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クリスマスは、ひとりがシミます

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 街中にクリスマスソングが響き溢れる中、俺·深瀬隆一は、トボトボと人混みに飲まれていった。

 ……ったく、何がクリスマスだよ。こっちは、他のやつの分まで仕事させられてたし!

「クリスマスケーキ、いかがですかぁ!」

 だの、

「クリスマス限定のオカチキ! 半額でぇーす」

 だのサンタの衣装なんぞ着込んでの売り込み、ご苦労さま。

「クリスマスなんて、祝って貰ったことなんて、ガキの頃だけだ」

 そんなことを呟くと目の先に何やら人だかり。

「なんだ、新しくチーズティの店がまた出来たのか」

 確か先月まで、タピオカブームだったのに!

「うーっ、さみっ」

 今年の冬は、“暖冬”と予報されていたのに、何故俺はこうも寒いんだろう。

 周りでは、マフラーを巻いて歩いてる人もいるのに……。

 アパート近くのコンビニで、オカチキとチューハイを買って、街灯が少ない道を歩く。


『階段を登る時は、足音を立てないっ!』

 大家直々の立て看板に軽く拳をぶつけ、俺は一階の自分の部屋のドアを開けた。

「ただいま」

 そう言っても、真っ暗な部屋の中はシンとしていて、物音ひとつしない。ま、してたら怖いけどな。

 パチンと部屋の灯りをつけると、寒々としただらしのない独身男の部屋が……。

「こんな部屋、母さんにでも見られたら俺実家連れ戻されかねんな」

 暖房をつけ、暖まるまでにコタツ周りを少し片付けながら、部屋着へと着替えた。

「あー、寒い寒い」

 スウェットから飛び出た足をこたつに突っ込むとじんわりと温まって、ため息が溢れる。

「……ったく、なになに?」

 新聞受けに入っていた郵便は、今日は2通だったが、1通は大学を早々に辞めた友人の結婚招待状。もう1通は……。

「……は? 家賃上がんの? こんなボロに⁈」

 俺が住んでるのは、1DKのアパート。6畳の広さで、バス・トイレ別なのはいいけど、隣との壁が薄く毎晩悩まされる。

「更新も来年あるからなぁ。かと言って母さんには頼めないし……」

 大学の費用、全て出して貰ったし、ここのアパートの費用までも!

 大学は短大だから、来年の3月には卒業。既に内定は取れてはいるが……。

「参ったな。ただでさえ、バイトバイトの毎日。これ以上は……」

 いつもと変わらない食事のメニューではあるが、今日はクリスマス!少し豪華なオカチキを皿に乗せ、遅めの夕食を取った。


 ピコピコンッ…ピコピコンッ…とゲームアプリの通知音が鳴り、起動させた。

“こんばんは。セルバ様。本日は、クリスマスイブですね。いかがお過ごしですか?”

 先月から始めたシュミレーションゲームの“彼女暮らし”。

「はいはい。寂しくひとり飯ですよ」

 スマホに向かってぶつぶつ呟く。

“明日は、セルバ様の彼女·茜ちゃんの誕生日ですね!”

 リアルで彼女はいない俺だが、スマホの中では彼女がいる。某アイドルグループの芹沢茜!から名前を貰いました。

“もうプレゼントやデートコースは、決めましたか? 本日は、クリスマスイブです。素敵な事が起きるといいですね!”

 もはや、テレビと会話するジーちゃんではあるが……。

“ログイン通算30日目です。クリスマスプレゼントとして、本日限定の素敵なプレゼントを贈ります。受け取りは、茜ちゃんから聞いて下さい。MeryXmas”

 珍しく長いテロップとの会話を切り、茜ちゃんが登場するまでに、汚れた食器を片付けたり、ベッドを整えたりした。

「風呂は明日にしよう。休みだし、入ればまたなんか言われるかもだし……」

 俺の風呂より隣の声をなんとかしろってーのっ!


 ベッドに潜り込んでから、茜ちゃんが現れるのを待つ。

 このゲームで流れてる曲もキャラクターも全てあのアイドルグループから出てる。

「出たっ!」

 いくら眠くなっても茜ちゃんの声を聞くと目が覚めてしまう。壁から聞こえる隣のアノ声を聞かないようにイヤホンを耳に挿し、布団に潜り込んだ。

「んふふ……可愛い……」

 ゲームをすると、テロップのお姉さんが言っていたように、茜ちゃんから「クリスマスプレゼント何がいい?」と聞かれたが……。

「10万ポイントにするか? 茜ちゃんとのデートがあたる無料ガチャにするか? んーっ……」

 これは困ったぞ。

 ポイントは、現金に換算すると10000円に現金化されるが、デートが当るとなると……。

「うーん、どちらも捨てがたい!」

 散々悩んだ挙げ句、クリスマスイブからクリスマスへと変わる10分前に俺は、無料ガチャ10 回チケットを選択した。

 そして……。

「よしっ! 頼む! 一生のお願いだ! 当ててくれ!」

 プレゼントもレストランの予約券もガチャでゲットした。あとは、茜ちゃんを1日ゲット出来ればーっ……。

「え? 嘘⁈ 当たったーっ‼ バンザーイっ‼」

 真夜中、部屋に響く俺の声に邪魔されたのか隣の男が壁をドンドン叩いてきた。

「あ、さーせん」

 まさか、最後の最後で茜ちゃんの1日をゲット出来るだなんて‼

「ん? お届け先入力? なにそれ……」

 よくわからんが、自分の住所とか電話番号とか色々打ち込んで、俺は眠りについた。
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