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第一話

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 「こうなった以上、覚悟を決めてくださいな。エリトーチカを公爵家へ高く売りつけましょう」

 客間の扉の向こう側から自分の名前が呼ばれて胸が苦しくなる。

 継母となったその人は、父に向かって私を「かの」公爵様へ輿入れさせると言っていた。





 母が生きているころの父は、寡黙ではあったけど、慈しむ目をして、よく私の頭を撫でてくれた。あの優しかった父が、継母と再婚してから、人が変わったように冷たくなった。
同時に、この家に私の居場所はなくなってしまった。

 継母から妹と弟が生まれてからは、私は、居場所がないだけでなく、厄介者に変わった。

 そして、いつの頃からか私の悪評が領内でささやかれるようになった。
 継母を貶め、妹や弟を害そうとする冷酷で計算高い娘であると。

 そのうち、育ての親で、なにかにつけて庇ってくれていた乳母に暇が出された。その直後に、私の悪評が広がりすぎたのか、それとも、妹や弟と明確に立場を区別するためか、父は私を正妻の子供ではなく、妾との子である庶子に変更する手続きを王都で行ったようだ。私はそのことを父ではなく執事から告げられた。

 今後、食事や住まいなどは屋敷の本館ではなく、離れ屋敷に移すよう父に指示されているとのことだった。

 以来、私は離れ屋敷で、一人、息を殺して生活している。

 継母や妹と顔をあわせても、嫌な事しかなかったので、正直、気は楽になった。継母も妹も、私になんら落ち度がなくとも、なにか気に入らないことがあると、いきなり、私の頬を張ったり、私にモノを投げつけてきたり、と日常的に八つ当たりをされてきたからだ。

父は、その場にいても庇ってくれることはなく、私も屋敷内の立場の弱さから言い返せないため、私を虐げてきた。
 私のおびえている反応をみることで、継母も妹も留飲を下げていた。





 ある日、ずいぶんと訪れていない屋敷本館に突然父から呼び出された。

 そして、あの扉の向こうで、私の名前が聞こえてきた。
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