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67. 私も夢見てしまいましたから

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「それが本当なら、たしかにフィーネさんが信用されているのも納得はできますが……」

 テオドールが信じ切れないのも無理はありません。
 なんせ話してる本人が、いまだに信じ切れないぐらいに出来過ぎた話ですからね。
 不思議な巡り合わせと言うしかありません。


 ――悔しいですが
 ――私がこれ以上何を言っても、信頼を得ることはできないでしょう

 国王が、余裕の表情で静観しているのもその証拠。


 そんな中、再度口を開いたのはフォード王子でした。
 不安ですが、ここは任せるしかなさそうです。


「皆がそれぞれの思惑を持って生きている。
 だからこそ真実は見えづらい。
 ――ときには、拍子抜けするほどシンプルなこともある」

 フォード王子は、いったい何を言い出すつもりなのでしょうか?


「ひどくシンプル……?」
「ああ」

 フォード王子は、当たり前の事実を告げるような表情で。
 こんなことを言い始めたのでした。



「人間と魔族の思惑なんて、何も関係ない。
 この和平交渉の、本当の願いは――」



 ――共に生きる未来を掴み取りたい



「和平交渉といいつつ――根底にあるのは、愛する者同士のそんな願いだけ。
 そうであろう?」

「……えっ!?」
「――は?」

 ――い、いきなり何を言い出すのでしょう?

 驚く声は、魔王様とも重なります。
 思わぬ形での味方から不意打ち。

 あまりに的外れなことをフォード王子が言うものですから。
 テオドールが鳩が豆鉄砲を食ったようような顔で、きょとんとしているではありませんか。

 
「あ、兄上。
 さすがに話が飛躍しすぎなのではありませんか?」

「そ、そうですよ。驚くぐらいに的外れですよ!」

 あ、フォード王子と一緒に説得しないといけないのに。
 反射的にテオドールに同意してしまいました……。


「私が魔王様の力になりたいと思ったのは、魔王様の夢が素晴らしいと思ったからで。
 その夢にひどく共感したからで。
 ――愛する者同士なんて、そんな……」

 魔王様の崇高な目的。
 そんな個人の欲望のためみたいな言い方、あまりに失礼です!

 大慌てで否定して、良い迷惑ですよね? とばかりに魔王様をチラリと見ますが

「ま、的外れか……」

 何故か、ショックを受けたようにうなだれる魔王様。
 どんよりと落ち込んでしまいました。



「夢に共感した、ね。
 力になりたいと思った理由は、本当にそれだけなのか?」

 フォード王子は、何かを確信している様子で質問を続けます。


 ――私が魔王様の力になりたいと思った理由ですか

 深く考えたことはありませんでした。
 自然と、そうしたいと思っていましたからね。


 魔王様の第一印象は、恐ろしい方でした。 
 魔王という肩書き。
 初対面時の、冷たそうな横顔も。

 それでも、魔族領で野垂れ死ぬしかないところを救われて。
 魔王城に辿り着いた私を迎えた、魔族と打ち解けられるよう開かれた歓迎パーティー。

 魔族領での生活は、幸せでした。
 その幸せの傍には、たしかに魔王様の姿がありました。


「魔王様の掲げる夢に共感した。
 その言葉に、嘘偽りはないですが」

 ――それだけ、なんてことはありませんね

 私は、しみじみと呟きます。


 不器用で傷つきやすく、誰よりも優しい魔王様。
 傷つけるぐらいなら、いっそ遠ざけてしまおうという不器用な一面を見せる。

 そんな魔王様に触れてきたからこそ。
 私は、魔王様が口にした願いを叶えるために力になりたいと思ったのです。


 ――それが好きになるってことなんでしょうか?

 フォード王子が、変なことを言うせいで。
 妙なことを、意識してしまったではないですか。


 魔王様もさぞかし困っているだろうと、チラリと視線を向けて。
 バッチリと目線が合ってしまいました。


「――っ!」

 黙り込んでしまった私を、魔王様の瞳が心配するように覗き込みます。

 なぜでしょう。
 まともに顔を合わせるのが、恥ずかしいです。


「ま、魔王様……?」

 うかがうような声で、助けを求めると


「共に生きる未来を掴み取りたい、か。
 たしかに、余はそれを夢見ていたのかもな」

 魔王様は、どことなく恥ずかしそうに。


「魔族と人間なぞという、種族間のくだらぬ隔たりを気にせずに。
 胸を張ってフィーネと共に国を引っ張っていける、新たな時代を――」

 途中からは、もはや独り言のような。
 だとしても私の耳にバッチリと入ってきてしまい。


 共に国を引っ張って行く。
 その言葉の意味するところは――


 大切にされているとは思っていましたが。
 あくまで国の恩人に対する態度なのだと、そう受け止めていました。
 それだけでなく……


「わ、忘れてくれ。
 こんなことを言われても、困らせるだけだとは分かっていた。
 いきなりこのようなことを口走ってしまって、すまなかった……」

 もっとも次の瞬間には、魔王様は我に返ったように。
 消え入るような声で、そう告げました。


「……忘れることなんて出来ません」

 だって、想像できてしまいましたから。
 魔王様に並び立つ、自分自身の姿を。

 そこは夢を叶えた先にある、人間も魔族もない平和な暮らし。
 そこで私は、国を良くするために尽力する魔王様を傍で支えます。

 魔王様・魔族の幸せのために奔走する、自身の輝かしい未来。

 ――それは考えるだけで楽しそうな夢でした


「共に国を引っ張っていく未来。
 私も夢見てしまいましたから」

 頬の火照りを隠すように。
 私は、すがすがしい笑みを浮かべるのでした。
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