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8.新国家樹立編

1.建国時に別名を名乗ることのススメ

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 アリア派の参謀職を辞任してから、4か月が経った。
 
 アリア派の新参謀、ジェシカさんのすぐ上の兄シール・ルートンさんもうまくやっているようだ。

 俺は、今、エクス・ゲファルナート魔法王国の建国準備に大わらわになっていた。ちゃんと行政大学校には通っていたけど、講義が終わり次第、すぐにゲファルナート島の首都エクスへ転移魔法で移動して、毎日、建国式典に向けて準備をしていた。

 輸出用の魔法具を量産するため、首都エクスの地下の秘密工場の製造レーンで、多数のゴーレムたちと子供たちが働いている。

 俺は、特別個体のゴーレム数体に、魔法具の核(コア)となるブラックストーンへの魔素の刷り込み方法をインプットし、量産体制を整えた。ゴーレムたちがブラックストーンを完成させたら、研修を受けた年長の子供たち75名体制で、主力製品である4つの魔法具を決められた順番に組み立てていく。

 組み建て工程もゴーレムをできる限り活用しているのだけど、どうしても細かい作業は人の手をかけないと品質が保てない。子供たちのうち、手先が器用な子たちを選んで効率を上げるようにしている。将来的には、もっと人の手ではなく、ゴーレムにゆだねられないかが、今後の課題だなと感じている。

 このゴーレムと子供たちの生産体制で、1日あたり、魔法具が4種で、計100個製作できる体制がようやく組めた。

 それと、エクス・ゲファルナート魔法王国の食料も自給できるよう、ビュレトに命じて、町の外に農園を作り、ゴーレムたちが働かせている。フランド王国だと、人余りで大量に人をつぎ込んで農業生産効率を高めようとしているが、わが国では、ゴーレム主導で作業を行い、広大な農地とゴーレムを管理するためだけの最低限の人をビュレトの配下として、つけている。

 来年の収穫時から、我が国の食料自給率は80%を超え、さらに数年後には食料輸出も可能となる計算だ。

 工業、農業や国内体制が国として回せるぐらい整ったので、いよいよ建国式典を行う。これまで、周辺国から見つからないように結界で島全体を隠していたが、それを解除し、建国を宣言する。





 「国民よ。我が声を聞け!私は、エクス・ゲファルナート魔法王国の建国をここに宣言する!」

 「わー!!!!」

 300名の全国民を前に、町の中心の広場の台の上で、俺は国王として建国宣言と演説を行う。治安維持用の戦闘特化型ゴーレムは、自動制御で町の周囲を警戒しており、人間の国民全員と(悪魔の)ビュレトのみが広場に集まっている。

 「我らが、エクス・ゲファルナート魔法王国は、すべての国民に、生命の安全、人として豊かに生きることを保証する。国民一人一人が、真面目に働き、成果を出そうと努める限りは、豊かさを享受し、生活に不自由がないことを約束する。我らが安全を脅かそうとする外敵には、その報いを受けさせよう。我が子らよ。安心し、その責務を果たせ。恐れる物は何もない。我が国は、魔法技術を核として、世界をつなぐ架け橋となるべく、今後、大いなる発展を約束しよう!!」

 「おー!!!!」
 
 元々俺に完全服従の暗示をかけているから、当然、熱狂的な支持者しかおらず、俺の建国宣言と、町の中心のブラックストーンの動作確認で演出した建国式典は滞りなく終わった。





 「アルフ様。式典お疲れ様でした。この間まで、どうしようもない悪ガキだったアルフ様があんな立派な宣言をなされるとは、お、俺は,,,,,,,」

 守役,,,,,,ではなく、今や宰相閣下のシンバが、式典を無事終わらせた俺に声を震わせながら、話しかけてくる。

 「シンバ。私も同じ思いです。本当に、ご立派になられて。あんなに立派なアルフ様を拝見できて、私はもう思い残すことはありません」

 現侍史長で、かつて俺の乳母であったエリカも感動のあまり、不吉なことを言ってくる。

 「二人とも、式典を喜んでくれるのはありがたいけど、まだまだ俺を支えてくれよ。そうだ。いつまでも国王がアルフレッド・プライセンを名乗るわけにはいかないから、ここでは、今日から、プロト・ゲファルナート魔法王と名乗ることにするよ」

 『名を変えるか。主殿よ』

 『2重生活するには、新しい名が必要だからな』

 実は、シルフェさんには、前もって相談していた。その時、エクス・ゲファルナート魔法王国では、「プロト・ゲファルナート魔法王」と名乗ることを伝えると、似合っていると誉めてくれた。

 「もし旦那様と、そ、その、結婚したら、私は、シルフェ・ゲファルナートになるのですか?」

 あれ?「アンダーソン」は名乗らないのか?俺の疑問を察知した、シルフェさんは説明してくれた。

 「アンダーソン家には絶縁されていますので、「シルフェ・アンダーソン」ではなく、私は旦那様の妻になる予定のただの「シルフェ」です。「シルフェ・ゲファルナート」でも、「シルフェ・プライセン」でも何色にでも染まるつもりです」

 や、やばい。シルフェさんの今の可愛らしい笑みに「ドキッ」とさせられた。

 『主殿が、この魔女っ娘の尻にひかれる日が目に浮かぶぞ』
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