冤罪で魔族領に追放されましたが、魔王様に溺愛されているので幸せです!

アトハ

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33. これから毎日、潰れるまで酒を飲んでも良いんだな! 

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「さて、この兵舎の中でどんちゃん騒ぎをしていた訳。
 聞かせてもらいましょうか?」

 リリーネさんが、腰に手を当てブヒータさんを睨み付けました。
 その勢いに負けたのか神妙な様子で――

「あ~、リリーネさん。
 今日は体調不良で非番なんだ。細かいことは言いっこなしだぜ?」

 あ、全然反省してないな!?
 酔っ払い強し。リリーネさんの怒りもどこ吹く風。
 ブヒータさんは自らのペースを崩しません。

「体調不良の中、どうして部下集めて飲んだくれてるの。
 こうやって飲んだくれてたら、永遠に治らないでしょうが!
 そんな状態で、もし魔王城が他の魔族の侵攻を受けたらどうするつもりなんですか」
「そうは言ったってよ~。
 魔王様と敵対しようなんて酔狂なやつ、そうはいねえだろう?」

 この緊張感の無さは、魔族領が平和だという証拠なのでしょうか。
 部屋の奥からは、わいわいと酔っ払いの喧噪が聞こえます。 


「そんなことより、どうしてこんな酒くせえ空間にひめさまを連れてきたんだ?
 客人を連れてくるような場所じゃないだろう」

 怪訝そうな顔でリリーネさんに尋ねるブヒータさん。
 ここは私が答えましょうか。

「リリーネさんに、何か仕事を手伝わせて欲しいって頼んだんです。
 そしたらアビーの提案で、ブヒータさんの二日酔いを治して欲しいって」 

 アビーがとても困ってましたから、とチクリと釘を刺します。
 しかし酔っ払いにそんな皮肉は通じることもなく。

「そんなこと本当に可能なのか~?」
『ひめさまの癒しの魔法に不可能はないよ。
 なんせヴィルのイガイガ虫を殲滅したんだから!』

 アビーは渾身のドヤ顔。
 ほう、と興味深そうに目を細めブヒータはこちらに視線を送ります。

「ゾンビの種族病、とまで言われたイガイガ虫をか?」
「ヴィルの虫は、たまたま私の魔法と相性が良かっただけです。
 あまり期待されても困りますからね!」


 過剰評価されては敵わないと、私は慌ててこう付け足しました。

「それ以前に、聖属性魔法を受けたんだよな。
 ヴィルは本当に無事なんだろうな?」
「もちろんですよ。
 足の痒みがなくなったって、とっても喜んでいましたよ」
「にわかには信じられない話だが……」

 やっぱり半信半疑のようですね。
 それでも、もしかしたらという期待も感じます。

「本当に、この忌々しい二日酔いを治せるのか?
 これから毎日、潰れるまで酒を飲んでも良いんだな!」

 それはダメに決まってるでしょ!

 そんな期待を込めた目で見られても困ります。
 リリーネさんの怖い視線がこっちにも向いたので、滅多なことを言うのは止めて欲しいです。

 
「やっぱり帰りましょう。
 ブヒータの完全なる自業自得ですから。
 フィーネ様の力を、わざわざ使わせるのはあまりに申し訳ありません」
「いいえ。癒しの力がどこまで通用するのか興味があります。
 やらせてください」

 ブヒータさんが自業自得というのは同意ですが、このまま帰るわけにもいきません。
 ここに来た目的の1つは、ブヒータさんに癒しの力を認めさせることですから。
 どれだけ馬鹿馬鹿しいことでも、きっちりやり遂げてみせましょう。

 私は、ブヒータさんに外のベンチに座るよう勧めます。


「何か体に違和感があれば、すぐに止めるので言ってくださいね」
「お、おい。本当に大丈夫なんだろうな?」
『どーんと大船に乗った気で任せてよ!』

 不安げなブヒータさんを華麗にスルー。
 ゾンビはとりわけ聖属性の魔力に弱いそうで。
 今回は多少の悪影響が出ても、すぐに中断すれば大きな問題は起こらないだろうとの判断。


「万物に宿りし癒しの力を――」

 ブヒータさんのお腹に手を当てます。
 オークに宿る生命エネルギーは強靭です。
 少しだけ増幅し、体内に残っているアルコールを除去するよう働きかけます。
 
 やがて効果が出てきたのでしょうか。
 酔っ払い特有の顔の赤みが引いていき――



 リリーネさんとアビーを見比べ、サーッと青ざめていくのでした。
 うん、素面に戻っちゃったらそうだよね……。
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