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64. 私と魔王様だったらこそ、この道を選ぶことができたんだ
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「ところで、どうやって国王の元まで辿り着くつもりなんだ?」
フォード王子がそう尋ねてきます。
「最悪、余が兵たちを蹴散らしながら向かえば良かろう」
「ダメです。それ、完全に魔族が攻め込んでる図じゃないですか……」
「だが他に方法があるか?」
一晩の間に、お城が魔王に攻め滅ぼされていた。
その挙句に、魔王の言いなりになるように魔族との和平が成立していたとなったら。
魔族に対する恐怖しか残りません。
「ヴァルフレア様、私を助けて下さったときは瞬間移動してきましたよね。
玉座まで一瞬で飛べたりは……?」
「あれは、宝玉に仕込んだ魔法の効力の一環だ。
何もない場所に飛ぶことは出来ん」
「……そうですか」
やっぱり強行突破しかないか。
そう諦めたかけた私と魔王様に、フォード王子はこんなことを言いました。
「王族しか知らない抜け穴がある。
いざという時の脱出経路になっていたものだ。
緊急事態だ。案内しよう」
「安全なのか?」
魔王様は、フォード王子のことを胡散臭そうに見つめます。
「作られたのは昔だし、最近は使った痕跡もない。
安全か、と言われると保証はできない。
それでも、誰にも見つからずに入れるメリットは大きいはずだ」
「ほかに手はなさそうですし、ここはフォード王子の提案に乗りましょう」
それが最善をつかみ取れる可能性が高いのなら。
迷わずに選ぶべきです。
◇◆◇◆◇
フォード王子に案内されたのは、教会の裏にあった倉庫でした。
「ここにこうやった魔力を通せば……」
ぶつぶつと呟きながら、様子を探るフォード王子。
呪文を唱えると、地下通路に繋がる階段が現れました。
「見事なものだ」
「魔族に襲われた場合も、想定して作られた脱出通路なのだがな。
……まさかこの道を、魔王と共に通ることになるとはな」
先導するフォード王子は、しみじみとそう呟きました。
「国王と対峙できたとして。
どうにかなる勝算はあるのか?」
「……分かりません」
国王の目的は魔王を殺すことで、しいては魔族を皆殺しにすることでした。
私たちの願いとは全く相容れない立場。
出来る限り説得したい、とは思っていますが。
どうしようもなかったら、手段を選んではいられません。
――最悪の場合も想定しておいた方が良いかもしれませんね
「交渉は、私に任せて欲しい。
ここまで事態が拗れたのは、私とジュリーヌが原因だ。
せめて私に、その後始末をさせて欲しい」
「……あなたに、それができますか?」
ひそかにそんな決意を固める私に、いつになく真剣な表情で言うフォード王子。
「交渉が拗れた場合は、最悪の決断をしなければならない可能性もあります。
正直なところ、その可能性が高いとも思っています」
それは"人間"に対する、裏切りなのかもしれません。
だとしても最終的にはそれが明るい未来に繋がる、私はそう信じています。
「私が、父上を……」
グッと手を握りしめて、フォード王子はそう呟きました。
「やれやれ、この期に及んでまだ何も決意できぬか」
魔王様は、呆れた表情でそう言いました。
「……私とヴァルフレア様で、どうにかします。
あなたはこの国の行く末を、ただ見ていれば良い」
これまで何も考えていなかった馬鹿王子に、その選択はあまりにも重たいものです。
これは私と魔王さまの悲願です。
はなから誰にも譲るつもりはありません。
「ところでヴァルフレア様。
その威圧感、少しだけ抑えられませんか?
アビーみたいに、人に愛される姿だとなお良しです」
「む、無茶を言うな。
だいたい魔王たる余の役割は、人間を威圧して恐れられることだろう?」
たしかに愛嬌のある魔王なんて、イメージとは違いますが。
魔王様には恐れられるだけでなく。
これからは、できれば誰からも愛される魔族となって欲しいです。
「それも今日までの話です。
これからは、バッチリと人間と仲良く過ごしてもらいますからね!」
「む、無茶を言う。
そ、そういう役はアビーが適任だと思うのだがな……」
「魔族の王たるヴァルフレア様が、人間に友好的だと示さないでどうするんですか!」
「ぜ、善処しよう」
目を逸らしながら言う魔王様。
「フィーネよ、なんだか貴様はリリーネに似てきたな……」
「最大級の褒め言葉ですね」
そんな他愛もない話をしていると、
「魔王って、思ってたより普通なんだな」
ぽつりとフォード王子が呟きました。
「ええ。ヴァルフレア様は、普通に優しい魔族ですよ。
見て分かりません?」
「……そして貴様は、私の前ではいつも完璧な公爵令嬢だったな。
そんな風に表情をコロコロ変えるところを、初めてみた。
それが貴様の素か?」
「ええ、これが素だったみたいです。
私も魔族領で最近知りましたよ」
「……何だそれ?」
ぽかんと困惑した様子のフォード王子。
私とフォード王子が、そんなことを話していると
「フィーネよ。
無駄話をしていないで、さっさと行くぞ?」
魔王様は、なぜか不機嫌そうな顔を浮かべると。
ズンズンと先に進むのでした。
◇◆◇◆◇
「この先が玉座の間だ」
そうして進んだ先で。
ついにフォード王子は立ち止まり、こちらを振り返りました。
「いよいよですね」
「ここまで色々あったな……」
国外追放。
戦争を発生させるための罠に、魔王様の抹殺計画。
この先には、すべての黒幕たる国王がいます。
裁判にも、ここで全てが決まると覚悟して臨みました。
魔王様からもらった宝玉を胸に抱いて。
どれだけ前向きに臨もうとも、なお胸によぎりそうになる嫌な未来。
それを必死に振り払う、なんとも孤独な戦いでした。
でも今は違います。
隣にいる魔王様の、何と心強いことか。
なんだって出来そうな気がします。
「……魔族領に追放されてきたのが、フィーネで本当に良かった。
余が一線を超えずに踏みとどまれたのも。
最後まで夢を諦めずに済んだのも」
――すべてフィーネのおかげだ
いろいろと思い出していたのは、私だけではなかったようで。
魔王様は改めてそう口にすると、私を真っ直ぐ見つめてきました。
「本当に感謝している」
私がしたことなんて、ほんとうに些細なことです。
魔族領での生活が、楽しかったからこそ。
魔王様の掲げる夢が、どこまでも素敵だったからこそ。
「私も、魔族領で出会ったのが、魔王様で本当に良かったです」
――私と魔王様だったらこそ、この道を選ぶことができたんだ
ストンと、そう思います。
「行きましょう。
人間と魔族の未来のために――」
フォード王子が何やら魔法を唱えます。
視界が開け――目の前に玉座の間が視界に入ります。
玉座の間には、国王が不敵な笑みを浮かべて立っていたのでした。
フォード王子がそう尋ねてきます。
「最悪、余が兵たちを蹴散らしながら向かえば良かろう」
「ダメです。それ、完全に魔族が攻め込んでる図じゃないですか……」
「だが他に方法があるか?」
一晩の間に、お城が魔王に攻め滅ぼされていた。
その挙句に、魔王の言いなりになるように魔族との和平が成立していたとなったら。
魔族に対する恐怖しか残りません。
「ヴァルフレア様、私を助けて下さったときは瞬間移動してきましたよね。
玉座まで一瞬で飛べたりは……?」
「あれは、宝玉に仕込んだ魔法の効力の一環だ。
何もない場所に飛ぶことは出来ん」
「……そうですか」
やっぱり強行突破しかないか。
そう諦めたかけた私と魔王様に、フォード王子はこんなことを言いました。
「王族しか知らない抜け穴がある。
いざという時の脱出経路になっていたものだ。
緊急事態だ。案内しよう」
「安全なのか?」
魔王様は、フォード王子のことを胡散臭そうに見つめます。
「作られたのは昔だし、最近は使った痕跡もない。
安全か、と言われると保証はできない。
それでも、誰にも見つからずに入れるメリットは大きいはずだ」
「ほかに手はなさそうですし、ここはフォード王子の提案に乗りましょう」
それが最善をつかみ取れる可能性が高いのなら。
迷わずに選ぶべきです。
◇◆◇◆◇
フォード王子に案内されたのは、教会の裏にあった倉庫でした。
「ここにこうやった魔力を通せば……」
ぶつぶつと呟きながら、様子を探るフォード王子。
呪文を唱えると、地下通路に繋がる階段が現れました。
「見事なものだ」
「魔族に襲われた場合も、想定して作られた脱出通路なのだがな。
……まさかこの道を、魔王と共に通ることになるとはな」
先導するフォード王子は、しみじみとそう呟きました。
「国王と対峙できたとして。
どうにかなる勝算はあるのか?」
「……分かりません」
国王の目的は魔王を殺すことで、しいては魔族を皆殺しにすることでした。
私たちの願いとは全く相容れない立場。
出来る限り説得したい、とは思っていますが。
どうしようもなかったら、手段を選んではいられません。
――最悪の場合も想定しておいた方が良いかもしれませんね
「交渉は、私に任せて欲しい。
ここまで事態が拗れたのは、私とジュリーヌが原因だ。
せめて私に、その後始末をさせて欲しい」
「……あなたに、それができますか?」
ひそかにそんな決意を固める私に、いつになく真剣な表情で言うフォード王子。
「交渉が拗れた場合は、最悪の決断をしなければならない可能性もあります。
正直なところ、その可能性が高いとも思っています」
それは"人間"に対する、裏切りなのかもしれません。
だとしても最終的にはそれが明るい未来に繋がる、私はそう信じています。
「私が、父上を……」
グッと手を握りしめて、フォード王子はそう呟きました。
「やれやれ、この期に及んでまだ何も決意できぬか」
魔王様は、呆れた表情でそう言いました。
「……私とヴァルフレア様で、どうにかします。
あなたはこの国の行く末を、ただ見ていれば良い」
これまで何も考えていなかった馬鹿王子に、その選択はあまりにも重たいものです。
これは私と魔王さまの悲願です。
はなから誰にも譲るつもりはありません。
「ところでヴァルフレア様。
その威圧感、少しだけ抑えられませんか?
アビーみたいに、人に愛される姿だとなお良しです」
「む、無茶を言うな。
だいたい魔王たる余の役割は、人間を威圧して恐れられることだろう?」
たしかに愛嬌のある魔王なんて、イメージとは違いますが。
魔王様には恐れられるだけでなく。
これからは、できれば誰からも愛される魔族となって欲しいです。
「それも今日までの話です。
これからは、バッチリと人間と仲良く過ごしてもらいますからね!」
「む、無茶を言う。
そ、そういう役はアビーが適任だと思うのだがな……」
「魔族の王たるヴァルフレア様が、人間に友好的だと示さないでどうするんですか!」
「ぜ、善処しよう」
目を逸らしながら言う魔王様。
「フィーネよ、なんだか貴様はリリーネに似てきたな……」
「最大級の褒め言葉ですね」
そんな他愛もない話をしていると、
「魔王って、思ってたより普通なんだな」
ぽつりとフォード王子が呟きました。
「ええ。ヴァルフレア様は、普通に優しい魔族ですよ。
見て分かりません?」
「……そして貴様は、私の前ではいつも完璧な公爵令嬢だったな。
そんな風に表情をコロコロ変えるところを、初めてみた。
それが貴様の素か?」
「ええ、これが素だったみたいです。
私も魔族領で最近知りましたよ」
「……何だそれ?」
ぽかんと困惑した様子のフォード王子。
私とフォード王子が、そんなことを話していると
「フィーネよ。
無駄話をしていないで、さっさと行くぞ?」
魔王様は、なぜか不機嫌そうな顔を浮かべると。
ズンズンと先に進むのでした。
◇◆◇◆◇
「この先が玉座の間だ」
そうして進んだ先で。
ついにフォード王子は立ち止まり、こちらを振り返りました。
「いよいよですね」
「ここまで色々あったな……」
国外追放。
戦争を発生させるための罠に、魔王様の抹殺計画。
この先には、すべての黒幕たる国王がいます。
裁判にも、ここで全てが決まると覚悟して臨みました。
魔王様からもらった宝玉を胸に抱いて。
どれだけ前向きに臨もうとも、なお胸によぎりそうになる嫌な未来。
それを必死に振り払う、なんとも孤独な戦いでした。
でも今は違います。
隣にいる魔王様の、何と心強いことか。
なんだって出来そうな気がします。
「……魔族領に追放されてきたのが、フィーネで本当に良かった。
余が一線を超えずに踏みとどまれたのも。
最後まで夢を諦めずに済んだのも」
――すべてフィーネのおかげだ
いろいろと思い出していたのは、私だけではなかったようで。
魔王様は改めてそう口にすると、私を真っ直ぐ見つめてきました。
「本当に感謝している」
私がしたことなんて、ほんとうに些細なことです。
魔族領での生活が、楽しかったからこそ。
魔王様の掲げる夢が、どこまでも素敵だったからこそ。
「私も、魔族領で出会ったのが、魔王様で本当に良かったです」
――私と魔王様だったらこそ、この道を選ぶことができたんだ
ストンと、そう思います。
「行きましょう。
人間と魔族の未来のために――」
フォード王子が何やら魔法を唱えます。
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