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フィアナ、セシリアとお友だちになる!

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「フィアナさん、どうしてここに!?」
「話は後。まずは、こいつをやっつけないと!」


 巨大ムカデとい睨み合い、私は戦闘態勢に入るのでした。


 ギィアア!
 形勢が不利になったのを悟ったのか、巨大ムカデは怒りの咆哮をあげました。
 さらには威嚇するように頭の触手が蠕き、その容貌をよりグロテスクなものに変貌させます。


(気持ち悪っ!)

 触りたくない相手、トップスリーに入ります。
 巨大ムカデは、ずりずりとこちらに近寄って来て、

「ヒィィッ」

(今の悲鳴は……、セシリアさん?)

 隣を見ると、セシリアさんは怯えたように後ずさりしていました。
 その顔は、よく見れば恐怖で真っ青になっており――


「ワタクシ、虫だけは昔から駄目なんですの……」

 消え入りそうな声で、セシリアさんはそう言います。 

「克服しようと努力はしましたの。お掃除だって頑張りましたし、何度か虫のモンスターと戦ってみたりして――でもムカデだけは、あの形だけはどうしても駄目で――」
「分かりました。ここは任せて下さい」

 私は、一歩、前に出ます。

「ワタクシ、失敗してしまったんですわね」
「失敗? 苦手なモンスターを相手に、立派にマーガレットさんを守り抜いたのに?」

「駄目なんですの。ローズウッドの長女であるワタクシは、常に完璧で、模範とならねばならない。皆の前で、こんな失態を晒して――これではお父さまに、顔向けできませんわ」


 どう反応すればいいのか分からなかった私ですが、

「フィアナさんも、今のワタクシに助ける価値なんてありませんことよ? 今のワタクシでは、何も返せませんもの」

 そんなことを言われてしまい、さすがに少しだけムッとします。

 セシリアさんが何に悩んでいるのかは分かりません。
 それでもその言葉は、セシリアさんを助けたいと行動した人たちの気持ちを、すべて踏みにじることになるからです。


「助ける価値なんて誰が決めるんですか?」
「フィアナ……、さん?」

 不思議そうに顔をあげたセシリアさんに、

「何も返せない? だから何だって言うんですか?」
「どういう……、ことですか?」

「いいですか、別に私は何か見返りが欲しいなんて思ってません。あれだけ一緒に行動して笑いあったセシリアさんに――生きていて欲しいと思ったから。それだけです!」

 私は、キッパリそう告げます。

「見返りを、求めず、ただワタクシを助けると。そうおっしゃいますの?」
「はい」

「ワタクシに、そんな価値があると?」
「価値とか、見返りとか、そんな堅苦しいこと考えないで下さい」

 ――何か行動するときに、必ず見返りを求めて行動する。
 ――それは派閥というものの基本的な考え方のように思います。

 そこに発生するのは、面倒なしがらみと、息の付かない殺伐とした世界。


「私はセシリアさんと、そんな関係にはなりたくありませんからね。これからも楽しく話して、ときどき勝負して――そんな毎日を過ごしたいです!」
「そう……、ですわね。ワタクシ、気がついたら下らないしがらみに、囚われていたのかもしれませんわ――フィアナさん、感謝しますわ」

 ようやくセシリアさんの瞳に、光が宿ります。
 勿論、巨大ムカデへの怯えはあれど、もうその顔に焦燥感は無く、

「フィアナさん、ワタクシは何をすれば良いですの?」
「こいつの特徴を教えてください。攻撃方法と、できれば気をつけないといけない予兆とかも」
「予兆、ですの!? えーっと、えーっと――」

 わたわたと考え始めるセシリアさん。
 その表情は、いつもの底抜けに明るいセシリアさんそのもので、私は戦闘中にもかかわらずクスリと笑ってしまいます。

 巨大ムカデと睨み合うこと数刻。
 ――突如として、巨大ムカデの目元が赤く光りました。

「ッ! それ、気をつけて下さいまし。すぐに消化液が来ますわ!」

「え? なんですか、それ!?」
「簡単に言えば、触れた場所が瘴気になる猛毒です。ワタクシも、あれに足をやられました――気を付けて下さいまし!」

 周囲を見れば、ところどころに猛毒の沼地が生まれています。
 あれも巨大ムカデの仕業なのでしょう。

(厄介な相手ですね。どこから現れたんでしょう――)

 私はセシリアさんたちを背負い、強く地を蹴り天高く飛び上がります。

「ごめんなさい、ちょっと失礼しますね」
「「ヒィィィィ!」」

 そのままグングンと空高く飛翔。
 ムカデは、良い感じにこちらを見失ってくれたようです。

「行きます!」

 私は、宙を勢いよく蹴って反転。
 地面に向かって、グイグイと加速していきます。


「イィィィィヤァァァァア!」」

 またしてもあがる絶叫。
 セシリアさんたちは、涙目でギュッと目を閉じていました。

(ごめんなさい!!)
(でもこれが、1番安全だと思うんです!!)

 内心で謝罪しつつ、私は容赦なくさらに加速。加速、加速。
 トップスピードの到達したところで、

「チェックメイトです!」

 私は、魔力を込めた蹴りを巨大ムカデに叩きつけます。
 落下速度の分まで威力が上乗せされた圧倒的な破壊力を持つ1撃が直撃し、

 ギシャァァァ!
 ――もくもくと立ち上るは砂埃。
 断末魔の悲鳴をあげながら、巨大ムカデは地に倒れ伏し――私は、見事に巨大ムカデを一撃で仕留めることに成功したのでした。



 巨大ムカデを退治した私は、

「大丈夫でしたか、セシリアさん?」
「はい、助けていただきありがとうございます。マーガレットもこうして無事で――ローズウッド家の名において、この恩は必ず――」
「うんうん、そういうのはいいから――」

 私は、シーっとセシリアさんの口を塞ぎます。

「セシリアさま~! 無事で、無事で良かったですぅぅぅ!」
「ヘレナ!? あなたまで、どうしてここに!?」
「当たり前じゃないですか!! セシリアさまを置いて、私だけがおめおめと生き残れる訳ないじゃないですか~!」

 びえーんと泣きながら、セシリアさんに抱きつくヘレナさん。
 マーガレットさんまでもらい泣きしたように、わんわん泣きながらセシリアさんにしがみつき、

「2人とも、どうしてそこまで……?」

 ――こんな失態を晒した私に、もう価値なんてないのに。
 心底、不思議そうに呟くセシリアさんに、

「私がセシリア派に入ったのは、ただセシリアさまと一緒に居たかったからです。ご無事で何よりですぅぅぅ!」
「私もですぅぅ。だいたい失態なんて、いつも晒してるじゃないですか!」
「ちょっと!?」

「私だって、見返りなんて要りませんよ。ただセシリアさまの傍に居られれば、それで幸せなんですから……!」
「だいたい今のセシリア派に、見返りなんて期待できますか? 見返りを期待するならモンタージュ派一択ですよ――それでも私は、セシリアがいいんです!」
「それは大概酷くありませんこと!?」

 思わずといった様子で突っ込むセシリアさん。

「ワタクシ、見えない何かに怯えたように突っ走って――ずっと、独り相撲をしていたのかもしれませんわね……」

 それからセシリアさんは、しみじみとそう呟きます。
 そんな彼女たちを見て、私は改めて思ったことがありました。

「私、派閥は入れませんが――セシリアさんとお友だちになりたいです」
「ッ!」

 フリーズするセシリアさん。

「も、もちろん無理にとは言いませんが! それでもセシリアさんさえ認めて下されば――ほらっ、私こんな感じでムカデぐらいは倒せますし、なにより健康ですからね!」

(私、何か変なこと言いましたかね!?)

 私が、慌てて言葉を重ねていると、


「…………よ、喜んで!」

 とびきりの笑顔で。
 セシリアさんは私の手を掴み、ギューッと強く握りしめてきました。


「あ、あの……私も! 私なんかがおこがましいかもしれませんが、私もセシリアさまとお友だちになりたいです!」
「も、もちろん大歓迎ですわ!」

「それと、フィアナちゃんのことは渡しませんからね!(ヒソヒソ)」
「はい、ですわ?」

 ヒソヒソと言葉を交わすセシリアさんとエリンちゃん。
 とても仲が良さそうで何よりです。

「それでは集合場所に戻りましょうか。皆、心配してると思います」
「はい!」

 そうして私たちは、マティさんたちが待つ集合場所に戻るのでした。



(やった、2人目のお友だちです!)

 内心、叫びださんばかりの喜びを抱く私。
 そうして意図せぬモンスターの襲来というイレギュラーはあったものの、スロベリア野外演習は無事終わりを迎えるのでした。
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