んで、」
「昔の話だろ?」
「昔話が聞きたかったんじゃねえの?」
「思ってたより面白くなさそうだから、もういいわ」
「それは残念」
「てか、なんで今頃そんな昔のリングしてんの? 未練でもあんの?」
「未練しかないよ。幸也と別れたこと、ずっと後悔してる」
「そりゃ残念」
「幸也が幸せじゃないってわかったから、今は余計に」
「どういう意味だよ」

挑発に乗っちゃいけないのはわかってた。
だけど自分を止められなかった。

「幸也、ほんとは泣き虫だって知ってた?」
「はあ? 適当なこと言ってんじゃねえぞ」
「ふーん。やっぱ幸也は啓の前で泣いたことないんだ」
「ねえよ。幸は俺の前ではいつも笑って、」
「泣いてたよ」
「ああ?」
「そのリング取りに来たとき、幸也、泣いてた」
「嘘、だ……」

幸が泣いてたなんて。
俺を動揺させるための嘘に決まってる。

けど確かに、ここんとこずっと幸は元気がなかった。
梅雨のせいだとか、ちょっと早い夏バテだとか言ってたけど……

幸はやっぱなんか悩んでる?
俺には言えないこと?

俺は頼ってもらえない?
拓真さんに前では泣くくせに?
俺の前では泣くこともできない?

わからない。わかりたくない。
けど、これだけはハッキリしてる。

「幸が今、付き合ってんのは俺だ」
「今は、ね」
「幸になんかしたら許さねえ」
「なにもしないよ。啓が幸也を泣かせない限り」

何も言い返せない自分にムカついて。悔しくて。不安で仕方なかった。
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