猛焔滅斬の碧刃龍

ガスト

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1章【地獄のスパルタ訓練編】

第112話・帰還。

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「──なんやかんやで、人類との戦いは回避できたね~」
 
 頭の後ろで手を組み、幼女は鼻歌を歌う。
 空を飛んで魔王城へ帰還する最中、機嫌良さげな幼女を見て魔王が口を開いた。
  
「まぁ、俺としては? 別に? そうなったらそうなったで、勝って済ませて終わりだったけどな!」
「やだぁ、そんなの。みんなハッピーの方がいいでしょ。
 私は、より打倒オーガに専念できる。人類は、勘違いをしたままで魔王軍との衝突を避けれる。
 そんでもって貴方は、人類との戦闘中の横槍を警戒する必要が無くなる⋯⋯ってね♪」

 幼女の言う、“横槍”。
 魔王は、そう表現された存在に心当たりがあった。
 正確には、該当対象が1つしか無かったので察しが着いた、というのが答えである。
 魔王ゼル当人からしたその該当対象は、“自身が横槍と認識する程の事態”を起こせる存在では無い。
 だが、他に候補として思い浮かぶ連中も居なかったので、消去法でが残ったのだった。
 
「“アイツ”は前にぶっ飛ばしてやってから大人しいし、仮にちょっかい出してきた所で⋯⋯」
「そう? 人類との戦闘、その後にオーガとの戦闘⋯⋯
 流石の貴方でも、ちょっとは疲れちゃうでしょ。
 そんな時に、もしも“あのコ”が何かしらの策を万全に仕込んでおいていたとしたら⋯⋯ねぇ?」
 「⋯⋯ハッ、舐めんなよ。俺ぁ“魔王”だぜ?
 三下が調子に乗って掛かってきたトコで、指先1つでチョイだ」

 ──少し、ごく僅かに、ほんの数ミリだけ。
 それでも、確実に。この時の魔王ゼルは、強がった。
 彼の脳裏に過ぎるのは、趣味の悪い赤のコートを羽織った存在。
 双対で、幾重にも枝分かれをした長細い角が聳(そび)える、気色の悪いニヤケ面をする男であった。

「ホントさ~、もっとさ~、魔族全体で仲良くしなよ~?」
「うっせえな。俺らにも都合ってモンがあんだよバカ」
「⋯⋯やれやれ。いつの時代でも、組織に軋轢(あつれき)は生まれちゃうものだね 」
「言っとけ。、俺は魔王だ。
 刃向かってくる連中は、全員潰してやるぜ」

 ギラリと嗤う魔王に対し、幼女は呆れ気味に溜息をつく。
 視線を正面に戻した彼女は、緋色の瞳で先を見据えた。
(⋯⋯まぁ、何はともあれ、かな。
 これで面倒な事態になるのは避けれたし、今は紅志の成長とオーガの能力の分析に集中しよう)
 また1つ動き始めた歯車に、幼女は薄く笑みを浮かべる。
 魔王城へ向け、勢いよく加速する彼女であった。


NOW  LOADING⋯


「──す、すげ⋯⋯」

 魔王城上空。俺が眺める先で、2つの光が軌跡を描く。
 銀翠ぎんすい黒赫こくかく。超高速で飛び回る両光が衝突し、凄まじい衝撃波を広範囲に齎(もたら)した。
 
「まぁ、ざっとこんな感じだな」

 銀翠の光の主、アインへルムが俺の前に降り立つ。
 漲る炎の様な、俺の炎装とも違う形状の魔力を纏う姿は、禍々しさどころか神々しさを感じるぜ。

「ふあ~っ、疲れたぁ⋯⋯」

 アインへルムに続き、ギルルが空から降下してくる。
 黒赫のオーラに包まれたギルルからは、異次元の魔力の質の高さが伝わってくるな⋯⋯。

「いいな⋯⋯俺もやろうかなァ」
「⋯⋯⋯⋯。」

 隣でウズウズしているティガをスルーし、俺は思わず俯いた。 
 “あんなモン”を見せられたら、嫌でも疼いちまうってのが男という生き物だろう。
 両者とも、物理格闘が得意なタイプでは無いらしいが、やはり魔王幹部と呼ばれる存在だ。
 
 ──“暴魔アインへルム”   VS “我楽流ギルル”──

 ⋯⋯たまんねぇ。イイもん見せてもらったぜ。
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