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天使(凛ちゃん)の元へ

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    このところ、上司の人や同僚に飲みに行こうと誘われる。
俺は一刻も早く凛ちゃんの元へ帰り、癒やしと充電の時間に充てたいのに……
「あ~、ちょっと無理ですね」
「えー、行こうぜ!」
「あ~、ちょっと難しいですね」
「色々と話したいこともあるんだが、どうしても無理か?」
上司はまだいい。居酒屋とか小料理屋とかで、食べて飲んで話して解散。
だけど一番、苦痛なのは同僚だ。
「なぁなぁ、ちょっと行ってみないか?」
どこかでもらったビラには、ガールズバーや若い子が居る飲み屋が載っていた。
「無理。俺、彼女一筋だから」
「俺もー!興味ねぇから」
俺と、もう一人の同僚は拒否&却下したのに、提案してきたヤツとそれに乗ったヤツらは「行こーぜ!」と強引に連れて行こうとする。
「着いてから、5分ぐらいで金置いて出よう」と同僚と相談して、仕方なく行くことにした。
最愛の彼女が居るのに、何の為にそんなところへ行かなきゃいけないのか理解に苦しむ。
提案してきた同僚なんて、長い交際期間を経て結婚して日が浅いのに。
「へぇ~、営業なんですかぁ?」
「お酒、何で割りますぅ?」
「おしぼり、どーぞ!」
その喋り方は可愛いと思ってんのか。その仕草や態度で、俺みたいなヤツを攻略出来ると思ってんのか。
「あぁ、どうも」
「クールな雰囲気で、かっこいいですねっ」
「別に、そんなことないですよ」
「そうですかぁ?でも、ミカはタイプかも~!」
なんだよ「かも」って。タイプかタイプじゃないとかの極端な意見じゃなくて、どっちつかずかよ。
あぁ、面倒くせ……疲れるな。
俺の向かいに座った同僚も、俺と同様に冷たくあしらい開始早々、5分で金を少し多めに出して「んじゃ、帰るわ」と言って出ようとした。
「え~、もう帰っちゃうの~?」
「もうちょっとお話しよーよ!」
女の子が引き止めてくる。ウザい、その香水はタイプじゃないので臭く感じる。
凛ちゃんのつけてる香水の方が、天国そのものに感じるのに。
「愛しの妻が待ってるので」
「俺も、嫁さんが良い子にして待ってるから」
まだ結婚してない俺らだけど、ここで嘘ついてもどうもしないので適当に言って、店から出ることが出来た。
「はぁ……何とか抜け出せたな」
「あぁ、お互いお疲れ」
「おう、次からは飯食って早々に出ようぜ」
「確かに、それは賢明だな。それか二度と行かないか」
「そっちのが賢いな」
お互いに労って別れた。

「ただいま……」
「あ、おかえ……り」
「?どうした」
「う、ううん!お疲れ様」
「凛ちゃん」
「ん?どうしたの?」
「凛ちゃん、好き」
「はい!?急に何故!」
「んー、何か言いたくなった」
「ハグしますか?」
そう言いながら、両手を広げてくれる凛ちゃんは女神様だ。
だけど……
「嬉しいけど、俺……酒飲んでるから臭いし、我慢する」
「お酒飲んだの?」
「んー。同僚に無理やり連れてかれたけど、5分で出てきた」
「えっ、居酒屋さんとかでご飯食べるんじゃなかったの?」
「あー、食ったよ。それで終わりだと思ってたんだけど、新婚の同僚が行ってみたいって。馬鹿だよなー、嫁さん居んのに行くなんて」
「だから、なんだ……」
「えっ?」
「嗅いだことない、香水の匂いがしたから……」
「あー、帰ろうとしたら引き止められてさ。マジで最悪」
「そ、そっか」
「俺は、こんなにも凛ちゃん一筋なのに」
「……!!」
「さっさと風呂入って綺麗にしてから、凛ちゃんを堪能するわ」
「なっ……!?」
「ははっ、本当に凛ちゃん天使だな」
「うぅ~……そういう、翔ちゃんは王子様だよ」
最後はボソッと言ったつもりらしいけど、ちゃんと聞こえたよ。
凛ちゃんの前だけは、素敵な王子様でいたいから。
早く凛ちゃんを愛でて、充電しよう。


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