49 / 71
48. あなたの思い通りになんて絶対にさせない!
しおりを挟む
「まさか話も聞かずに、牢に入れられるなんて……」
凶悪犯罪者を捕えるために用意された地下牢の中で、私はぼやきます。
私を呼び戻してどうやって、自分たちの信頼度を上げるつもりなのかと疑問には思っていました。
更なる冤罪をかけられるとは予想外です。
魔族と組んで国を滅ぼそうとしている、というのは何ともお粗末な作り話ではありますが……。
「やられたわね」
――私が魔族との和平を主張しようものなら。
フォード王子たちの言い分が正しい、という方向に持っていかれそうです。
自らの潔白を証明しようとすると、魔族との和平は困難になってしまいます。
忌々しいことです。
◇◆◇◆◇
これから貴族裁判に向けてどうしようかと。
私が地下牢の中で考えていると、カレイドル男爵令嬢がやって来てきました。
「全てを持っていたのに、今や全てを失って牢屋暮らしで処刑を待つだけ。
ふふふ、本当に良い気味ですね」
「あらカレイドルさん。こんな小汚い牢まで、ようこそお越しくださいました。
……何の用ですか?」
勝ち誇ったような顔を浮かべるカレイドル嬢を、私はただ哀れに思います。
冷笑を浮かべ視線を向けると、癇癪を起こしたように地団駄。
「踏み台に過ぎないくせに!
貴族裁判、あなたに万が一でも勝ち目なんてないわよ。
その余裕は何なのよ。もっと泣きわめいて、取り乱しなさいよ!」
本当にフォード王子を次期国王にするつもりなら。
この女に、こんなところで油を売っている暇はないはずですが。
私を追放したことで、敵に回ってしまった勢力は少なくないでしょう。
フォード王子にかろうじて従っている人も、いつ手のひらを返すかはわかりません。いつまでも沈みゆく泥船に乗っている物ばかりではないでしょう。
それとも貴族裁判を終えれば、すべてが上手くいくとでも信じ切っているのでしょうか。
「まああなたたちが勝手に失脚する分には勝手ですが。
あなたは、これからどうするつもりですか?」
「ふん。地下牢の中でそんなことを言っても滑稽なだけね。
他人の前に、自分の心配をするべきでしょうに」
「ご忠告どうも。フォード王子がこのままでは失脚することは明らかでしょうに」
楽しそうでなによりです。
「魔族と手を組んでの国家転覆を図るところを見た、でしたっけ。
自分たちの判断が合っていたと見せるための、白々しい主張ですね。
遠見の魔法なんてものが、本当に物的証拠になると思っているわけではないでしょう?」
「悪役令嬢の分際で、ずいぶん偉そうなことを言うじゃない。
私のフォード王子の婚約者ってだけでも、気に喰わなかったのに……」
怒りに顔を歪ませ、ジュリーヌさんはそう毒づきました。
「いい? この世界は、私を中心に回っているの。
私の望みどおりに進まないことなんて、何もないわ」
そう自信満々にジュリーヌさんは、そう言い切ります。
――何言ってるんだこいつ?
頭がおかしくなってしまったのでしょうか。
理解できないものに遭遇したような気持ちで、私はマジマジと見つめ返してしまいました。
「それなのに、追放先で隠しキャラのヴァルフレア様を攻略してるですって。
そんなデタラメ、絶対に許さないわ」
悪役令嬢? 私のフォード王子?
だめだ、この女の言っていることがこれっぽちも分かりません。
ついでに言えば、分かりたくもない。
「ヴァルフレア様はね。戦争で配下の魔族を失った後の、孤独な姿が一番魅力的なのよ。
そこを優しく慰めるのが私の役割で、感動的なシナリオなの。
悪役令嬢ごときに出番はないわ」
カレイドル男爵令嬢は、魔王様のことをうっとりと語り始めます。
その様子は、まるで恋する乙女のようで。
ただし、話す内容は邪悪そのものでした。
「せ、戦争ですって?」
「人間と魔族の全面戦争を起こさないと、進めないルートもいっぱいあるのよ。
あなたの出番はもう終わったでしょう? これ以上、私の邪魔をしないでよ」
戦争を望んでいるとしか思えない発言。
魔王様に和平交渉を任された私には、決して聞き逃せない言葉。
「そんな自分本位な理由で。
この国と魔族たちに災いをもたらそうというのですか!?」
「そうよ。私が見たいルートでは、必須イベントなんだから」
好きなおもちゃをねだるような表情で。
――こいつは、敵だ。
私個人を嵌めようとしているだけではない。
国全体を混沌に陥れ、私と魔王様の願いも踏みにじろうとする敵だ。
「そんなことはさせません。
この国のために……いいえ、なにより魔王様の心を守るためにも。
あなたの思い通りになんて絶対にさせない!」
決意を新たにして。
私は、ギリッとカレイドル男爵令嬢を睨みつけました。
「ふん。そういう顔もできるのね……」
ジュリーヌさんは、なぜか意外そうな表情を浮かべましたが。
やがては好戦的な笑みを、その顔に貼り付けると
「貴族裁判を楽しみにしているわ」
立ち去りながら、そう言い残すのでした。
凶悪犯罪者を捕えるために用意された地下牢の中で、私はぼやきます。
私を呼び戻してどうやって、自分たちの信頼度を上げるつもりなのかと疑問には思っていました。
更なる冤罪をかけられるとは予想外です。
魔族と組んで国を滅ぼそうとしている、というのは何ともお粗末な作り話ではありますが……。
「やられたわね」
――私が魔族との和平を主張しようものなら。
フォード王子たちの言い分が正しい、という方向に持っていかれそうです。
自らの潔白を証明しようとすると、魔族との和平は困難になってしまいます。
忌々しいことです。
◇◆◇◆◇
これから貴族裁判に向けてどうしようかと。
私が地下牢の中で考えていると、カレイドル男爵令嬢がやって来てきました。
「全てを持っていたのに、今や全てを失って牢屋暮らしで処刑を待つだけ。
ふふふ、本当に良い気味ですね」
「あらカレイドルさん。こんな小汚い牢まで、ようこそお越しくださいました。
……何の用ですか?」
勝ち誇ったような顔を浮かべるカレイドル嬢を、私はただ哀れに思います。
冷笑を浮かべ視線を向けると、癇癪を起こしたように地団駄。
「踏み台に過ぎないくせに!
貴族裁判、あなたに万が一でも勝ち目なんてないわよ。
その余裕は何なのよ。もっと泣きわめいて、取り乱しなさいよ!」
本当にフォード王子を次期国王にするつもりなら。
この女に、こんなところで油を売っている暇はないはずですが。
私を追放したことで、敵に回ってしまった勢力は少なくないでしょう。
フォード王子にかろうじて従っている人も、いつ手のひらを返すかはわかりません。いつまでも沈みゆく泥船に乗っている物ばかりではないでしょう。
それとも貴族裁判を終えれば、すべてが上手くいくとでも信じ切っているのでしょうか。
「まああなたたちが勝手に失脚する分には勝手ですが。
あなたは、これからどうするつもりですか?」
「ふん。地下牢の中でそんなことを言っても滑稽なだけね。
他人の前に、自分の心配をするべきでしょうに」
「ご忠告どうも。フォード王子がこのままでは失脚することは明らかでしょうに」
楽しそうでなによりです。
「魔族と手を組んでの国家転覆を図るところを見た、でしたっけ。
自分たちの判断が合っていたと見せるための、白々しい主張ですね。
遠見の魔法なんてものが、本当に物的証拠になると思っているわけではないでしょう?」
「悪役令嬢の分際で、ずいぶん偉そうなことを言うじゃない。
私のフォード王子の婚約者ってだけでも、気に喰わなかったのに……」
怒りに顔を歪ませ、ジュリーヌさんはそう毒づきました。
「いい? この世界は、私を中心に回っているの。
私の望みどおりに進まないことなんて、何もないわ」
そう自信満々にジュリーヌさんは、そう言い切ります。
――何言ってるんだこいつ?
頭がおかしくなってしまったのでしょうか。
理解できないものに遭遇したような気持ちで、私はマジマジと見つめ返してしまいました。
「それなのに、追放先で隠しキャラのヴァルフレア様を攻略してるですって。
そんなデタラメ、絶対に許さないわ」
悪役令嬢? 私のフォード王子?
だめだ、この女の言っていることがこれっぽちも分かりません。
ついでに言えば、分かりたくもない。
「ヴァルフレア様はね。戦争で配下の魔族を失った後の、孤独な姿が一番魅力的なのよ。
そこを優しく慰めるのが私の役割で、感動的なシナリオなの。
悪役令嬢ごときに出番はないわ」
カレイドル男爵令嬢は、魔王様のことをうっとりと語り始めます。
その様子は、まるで恋する乙女のようで。
ただし、話す内容は邪悪そのものでした。
「せ、戦争ですって?」
「人間と魔族の全面戦争を起こさないと、進めないルートもいっぱいあるのよ。
あなたの出番はもう終わったでしょう? これ以上、私の邪魔をしないでよ」
戦争を望んでいるとしか思えない発言。
魔王様に和平交渉を任された私には、決して聞き逃せない言葉。
「そんな自分本位な理由で。
この国と魔族たちに災いをもたらそうというのですか!?」
「そうよ。私が見たいルートでは、必須イベントなんだから」
好きなおもちゃをねだるような表情で。
――こいつは、敵だ。
私個人を嵌めようとしているだけではない。
国全体を混沌に陥れ、私と魔王様の願いも踏みにじろうとする敵だ。
「そんなことはさせません。
この国のために……いいえ、なにより魔王様の心を守るためにも。
あなたの思い通りになんて絶対にさせない!」
決意を新たにして。
私は、ギリッとカレイドル男爵令嬢を睨みつけました。
「ふん。そういう顔もできるのね……」
ジュリーヌさんは、なぜか意外そうな表情を浮かべましたが。
やがては好戦的な笑みを、その顔に貼り付けると
「貴族裁判を楽しみにしているわ」
立ち去りながら、そう言い残すのでした。
0
あなたにおすすめの小説
辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~
香木陽灯
恋愛
「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」
実の父と妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。
「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」
「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」
二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。
※ふんわり設定です。
※他サイトにも掲載中です。
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた
夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。
そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。
婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
現聖女ですが、王太子妃様が聖女になりたいというので、故郷に戻って結婚しようと思います。
和泉鷹央
恋愛
聖女は十年しか生きられない。
この悲しい運命を変えるため、ライラは聖女になるときに精霊王と二つの契約をした。
それは期間満了後に始まる約束だったけど――
一つ……一度、死んだあと蘇生し、王太子の側室として本来の寿命で死ぬまで尽くすこと。
二つ……王太子が国王となったとき、国民が苦しむ政治をしないように側で支えること。
ライラはこの契約を承諾する。
十年後。
あと半月でライラの寿命が尽きるという頃、王太子妃ハンナが聖女になりたいと言い出した。
そして、王太子は聖女が農民出身で王族に相応しくないから、婚約破棄をすると言う。
こんな王族の為に、死ぬのは嫌だな……王太子妃様にあとを任せて、村に戻り幼馴染の彼と結婚しよう。
そう思い、ライラは聖女をやめることにした。
他の投稿サイトでも掲載しています。
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
追放された悪役令嬢、規格外魔力でもふもふ聖獣を手懐け隣国の王子に溺愛される
黒崎隼人
ファンタジー
「ようやく、この息苦しい生活から解放される!」
無実の罪で婚約破棄され、国外追放を言い渡された公爵令嬢エレオノーラ。しかし彼女は、悲しむどころか心の中で歓喜の声をあげていた。完璧な淑女の仮面の下に隠していたのは、国一番と謳われた祖母譲りの規格外な魔力。追放先の「魔の森」で力を解放した彼女の周りには、伝説の聖獣グリフォンをはじめ、可愛いもふもふ達が次々と集まってきて……!?
自由気ままなスローライフを満喫する元悪役令嬢と、彼女のありのままの姿に惹かれた「氷の王子」。二人の出会いが、やがて二つの国の運命を大きく動かすことになる。
窮屈な世界から解き放たれた少女が、本当の自分と最高の幸せを見つける、溺愛と逆転の異世界ファンタジー、ここに開幕!
出来損ないの私がお姉様の婚約者だった王子の呪いを解いてみた結果→
AK
恋愛
「ねえミディア。王子様と結婚してみたくはないかしら?」
ある日、意地の悪い笑顔を浮かべながらお姉様は言った。
お姉様は地味な私と違って公爵家の優秀な長女として、次期国王の最有力候補であった第一王子様と婚約を結んでいた。
しかしその王子様はある日突然不治の病に倒れ、それ以降彼に触れた人は石化して死んでしまう呪いに身を侵されてしまう。
そんは王子様を押し付けるように婚約させられた私だけど、私は光の魔力を有して生まれた聖女だったので、彼のことを救うことができるかもしれないと思った。
お姉様は厄介者と化した王子を押し付けたいだけかもしれないけれど、残念ながらお姉様の思い通りの展開にはさせない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる