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3.行政大学校入学編

2 大人の知恵をつかうことのススメ

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 数日が経過し、いよいよエクリン家をお暇する時期がやってきた。

 今日の合格発表で、無事合格したら、「寮(りょう)」(行政大学校の寮)へ、残念ながら、不合格ならば、「領(りょう)」(プライセン子爵へ出戻り)へ向かうこととなる。同じ「りょう」の響きでも天国と地獄だな。

 朝食後、気合を入れて合格発表の結果を見に行こうと支度をする。今更だけど、手足に力が入りすぎてブルブル震えてくる。

 気持ちを落ち着けようと深呼吸していたら、仕事で徹夜明けの帰宅をしたジェームスさんから、「アルフ君。合格おめでとう。」と言われる。

 なんでも、受験成績も上位だったとのこと。
 さすが現役の内官様。
 情報が早いぜ!安堵した―。
 けど、けど、けども、、、、、。

 正直、自分で合否をみて、これまでの努力の成果の感激に浸りたかったよ。それでも、一応、心配だから自分でも合格発表を見に行くけど。





 確かに、合格者の記載のある掲示板に名前があった!!

 『エクス。名前があったよ。ホントによかった、よかったよ。子爵領へ戻らなくて済んで』

 『ジェームスが先刻合格したといっていたであろうが。まったく小心者の心配性だな。主殿は』

 と心配性の豆腐メンタルの俺に対して、エクスが文句を言っているところ、突然、声を掛けられる。

 「合格者として名前があったわね。合格おめでとう。アルフ君ならば、もちろん合格すると思っていたから心配はしてなかったけどね」

 振り返ると、魔女姉さんのシルフェさんだった。

 合格を確認できて嬉しい気持ちを誰かと分かち合いたかったので、知り合いに会えてうれしい。が、、、、第三王女の専属魔法師がなぜこんなところにいるのか正直違和感がある。

 きな臭さを感じて少し警戒する。

 「私、来月から、行政大学校に講師として招かれているの。そういうことなので、これからもよろしくね」

 、、、、、、、。
 どうせ、第三王女がらみの新たな内偵案件だろう。
 どんな案件か気にはなったが、巻き込まれるのも面倒なので、そこは大人の知恵として、あえて触れない。俺の学園生活を邪魔しないでくれさえしなければ、我関せずでいこうと決める。
 シルフェさんとは仲良くはしたいけど、政争に巻き込まれるのは御免だ。

 ここは、触らぬ神に祟りなし。
「小役人のススメ」の教えではないけれども、今回は絶対に触れるのをやめよう。

 「こちらこそ、よろしくお願いします」

 その後、当たり障りのない雑談をシルフェさんとして、辞去の挨拶をし、別れた。




 試験に無事合格したところで、エクリン家の書生生活は本当に終了した。

 エクリン家の皆さんと夕食を食べ終わった後、エクリン家の全員にこれまでの感謝を伝えた。書生修了の儀式として、エクリン家への師事への感謝の気持ちとこれまでの恩義を忘れない事を誓う。

 これで俺も財務閥の構成員(暫定)になった、、、、、はず。まだ学生のひよっこだけど。




 次の日に、行政大学校の寮(食事別の寮費無料)への引っ越しをし、実家へ無事試験に合格した報告と父上へ支援開始の要請を行った。
 貴族の子弟としては少ないが、庶民よりも豪華な仕送り額銀貨20枚が毎月送られてくることとなる。


 フランド王国は金貨・銀貨・銅貨本位制をとっており、周辺国もほぼ同様だ。金貨1枚に対して、基本的には銀貨は100枚、銅貨は10,000枚の交換レートとなっているが、需給により変動が2-3%程度ある。

 それ以外の貨幣として、蓄財用に王家、貴族で用いられている金貨100枚分の価値のある白金貨もあるが、庶民は目にすることはない。

 銀貨1枚あれば、物価の高い王都でも庶民感覚でいくと1-2日は余裕で生活できる。そういう意味で、パルスキーの町は異様に物価が高かった。


 物価の上昇は庶民の生活に直接ダメージを与えてしまうから、国の運営に物価維持は非常に重要だ。これこそ内官の役割だなと、これからの学生生活に思いを馳せ、気を引き締める。
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