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6. 《聖女様視点》それは神業だった

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《オリビア視点》

(すごい!)
(先輩の――あのデビルシード創業者の仕事を、私は見ているんだ)

 私――オリビアは瞳を輝かせずには居られなかった。
 年甲斐もなく興奮していた。


 私は、魔道具が好きだ。
 魔道具が織りなす繊細な魔術式のハーモニーが、魔道具から感じる作り手の思いを感じ取るのが何より好きだ。

 ――私が魔道具大好きな変わりものに育ったのには、理由があった。



 私の両親は、厳しい人だった。
 幼いころから家庭教師が呼ばれ、徹底的な英才教育を施された。出来ないことがあれば「そんなことも出来ないのか!」と怒られる事も多かった。
 必死の努力が実を結び、私はどうにか聖属性の魔力に目覚めたのだ。

 そのときは両親も泣いて喜んでたっけ。

「――将来は教会で聖女として生きていくのよ」
「そうすれば、あなたの未来を妨げるものはないわ」

 それは呪いの言葉のようだった。


 中高一貫の名門校――エリートの魔術師を多く排出している学校だ――に合格しても、母は満足することはなかった。
 それどころか要求はどんどんエスカレートしていった。
 そんな日々に疲れていた時、私はデビルシードの魔道具に出会ったのだ。

 たまたま立ち寄った商店で見かけた小さな魔道具だ。
 目を引いたのは、特徴的なデフォルメされた悪魔と種のロゴ――効能は快眠を約束し、精神が楽になりますなんて胡散臭い触れ込み文句。
 その頃はデビルシードの名も知られておらず、正直怪しいとしか言いようのない小道具だった。それでも不思議と私は惹かれ、気がつけば手にとっていたのだ。


(すごい……)

 包み込まれるようだった。
 半信半疑で寝る前に枕元に設置すれば、不思議と嫌なことを忘れられ――

(ああ。こんな方法があるんだな)

 魔道具と言えば、戦闘で使うのが一般的だった。
 もしくは高価な生活必需品――お守りのような魔道具は、常識に照らし合わせれば魔力と魔術式の無駄だと言われるようなものだろう。

 それでも私が、今、その時に求めていた魔道具はそれだったのだ。
 ちょっと辛いときに心を落ち着かせ、ゆったりと眠りに付いて、また前を向ける――そんな些細な魔道具が私に必要だったのだ。
 私は一瞬で、デビルシードの虜になった。


 そんな私が、デビルシードそのものに興味を持つのも自然な流れで……、

(デビルシードの創業者)
(……私と同じ学生なんだ)
 
 気がつけば、私は魔道具が大好きになっていた。


 発明品の情報は特に伏せられていた訳ではない――デビルシードの新商品はすべてチェックした。
 彼が出した論文はすべて読みこんだし、実践して試したこともあった。
 

 そんな日々を送っていたら……
 ――なんとデビルシードの創業者が、高校から編入してきたのだ。
 正直、たまたま名前が一致しただけだろうと最初は思っていた。どんな偶然だよと、夢見すぎだよ私と。

 それだけど確信したのは、あの人が授業で設計した”魔術公図”を見てからだ。
 一見、荒唐無稽なものだけど確かな新理論に裏打ちされた革新的な設計図――間違いない。
 変な自信があった。あの人が書いた論文はすべて読みこんできたし、私は自他ともに認めるデビルシードオタクだ。
 だから確信できた。高校から編入してきた転入生カイン・アルノートは――私の人生を変えてくれたデビルシードの創業者に違いないと。

 そんな憧れの人と毎日話せる幸せな生活が始まった。
 きっかけは偶然――困惑していた先輩は、優しく受け入れてくれて――――


「~~~う~ん! 今日もいっぱい話しちゃった!!!」
「呆れられてないかな? 大丈夫かな!?」

 家に帰って1日を思い出し、布団でジタバタしてしまう。
 油断すると顔が火照って、ついついにやけてしまう。
 先輩の前ではこんな姿は見せられない――これじゃあ私、ただの変人だし……、先輩の中で私は、ただの魔道具オタクの同士。
 それ以上でもそれ以下でもないのだから。


 そうして更に日々は過ぎ――
 私は、先輩の神業を見ることになる。



 先輩の手腕は、文字通り神業だった。
 ひと目見て分かった――腕が違いすぎた。

 魔術式を刻む速度が、その精度が、機材の選び方が。
 何をとっても私なんかとはレベルが違う。


 ぽかーんと口を開けて眺めてしまい――いかんいかん、先輩にアホ面をさらす訳にはいかないと慌てて表情を引き締める。

(――すごい集中力)

 有言実行。
 先輩は信じられないほどの集中力を発揮し、魔術式を組み上げていく。
 先輩は天才だ――そんなことは分かっていたけれど、目の前で繰り広げられる神業は、想像を遥かに超えていく芸術品のようで。


(今日、この瞬間を一生記憶しておきたい……!)

 何時間経っただろう。
 食い入るように見ていた私は、先輩が手を止めたことにより、ようやく魔道具が完成したことに気づく。

「ふう」
「おつかれさまでした、先輩!」
「……!? オリビア、まさか最後までそこで見てたの!?」
「はい! まさか生でデビルシードでの作業が見られるなんて――私、感動しちゃいました!」

 興奮冷めやらぬとはこのことだ。
 良いものを見せてもらったお礼にと、私はそっと先輩にタオルを差し出した。
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