紫陽花

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私は学校が忙しかった。
音楽の道を志して、片道1時間半かかる場所にある学校に通っていたものだから、中々家に居ることも少なくなった。
祖父は色々な病院を入院してはリハビリ、また入院といった具合に、転々としていたようだ。最寄りの駅から歩いて5分の病院だったこともあるし、車で30分かかる所もあった。だが、たった5分歩けば着くのだろうに、私は中々会いに行くことが無かった。今思えば、あの時既に私の心の中で祖父は死んでいたのか、とすら思う程に、存在が薄まっていた。時が経って、大人になっていくにつれて自分の心が冷めていくのを自覚した気がして、嫌悪感でいっぱいになった。
一度見舞いに行った時、祖父は「芥川賞を取るまでは死ねない」と泣きながら言っていた。冗談半分だろうが、死を目の当たりにすることがとてつもなく恐ろしいのだろうと、私は同情してしまった。私だって今この時に死ぬかもしれないのに、自分では全く実感がない。
死を目の当たりにする実感を得た時の恐怖とは、恐ろしいものなのか、と感じた。
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