2 / 10
2. 絶望的な勝利条件
しおりを挟む
――もてあそびやがって。
――ふざけるな。
前世はろくでもない生活の中、最後にはトラックに引かれて死んだ。せっかく異世界転生したというのに、よりにもよって今度はデスゲーム世界のラスボス・悪役令嬢ですって?
勝手に期待していただけではあるが、さすがにあんまりではないか。
もしも、転生を司る神様とやらがいるのなら……。
「私は、絶対に思い通りになんかなってやらない」
それは宣言。
前世では友達の一人もできず、誰にも見届けられずに孤独に死んだのだ。こうして転生して、また惨たらしく死ねというのか。冗談ではない。私がうろたえたまま死ぬことを望まれているのなら――どんなことをしてでも、生き延びてやろうじゃないか。
その宣言と同時に、私の自己紹介タイムがおわったらしい。
『何に対する挑戦状かな?
随分と、個性的な自己紹介だね。
ふむ、次だ』
揶揄するような機械音。乙女ゲームですでに展開を知っている私は、この自己紹介タイムの意味を思い出していた。このデスゲームは、タチの悪い大貴族を集めて開かれている娯楽のための殺し合い・見せ物なのだ。
金に困る貴族の末っ子など、不要と言われたものたちを呼び寄せ、殺し合いをさせるという残酷なもの。私たちの殺しあいの様子は、すべて中継魔法を通じてたちのわるい道楽連中により監視されているのだ。
(ゲームで遊んでいたときもずいぶんと胸くそ悪い設定だったけど。
こうしてこの世界に生まれてみるとなおさら腹立たしいわね)
このデスゲームは、貴族連中にとっては賭けの対象でしかないのだ。
ここに集められた6人には番号が割り当てられ、何番が生き残るに賭けているのだ。そのための判断材料の1つが自己紹介によるアピールタイム。この賭けで多くの票を集めたプレイヤーは、早々に脱落しないよう運営により(こっそりと)便宜が図られるのだ。
それだけでない、この自己紹介タイムは本当に非常に重要なのだ。なにせプレイヤー全員が映像を見ているのだ。この時間の結果をもとに、誰と組むのが生存率が高そうかか、といったことを考えるのだ。
ゲームでも自己紹介タイムの後にルート選択があった。ヒロインであるプレイヤーは、行動をともにする攻略対象を選択するのだ。
(ははは。まあ悪役令嬢である私には関係ないんですけどね)
自嘲気味に笑うしかなかった。改めて、自らの『解毒条件』が書かれたプレートを眺める。
===
No. 3
解毒条件: 自分以外の全プレイヤーの死亡
===
何度見直しても、この絶望的な条件は変わらない。
解毒条件は、このデスゲームの命綱である。そのため容易に人に明かすことは出来ない。しかし、互いを信頼しあうためには、どこかのタイミングで見せ合う必要があるのだ。ゲームでは、心を許し合ったヒロインと攻略対象が互いの勝利条件を見せ合うシーンが、どのルートでも非常に印象的に描かれていた。
この解毒条件があるからこそ、悪役令嬢・ティアナは、必ず最後にヒロインとヒーローの間に立ちはだかるのだ。自らの生き残りをかけて。条件のせいで誰とも組めずに、たった1人でヒロインたち連合部隊へと挑むのだ。
『次の人どうぞ』
「ヤンだ。剣闘士として育ってきたから腕には自信がある。生存を目指し、協力できるものとは共に解毒条件の達成を目指したいと考えている」
そうこうしているうちに5人目の自己紹介タイムが終わる。
『はい。
自己紹介タイムも、次の人で最後だね?』
いよいよ、ヒロインの番がやってくる。
ゲームだと記憶だと、緊張のあまりろくに喋れなかった記憶があるが、この世界でもヒロインはゲームの性格どおりになのだろうか?
「ええっと、エミリーです。平民です。
国境沿いにあるエスタニアの街からやってきました。
借金を返すために取引をしたのですが、こんなゲームに参加させられるとは思ってもいませんでした……。ええっと、こんな状況ですが。みなさんと仲良くできればと思います」
ぺこぺことお辞儀するエミリー。
(うんうん、たどたどしい)
思わず生暖かい目線で見てしまう。
どこか擦れたところがある他の4人と違い、どこか天然なところがあるヒロイン。こんな場所には似つかわしくない、暖かい雰囲気の少女。傍にいるだけでホッとする、と称されるのは彼女の持つ独特のほんわかした雰囲気によるものだろう。さすがヒロイン。
「ティアナ・クラリエルに生存ルートはない。
ゲームの通り進んだら、ジ・エンドだ。……ここから生き残るためには」
ようやく異世界に転生したのに、こんなところで死んでたまるか。私は生き残るための方法を考える。答えは一瞬で出た。
――攻略対象とヒロインを皆殺しにするしかない
デスゲームもののお約束といっても良いが、運営は絶対なのだ。逆らうと容赦なく殺される。どうにかして生き残るためには、おとなしく解毒条件の達成を目指すしかないのだ。
私の決意は、くしくもゲーム中でティアナが導き出した結論と同じであった。
――ふざけるな。
前世はろくでもない生活の中、最後にはトラックに引かれて死んだ。せっかく異世界転生したというのに、よりにもよって今度はデスゲーム世界のラスボス・悪役令嬢ですって?
勝手に期待していただけではあるが、さすがにあんまりではないか。
もしも、転生を司る神様とやらがいるのなら……。
「私は、絶対に思い通りになんかなってやらない」
それは宣言。
前世では友達の一人もできず、誰にも見届けられずに孤独に死んだのだ。こうして転生して、また惨たらしく死ねというのか。冗談ではない。私がうろたえたまま死ぬことを望まれているのなら――どんなことをしてでも、生き延びてやろうじゃないか。
その宣言と同時に、私の自己紹介タイムがおわったらしい。
『何に対する挑戦状かな?
随分と、個性的な自己紹介だね。
ふむ、次だ』
揶揄するような機械音。乙女ゲームですでに展開を知っている私は、この自己紹介タイムの意味を思い出していた。このデスゲームは、タチの悪い大貴族を集めて開かれている娯楽のための殺し合い・見せ物なのだ。
金に困る貴族の末っ子など、不要と言われたものたちを呼び寄せ、殺し合いをさせるという残酷なもの。私たちの殺しあいの様子は、すべて中継魔法を通じてたちのわるい道楽連中により監視されているのだ。
(ゲームで遊んでいたときもずいぶんと胸くそ悪い設定だったけど。
こうしてこの世界に生まれてみるとなおさら腹立たしいわね)
このデスゲームは、貴族連中にとっては賭けの対象でしかないのだ。
ここに集められた6人には番号が割り当てられ、何番が生き残るに賭けているのだ。そのための判断材料の1つが自己紹介によるアピールタイム。この賭けで多くの票を集めたプレイヤーは、早々に脱落しないよう運営により(こっそりと)便宜が図られるのだ。
それだけでない、この自己紹介タイムは本当に非常に重要なのだ。なにせプレイヤー全員が映像を見ているのだ。この時間の結果をもとに、誰と組むのが生存率が高そうかか、といったことを考えるのだ。
ゲームでも自己紹介タイムの後にルート選択があった。ヒロインであるプレイヤーは、行動をともにする攻略対象を選択するのだ。
(ははは。まあ悪役令嬢である私には関係ないんですけどね)
自嘲気味に笑うしかなかった。改めて、自らの『解毒条件』が書かれたプレートを眺める。
===
No. 3
解毒条件: 自分以外の全プレイヤーの死亡
===
何度見直しても、この絶望的な条件は変わらない。
解毒条件は、このデスゲームの命綱である。そのため容易に人に明かすことは出来ない。しかし、互いを信頼しあうためには、どこかのタイミングで見せ合う必要があるのだ。ゲームでは、心を許し合ったヒロインと攻略対象が互いの勝利条件を見せ合うシーンが、どのルートでも非常に印象的に描かれていた。
この解毒条件があるからこそ、悪役令嬢・ティアナは、必ず最後にヒロインとヒーローの間に立ちはだかるのだ。自らの生き残りをかけて。条件のせいで誰とも組めずに、たった1人でヒロインたち連合部隊へと挑むのだ。
『次の人どうぞ』
「ヤンだ。剣闘士として育ってきたから腕には自信がある。生存を目指し、協力できるものとは共に解毒条件の達成を目指したいと考えている」
そうこうしているうちに5人目の自己紹介タイムが終わる。
『はい。
自己紹介タイムも、次の人で最後だね?』
いよいよ、ヒロインの番がやってくる。
ゲームだと記憶だと、緊張のあまりろくに喋れなかった記憶があるが、この世界でもヒロインはゲームの性格どおりになのだろうか?
「ええっと、エミリーです。平民です。
国境沿いにあるエスタニアの街からやってきました。
借金を返すために取引をしたのですが、こんなゲームに参加させられるとは思ってもいませんでした……。ええっと、こんな状況ですが。みなさんと仲良くできればと思います」
ぺこぺことお辞儀するエミリー。
(うんうん、たどたどしい)
思わず生暖かい目線で見てしまう。
どこか擦れたところがある他の4人と違い、どこか天然なところがあるヒロイン。こんな場所には似つかわしくない、暖かい雰囲気の少女。傍にいるだけでホッとする、と称されるのは彼女の持つ独特のほんわかした雰囲気によるものだろう。さすがヒロイン。
「ティアナ・クラリエルに生存ルートはない。
ゲームの通り進んだら、ジ・エンドだ。……ここから生き残るためには」
ようやく異世界に転生したのに、こんなところで死んでたまるか。私は生き残るための方法を考える。答えは一瞬で出た。
――攻略対象とヒロインを皆殺しにするしかない
デスゲームもののお約束といっても良いが、運営は絶対なのだ。逆らうと容赦なく殺される。どうにかして生き残るためには、おとなしく解毒条件の達成を目指すしかないのだ。
私の決意は、くしくもゲーム中でティアナが導き出した結論と同じであった。
0
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説
乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う
ひなクラゲ
ファンタジー
ここは乙女ゲームの世界
悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…
主人公と王子の幸せそうな笑顔で…
でも転生者であるモブは思う
きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…
乙女ゲームの悪役令嬢は生れかわる
レラン
恋愛
前世でプレーした。乙女ゲーム内に召喚転生させられた主人公。
すでに危機的状況の悪役令嬢に転生してしまい、ゲームに関わらないようにしていると、まさかのチート発覚!?
私は平穏な暮らしを求めただけだっだのに‥‥ふふふ‥‥‥チートがあるなら最大限活用してやる!!
そう意気込みのやりたい放題の、元悪役令嬢の日常。
⚠︎語彙力崩壊してます⚠︎
⚠︎誤字多発です⚠︎
⚠︎話の内容が薄っぺらです⚠︎
⚠︎ざまぁは、結構後になってしまいます⚠︎
転生したら大好きな乙女ゲームの世界だったけど私は妹ポジでしたので、元気に小姑ムーブを繰り広げます!
つなかん
ファンタジー
なんちゃってヴィクトリア王朝を舞台にした乙女ゲーム、『ネバーランドの花束』の世界に転生!? しかし、そのポジションはヒロインではなく少ししか出番のない元婚約者の妹! これはNTRどころの騒ぎではないんだが!
第一章で殺されるはずの推しを救済してしまったことで、原作の乙女ゲーム展開はまったくなくなってしまい――。
***
黒髪で、魔法を使うことができる唯一の家系、ブラッドリー家。その能力を公共事業に生かし、莫大な富と権力を持っていた。一方、遺伝によってのみ継承する魔力を独占するため、下の兄弟たちは成長速度に制限を加えられる負の側面もあった。陰謀渦巻くパラレル展開へ。
転生したら、犬だったらよかったのに……9割は人間でした。
真白 悟
ファンタジー
なんかよくわからないけど、神さまの不手際で転生する世界を間違えられてしまった僕は、好きなものに生まれ変われることになった。
そのついでに、さまざまなチート能力を提示されるが、どれもチートすぎて、人生が面白く無くなりそうだ。そもそも、人間であることには先の人生で飽きている。
だから、僕は神さまに願った。犬になりたいと。犬になって、犬達と楽しい暮らしをしたい。
チート能力を無理やり授けられ、犬(獣人)になった僕は、世界の運命に、飲み込まれていく。
犬も人間もいない世界で、僕はどうすればいいのだろう……まあ、なんとかなるか……犬がいないのは残念極まりないけど
悪役令嬢に転生したのですが、フラグが見えるのでとりま折らせていただきます
水無瀬流那
恋愛
転生先は、未プレイの乙女ゲーの悪役令嬢だった。それもステータスによれば、死ぬ確率は100%というDEATHエンド確定令嬢らしい。
このままでは死んでしまう、と焦る私に与えられていたスキルは、『フラグ破壊レベル∞』…………?
使い方も詳細も何もわからないのですが、DEATHエンド回避を目指して、とりまフラグを折っていこうと思います!
※小説家になろうでも掲載しています
【完結】悪役令嬢の妹に転生しちゃったけど推しはお姉様だから全力で断罪破滅から守らせていただきます!
くま
恋愛
え?死ぬ間際に前世の記憶が戻った、マリア。
ここは前世でハマった乙女ゲームの世界だった。
マリアが一番好きなキャラクターは悪役令嬢のマリエ!
悪役令嬢マリエの妹として転生したマリアは、姉マリエを守ろうと空回り。王子や執事、騎士などはマリアにアプローチするものの、まったく鈍感でアホな主人公に周りは振り回されるばかり。
少しずつ成長をしていくなか、残念ヒロインちゃんが現る!!
ほんの少しシリアスもある!かもです。
気ままに書いてますので誤字脱字ありましたら、すいませんっ。
月に一回、二回ほどゆっくりペースで更新です(*≧∀≦*)
元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます
みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。
女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。
勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。
不機嫌な悪役令嬢〜王子は最強の悪役令嬢を溺愛する?〜
晴行
恋愛
乙女ゲームの貴族令嬢リリアーナに転生したわたしは、大きな屋敷の小さな部屋の中で窓のそばに腰掛けてため息ばかり。
見目麗しく深窓の令嬢なんて噂されるほどには容姿が優れているらしいけど、わたしは知っている。
これは主人公であるアリシアの物語。
わたしはその当て馬にされるだけの、悪役令嬢リリアーナでしかない。
窓の外を眺めて、次の転生は鳥になりたいと真剣に考えているの。
「つまらないわ」
わたしはいつも不機嫌。
どんなに努力しても運命が変えられないのなら、わたしがこの世界に転生した意味がない。
あーあ、もうやめた。
なにか他のことをしよう。お料理とか、お裁縫とか、魔法がある世界だからそれを勉強してもいいわ。
このお屋敷にはなんでも揃っていますし、わたしには才能がありますもの。
仕方がないので、ゲームのストーリーが始まるまで悪役令嬢らしく不機嫌に日々を過ごしましょう。
__それもカイル王子に裏切られて婚約を破棄され、大きな屋敷も貴族の称号もすべてを失い終わりなのだけど。
頑張ったことが全部無駄になるなんて、ほんとうにつまらないわ。
の、はずだったのだけれど。
アリシアが現れても、王子は彼女に興味がない様子。
ストーリーがなかなか始まらない。
これじゃ二人の仲を引き裂く悪役令嬢になれないわ。
カイル王子、間違ってます。わたしはアリシアではないですよ。いつもツンとしている?
それは当たり前です。貴方こそなぜわたしの家にやってくるのですか?
わたしの料理が食べたい? そんなのアリシアに作らせればいいでしょう?
毎日つくれ? ふざけるな。
……カイル王子、そろそろ帰ってくれません?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる