上 下
30 / 71

29. ブヒータさんに、癒しの力が必要なんですか?

しおりを挟む
「いえいえ、フィーネ様。
 お客人にそんなことをさせる訳にはいきませんよ」

 慌てたリリーネさんがそう答えます。

「そうは言っても。リリーネさんの忙しさを知りながら、何もせずにいるのは落ち着かないですよ。
 来たばかりでは、あまり役には立たないかもしれませんが……」

 考えてみれば、忙しい中に素人が混ざっても邪魔なだけ。
 迷惑な申し出なのかもしれませんが……。



『ひめさまの意志を汲むべきだよ』

 そう提案してくれたのは、アビーさんでした。
 
『ひめさまの癒し奇跡を、他の魔族にも知ってもらうちょうど良い機会だよ。
 それに、ブヒータにはそろそろ元気になって貰わない困るし』
「なるほど。
 たしかにフィーネ様の力は、私も興味がありますね」

 いきなりの無茶ぶりです。
 私の扱う癒しの魔法なんて、ごくごく普通の聖属性魔法ですからね!?
  
「ブヒータさんと言うと……私に毒キノコを勧めてきたオークでしたっけ?」
「その通りですよ。
 反省もせずひたすら飲んだくれて。
 ふっふっふ。元気になったらどうしてくれましょうね」

 リリーネさんの目が一気に据わったものになりました。

『悪気はなかったと思うんだ。
 後できつくお灸を据えておくから、許してあげて?』
「構いませんけど……。
 死にたくないので、同じことを繰り返さないようにお願いしますね」

 ブヒータさんの人柄的に、料理を勧めてきたのはきっと親切心から。
 恨む気は無いですが、魔族との違いを感じる思い出で恐ろしくもあります。
 アビーたちが一緒に来てくれるなら、滅多なことは起こらないと思いますが。

「お任せください。
 一から徹底的に教育してさしあげますので」

 リリーネさんの良い笑顔。
 目はまったく笑っていないです。
 そういえばオークのせいで片付けが大変だとも言っていましたし、不満が溜まっているのかもしれませんね。合掌。



「ええっと。ブヒータさんに、癒しの力が必要なんですか?」

 つい2日前には、誰よりも歓迎パーティーを満喫していそうでした。
 あれだけ元気だったブヒータさんが、今では癒しの力を欲しているというのでしょうか。
 何が起きたというのでしょう、知らない仲ではありませんし心配です。


「ほっときゃいいのよ、完全に自業自得。
 フィーネ様のお手を煩わせるなんて、とんでもない」
『リリーネさん、二日酔いは辛いよ。
 ひめさまなら分かってくれるはず』

 前言撤回、ちっとも心配じゃなくなりました。

 そして、二日酔いの辛さに同意を求めないで欲しい。
 とってもよく分かりますけど……。

「オークって酔いが長引きやすい種族なんですか?」
「あの馬鹿たちは『二日酔いの特効薬は迎え酒だ~!』とか言って、兵舎に戻ったあとも狂ったみたいに飲み続けてるんだよ」

 そして、再びぶっ倒れると。
 何ですか地獄絵図。
 パーティー会場でのイメージそのままで、光景が目に浮かぶようです。

 それにしても、二日酔いに癒しの魔法が効くなんて初耳です。
 出来ることなら、昨日のうちに知りたかったですよ。

『馬鹿みたいな理由だけど。
 ブヒータは、あれでも魔王城の陸軍を束ねる役割も担ってるからね。
 早く元気になって貰わないと困るんだ』

 頼み辛そうにおずおずと言うアビーに

「私の癒しの力が、どの程度の効力を持つかは分かりませんが……。
 私にできることなら試させてください」


 そう答えました。
 二日酔いの辛さはよく分かりますからね……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

断罪された公爵令嬢に手を差し伸べたのは、私の婚約者でした

カレイ
恋愛
 子爵令嬢に陥れられ第二王子から婚約破棄を告げられたアンジェリカ公爵令嬢。第二王子が断罪しようとするも、証拠を突きつけて見事彼女の冤罪を晴らす男が現れた。男は公爵令嬢に跪き…… 「この機会絶対に逃しません。ずっと前から貴方をお慕いしていましたんです。私と婚約して下さい!」     ええっ!あなた私の婚約者ですよね!?

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

婚約破棄されて田舎に飛ばされたのでモフモフと一緒にショコラカフェを開きました

碓氷唯
恋愛
公爵令嬢のシェイラは王太子に婚約破棄され、前世の記憶を思い出す。前世では両親を亡くしていて、モフモフの猫と暮らしながらチョコレートのお菓子を作るのが好きだったが、この世界ではチョコレートはデザートの横に適当に添えられている、ただの「飾りつけ」という扱いだった。しかも板チョコがでーんと置いてあるだけ。え? ひどすぎません? どうしてチョコレートのお菓子が存在しないの? なら、私が作ってやる! モフモフ猫の獣人と共にショコラカフェを開き、不思議な力で人々と獣人を救いつつ、モフモフとチョコレートを堪能する話。この作品は小説家になろう様にも投稿しています。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

婚約者が実は私を嫌っていたので、全て忘れる事にしました

Kouei
恋愛
私セイシェル・メルハーフェンは、 あこがれていたルパート・プレトリア伯爵令息と婚約できて幸せだった。 ルパート様も私に歩み寄ろうとして下さっている。 けれど私は聞いてしまった。ルパート様の本音を。 『我慢するしかない』 『彼女といると疲れる』 私はルパート様に嫌われていたの? 本当は厭わしく思っていたの? だから私は決めました。 あなたを忘れようと… ※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。

(完)妹の子供を養女にしたら・・・・・・

青空一夏
恋愛
私はダーシー・オークリー女伯爵。愛する夫との間に子供はいない。なんとかできるように努力はしてきたがどうやら私の身体に原因があるようだった。 「養女を迎えようと思うわ・・・・・・」 私の言葉に夫は私の妹のアイリスのお腹の子どもがいいと言う。私達はその産まれてきた子供を養女に迎えたが・・・・・・ 異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。ざまぁ。魔獣がいる世界。

婚約破棄されたのたが、兄上がチートでツラい。

藤宮
恋愛
「ローズ。貴様のティルナシア・カーターに対する数々の嫌がらせは既に明白。そのようなことをするものを国母と迎え入れるわけにはいかぬ。よってここにアロー皇国皇子イヴァン・カイ・アローとローザリア公爵家ローズ・ロレーヌ・ローザリアの婚約を破棄する。そして、私、アロー皇国第二皇子イヴァン・カイ・アローは真に王妃に相応しき、このカーター男爵家令嬢、ティルナシア・カーターとの婚約を宣言する」 婚約破棄モノ実験中。名前は使い回しで← うっかり2年ほど放置していた事実に、今驚愕。

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

処理中です...