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8.《幼馴染視点》後悔しても・・・
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《エリシア視点》
その日も私――エリシアは、あのオタクを追いかけていた。
「ストーカー?」
「エリシア、まさか実はあいつに気があったの?」
友達は、からかい半分にそんなことを聞かれたけれど……。
(冗談じゃない!)
(ただ、あいつがデビルシードの創業者じゃないって証拠を掴むだけよ!)
(証拠を掴んで、オリビアちゃんに突きつけて――それで……、それで…………?)
なぜこんなにも執着しているのかは分からないけれど、私は今日もカインとオリビアの後を付けていた。
*
「放課後にこんなに遠出して――どこに向かってるのよ?」
ある日の放課後、カインとオリビアは隣町に繰り出していった。
(まさか街中デート!?)
(あいつら、いつの間にそんな関係に――!?)
キーッと唇を噛む。
幸せそうな空気が許せなかった。
そうして後を付けていき……、
「あははっ、カインも見栄を張り過ぎたわね! 墓穴じゃない!」
思わず笑ってしまう。
彼らはあろうことか、デビルシードの本店に足を運んだのだ。
(門前払いされて終わりよ。良いざまだわ!)
(せいぜい惨めな姿を晒したところを、思いっきり笑ってやるんだから!)
私もひっそりと後を付け、建物の中に入り込む。
入り口はオープンスペースなので、客のフリをして潜り込むことに成功したのだ。
――そこで私は、予想だにしない衝撃の言葉を聞くことになる。
「お久しぶりです、カイン様」
執事風の男が、あの冴えないオタクに恭しく頭を下げていた。
「ご苦労さまです、セバス。留守中は変わりなかった?」
「はい。工房もいつでも利用可能です」
更にはあのオタクが、当たり前のように親しげに執事と言葉を交わしたのだ。
そして当たり前のように、関係者以外は立ち入れない「開発室」に入っていくではないか。
それの意味するところは――考えるまでもなかった。
(まさか……)
(まさか、まさか――!?)
青ざめる。
私が大好きなブランド『デビルシード』の創業者にして開発者である男は、実は私がさんざん馬鹿にしてきて振った――
(そんな筈ないわ!)
(そんなこと、ありえる訳がないわ!!)
私は、半ば意地になっていた。
「すいません。先ほど訪れた二人組なのですが――」
「ああ。カイン様と――隣の子は、彼女かしら? カイン様が平日に訪れるのは本当に珍しくて。良いものを見た気分です」
「それじゃあ、まさかあいつが本当にデビルシード創業者の……」
「ああ。あの若さで、次々と革新的な技法で魔道具を生み出し、技師の中に革命を起こした新進気鋭の発明家――我々は誰もがカイン様に憧れて、デビルシードに入社したんだ」
私が尋ねると、従業員は鼻息粗くそう答えるのだった。
(カイン様。たしかに……、そう言った)
(新進気鋭の発明家……。それじゃあ、本当に、あいつは――)
「うそ。嘘よ」
私は逃げるように、デビルシードの建物の外に出る。
私が好きで好きでたまらなかったデビルシードの魔道具たち。
その原型を生み出していたのが、これまで散々バカにしていたあのオタクだったなんて――信じたくなかった。
信じたくなかったが、デビルシードの従業員に確認まで取ったのだ。
もはや覆しようがなかった。
「そんな。私はなんてことを――」
革新的な魔道具を次々と生み出してきたあいつに、私はなんと言ったのか。
「その魔道具を弄る趣味――いい加減やめた方が良いわよ。気持ち悪いもの」
ああ、そんなことを言ってしまった。
――私は、あまりに無知だったのだ。
あそこで告白を受け入れてさえいれば、今頃あいつの隣に立っていたのは私だったのだろうか。
絶望した。悲しみの涙は流れなかった。
そう、どれだけ後悔しても、もう遅いのだ。
――すでにカインの隣には、学園の聖女様がべったり張り付いている
――毎日を楽しく過ごしており、すでにわがまま幼馴染のことなど眼中にないのだから
その日も私――エリシアは、あのオタクを追いかけていた。
「ストーカー?」
「エリシア、まさか実はあいつに気があったの?」
友達は、からかい半分にそんなことを聞かれたけれど……。
(冗談じゃない!)
(ただ、あいつがデビルシードの創業者じゃないって証拠を掴むだけよ!)
(証拠を掴んで、オリビアちゃんに突きつけて――それで……、それで…………?)
なぜこんなにも執着しているのかは分からないけれど、私は今日もカインとオリビアの後を付けていた。
*
「放課後にこんなに遠出して――どこに向かってるのよ?」
ある日の放課後、カインとオリビアは隣町に繰り出していった。
(まさか街中デート!?)
(あいつら、いつの間にそんな関係に――!?)
キーッと唇を噛む。
幸せそうな空気が許せなかった。
そうして後を付けていき……、
「あははっ、カインも見栄を張り過ぎたわね! 墓穴じゃない!」
思わず笑ってしまう。
彼らはあろうことか、デビルシードの本店に足を運んだのだ。
(門前払いされて終わりよ。良いざまだわ!)
(せいぜい惨めな姿を晒したところを、思いっきり笑ってやるんだから!)
私もひっそりと後を付け、建物の中に入り込む。
入り口はオープンスペースなので、客のフリをして潜り込むことに成功したのだ。
――そこで私は、予想だにしない衝撃の言葉を聞くことになる。
「お久しぶりです、カイン様」
執事風の男が、あの冴えないオタクに恭しく頭を下げていた。
「ご苦労さまです、セバス。留守中は変わりなかった?」
「はい。工房もいつでも利用可能です」
更にはあのオタクが、当たり前のように親しげに執事と言葉を交わしたのだ。
そして当たり前のように、関係者以外は立ち入れない「開発室」に入っていくではないか。
それの意味するところは――考えるまでもなかった。
(まさか……)
(まさか、まさか――!?)
青ざめる。
私が大好きなブランド『デビルシード』の創業者にして開発者である男は、実は私がさんざん馬鹿にしてきて振った――
(そんな筈ないわ!)
(そんなこと、ありえる訳がないわ!!)
私は、半ば意地になっていた。
「すいません。先ほど訪れた二人組なのですが――」
「ああ。カイン様と――隣の子は、彼女かしら? カイン様が平日に訪れるのは本当に珍しくて。良いものを見た気分です」
「それじゃあ、まさかあいつが本当にデビルシード創業者の……」
「ああ。あの若さで、次々と革新的な技法で魔道具を生み出し、技師の中に革命を起こした新進気鋭の発明家――我々は誰もがカイン様に憧れて、デビルシードに入社したんだ」
私が尋ねると、従業員は鼻息粗くそう答えるのだった。
(カイン様。たしかに……、そう言った)
(新進気鋭の発明家……。それじゃあ、本当に、あいつは――)
「うそ。嘘よ」
私は逃げるように、デビルシードの建物の外に出る。
私が好きで好きでたまらなかったデビルシードの魔道具たち。
その原型を生み出していたのが、これまで散々バカにしていたあのオタクだったなんて――信じたくなかった。
信じたくなかったが、デビルシードの従業員に確認まで取ったのだ。
もはや覆しようがなかった。
「そんな。私はなんてことを――」
革新的な魔道具を次々と生み出してきたあいつに、私はなんと言ったのか。
「その魔道具を弄る趣味――いい加減やめた方が良いわよ。気持ち悪いもの」
ああ、そんなことを言ってしまった。
――私は、あまりに無知だったのだ。
あそこで告白を受け入れてさえいれば、今頃あいつの隣に立っていたのは私だったのだろうか。
絶望した。悲しみの涙は流れなかった。
そう、どれだけ後悔しても、もう遅いのだ。
――すでにカインの隣には、学園の聖女様がべったり張り付いている
――毎日を楽しく過ごしており、すでにわがまま幼馴染のことなど眼中にないのだから
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