2 / 2
2.
しおりを挟む
私は学校が忙しかった。
音楽の道を志して、片道1時間半かかる場所にある学校に通っていたものだから、中々家に居ることも少なくなった。
祖父は色々な病院を入院してはリハビリ、また入院といった具合に、転々としていたようだ。最寄りの駅から歩いて5分の病院だったこともあるし、車で30分かかる所もあった。だが、たった5分歩けば着くのだろうに、私は中々会いに行くことが無かった。今思えば、あの時既に私の心の中で祖父は死んでいたのか、とすら思う程に、存在が薄まっていた。時が経って、大人になっていくにつれて自分の心が冷めていくのを自覚した気がして、嫌悪感でいっぱいになった。
一度見舞いに行った時、祖父は「芥川賞を取るまでは死ねない」と泣きながら言っていた。冗談半分だろうが、死を目の当たりにすることがとてつもなく恐ろしいのだろうと、私は同情してしまった。私だって今この時に死ぬかもしれないのに、自分では全く実感がない。
死を目の当たりにする実感を得た時の恐怖とは、恐ろしいものなのか、と感じた。
音楽の道を志して、片道1時間半かかる場所にある学校に通っていたものだから、中々家に居ることも少なくなった。
祖父は色々な病院を入院してはリハビリ、また入院といった具合に、転々としていたようだ。最寄りの駅から歩いて5分の病院だったこともあるし、車で30分かかる所もあった。だが、たった5分歩けば着くのだろうに、私は中々会いに行くことが無かった。今思えば、あの時既に私の心の中で祖父は死んでいたのか、とすら思う程に、存在が薄まっていた。時が経って、大人になっていくにつれて自分の心が冷めていくのを自覚した気がして、嫌悪感でいっぱいになった。
一度見舞いに行った時、祖父は「芥川賞を取るまでは死ねない」と泣きながら言っていた。冗談半分だろうが、死を目の当たりにすることがとてつもなく恐ろしいのだろうと、私は同情してしまった。私だって今この時に死ぬかもしれないのに、自分では全く実感がない。
死を目の当たりにする実感を得た時の恐怖とは、恐ろしいものなのか、と感じた。
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」
私が出会ったヤバい職場。 洗脳、霊感、乗っ取りetc.
coco
エッセイ・ノンフィクション
私は仕事を探していた。
面接を受けても採用されない日々。
そんな時、ある1つの求人を目にする。
それはとある病院の、職員募集だった。
面接を受けた私は無事に採用され、そこで働くことに。
しかしその職場には、数々のヤバい事案が潜んでいた。
そしていつしか私も、それに巻き込まれていく。
私は絶対、人に騙されない!
…そんな自信がある方、どうぞこれを読んで下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる