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3. 美味しそうな匂いにフラフラと吸い寄せられて
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「な~にが『君には弱者の心が分からない』よ!」
なにコロッと性悪令嬢に騙されてるのよ!
パーティーから放り出されるかよわい令嬢は、弱者じゃないんですかね!?
30分ほど経ったでしょうか。
私は心の中で文句を言いながら、どことも知れぬ森の中を歩いていました。
気配を消しながら、こっそりひっそりと。
私に戦う力はありません。
モンスターに狙われるのは極力避ける必要があります。
「思っていたより余裕ですね……」
必死に地図を頭に入れてきた甲斐がありました。
――殿下たち、大丈夫かしら?
殿下の真っ直ぐすぎる性格を補うように、私はもっぱら裏方の能力を磨いてきました。
王者の剣と言われる殿下の剣術は、不意打ちにはめっぽう弱かったのです。
常に周囲を警戒し、殿下が最大限実力を発揮できる環境を整える必要がありました。
――人のことを心配している余裕はありませんね
あんな目に遭わされたのに……。
ついつい心配してしまった自分のお人好し具合に、少しばかり嫌気がさします。
いっそ私が本当にイリアの言うような悪女であれば、ここまで損することなく立ち回れたのでしょうか。
「そうです。あんな人たち、知ったことではありません。
不意打ちを喰らって、全滅してしまえば良いんです」
小さな呟き。
甘さを捨て去るように。
自分自身に言い聞かせるように。
着々と森の出口に向かっている自信はあります。
誰も知らない土地で身一つ。
森を出てからどうするか。
今後どうやって王都まで戻ろうか。
考えることは山積みでした。
◇◆◇◆◇◆
さらに歩き続けること半日。
「さすがにきついですね……」
これだけの距離を、モンスターの気配に気を付けながら歩き通すというのは、なかなかの重労働でした。
パーティーメンバーもいないので、下手すると夜間も休憩を取れそうにありません。
かといって、夜の森を歩き続けるのは自殺行為ですよね。
「……本当は避けたいですが。
木の上で一晩過ごすしかないですかね」
木をわざわざ登ってまで餌を探す生物は少ない。
だから地上よりは安全なはず……正直、気休めレベルではありますが。
そんな昔読んだサバイバル本の知識を脳内から引き出します。
人生、知っておいて損することは何もありませんからね。
面倒なことを何かと押しつけてくれた、殿下のお陰とも言えます。
……これっぽっちも感謝する気にはなりませんが。
そんなことを考えていると
「あら……?」
ふと前方から、何とも言えない良いにおいが漂ってきました。
煮込まれた野菜と香ばしい調味料の合わさった、何とも食欲をそそる匂いです。
――この演習中に? なんのために森の中で?
なぜ森の中で、目立ちそうなことをしているのでしょう。
あれでは、モンスターに襲ってくださいと頼んでいるようなものです。
さすがに今回の遠征に参加している学園の生徒が、モンスターを集める愚かな行為をするとは思いたくありません。
そんなことをしでかしたら、それこそパーティーから追放されても文句は言えないでしょう。
「冒険者のルーキーが紛れ込んだのでしょうか?」
それもあり得ないはずです。
今この森は、遠征のために学園で貸し切っているはずですから。
そっと回れ道をすることもできました。
論理的に考えても、相手の正体も分からないのに接触することは得策とは言えません。
安全を取るなら、すぐにでも立ち去るべきでしょう。
それでも……。
なぜか私は、その匂いのもとにフラフラっと吸い寄せられるように近づいてしまいました。
食欲から?
それとも……パーティーを追放された人寂しさから?
理由は分かりません。
なにコロッと性悪令嬢に騙されてるのよ!
パーティーから放り出されるかよわい令嬢は、弱者じゃないんですかね!?
30分ほど経ったでしょうか。
私は心の中で文句を言いながら、どことも知れぬ森の中を歩いていました。
気配を消しながら、こっそりひっそりと。
私に戦う力はありません。
モンスターに狙われるのは極力避ける必要があります。
「思っていたより余裕ですね……」
必死に地図を頭に入れてきた甲斐がありました。
――殿下たち、大丈夫かしら?
殿下の真っ直ぐすぎる性格を補うように、私はもっぱら裏方の能力を磨いてきました。
王者の剣と言われる殿下の剣術は、不意打ちにはめっぽう弱かったのです。
常に周囲を警戒し、殿下が最大限実力を発揮できる環境を整える必要がありました。
――人のことを心配している余裕はありませんね
あんな目に遭わされたのに……。
ついつい心配してしまった自分のお人好し具合に、少しばかり嫌気がさします。
いっそ私が本当にイリアの言うような悪女であれば、ここまで損することなく立ち回れたのでしょうか。
「そうです。あんな人たち、知ったことではありません。
不意打ちを喰らって、全滅してしまえば良いんです」
小さな呟き。
甘さを捨て去るように。
自分自身に言い聞かせるように。
着々と森の出口に向かっている自信はあります。
誰も知らない土地で身一つ。
森を出てからどうするか。
今後どうやって王都まで戻ろうか。
考えることは山積みでした。
◇◆◇◆◇◆
さらに歩き続けること半日。
「さすがにきついですね……」
これだけの距離を、モンスターの気配に気を付けながら歩き通すというのは、なかなかの重労働でした。
パーティーメンバーもいないので、下手すると夜間も休憩を取れそうにありません。
かといって、夜の森を歩き続けるのは自殺行為ですよね。
「……本当は避けたいですが。
木の上で一晩過ごすしかないですかね」
木をわざわざ登ってまで餌を探す生物は少ない。
だから地上よりは安全なはず……正直、気休めレベルではありますが。
そんな昔読んだサバイバル本の知識を脳内から引き出します。
人生、知っておいて損することは何もありませんからね。
面倒なことを何かと押しつけてくれた、殿下のお陰とも言えます。
……これっぽっちも感謝する気にはなりませんが。
そんなことを考えていると
「あら……?」
ふと前方から、何とも言えない良いにおいが漂ってきました。
煮込まれた野菜と香ばしい調味料の合わさった、何とも食欲をそそる匂いです。
――この演習中に? なんのために森の中で?
なぜ森の中で、目立ちそうなことをしているのでしょう。
あれでは、モンスターに襲ってくださいと頼んでいるようなものです。
さすがに今回の遠征に参加している学園の生徒が、モンスターを集める愚かな行為をするとは思いたくありません。
そんなことをしでかしたら、それこそパーティーから追放されても文句は言えないでしょう。
「冒険者のルーキーが紛れ込んだのでしょうか?」
それもあり得ないはずです。
今この森は、遠征のために学園で貸し切っているはずですから。
そっと回れ道をすることもできました。
論理的に考えても、相手の正体も分からないのに接触することは得策とは言えません。
安全を取るなら、すぐにでも立ち去るべきでしょう。
それでも……。
なぜか私は、その匂いのもとにフラフラっと吸い寄せられるように近づいてしまいました。
食欲から?
それとも……パーティーを追放された人寂しさから?
理由は分かりません。
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