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1章【地獄のスパルタ訓練編】
第103話・“神将”
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ヴィルジールが住む街、“アリオン”。
王都クローネまではいかないものの、その面積はかなり広大なものだ。
それ故に、有事の際には転移での緊急避難先と指定されている街である。
だが、今回の黒異種(こくいしゅ)襲撃の目標となったのは、このアリオンの街。
つまり、通常とは真逆の事態が発生している状況なのだ。
「──住民の避難は!? まだ終わんねぇのか!!」
「⋯⋯無理だ。本来、ここは付近の街の避難先になっている街。
逆にこの街から避難するとなると、その人数は相当なものになる」
冷静に仲間を諭しつつ、ヴィルジールは冷や汗を流す。
彼の言う通り、避難に時間が掛かっているのは、避難人数の異常な多さが原因だった。
何よりも課題となっているのが、転移先。つまり、避難住民の受け入れ先となる街の“定員”である。
定員を超過する毎に、“転移先変更”の手順を挟む必要があり、それに時間が掛かっているのだ。
無論、ギルドの職員の仕事は迅速で、冒険者による避難誘導も完璧に近い状況ではある。
──だが、それでも尚、なのである。
「⋯⋯ッ! 後ろだ!」
「分かってるッ!」
飛び掛ってきた黒狼を斬り捨て、ヴィルジールは後ろへ跳ねる。
呼吸を整える僅かな間に、彼は周囲の把握へと意識を絞った。
幸い、負傷者は現状として確認できず、戦闘の続行は問題無い。
数こそ多い黒異種だが、戦線を突破されるという事態については懸念する程でもなかった。
そして何より、
(人型の黒異種は⋯⋯いねぇようだな)
人型黒異種──黒異人──の存在が、戦場に見受けられない。
ヴィルジールにとって、その事実は極めて重要かつ利点となるポイントだった。
王都迎撃戦時において、ゼクスの全メンバーと猛紅竜の連携があったからこそ、黒異人への対処が可能であった。
だが、現状の戦力の前で同様の事態が発生した場合、同じ様に対応が出来るとは限らない。
──それを踏まえての現在の戦況は、意外にも悪いものでは無かった。
「⋯⋯⋯⋯。」
しかし、それでもヴィルジールの目には疑念が映っていた。
何故、このアリオンの街が襲撃されたのか? 何故、人型黒異種の存在が確認できないのか?
(一体、何故⋯⋯)
晴れる事の無い曇りをその胸に、ヴィルジールは両剣を振るう。
彼の渦巻く心を示すかの様に、空は分厚い雲に覆われていた──⋯
NOW LOADING⋯
「──みんな、無事だね?」
「き、君は一体!?」
「いや、私の事はいいよ。それじゃ!」
幼女は、自身を呼び止める声を背に飛翔する。
現在までに救っただけでも、30を越える街が黒異種による襲撃を受けていた。
殲滅が可能ならば殲滅し、それが無理なら住民の全てを安全な場所へと転移させる。
そうして各地を飛び回る幼女だが、黒異種による被害は増すばかりだった。
(──オーガ。⋯⋯オーガッ⋯⋯!!)
音の壁を突き抜けて尚、幼女は加速する。
次に人々を助け、その次に人々を助けながら。
その最中、“宿敵”を思い浮かべる幼女は、その表情を強ばらせる。
一見すると少女の様にしか見えない、アリアという存在。
だが、彼女に助けられた人々は、例外無く彼女に恐怖していた。
アリアが無意識に放つその怒りは、ただの人間にとって、文字通り“致死量”に近いものだったからだ。
「──おっけい。ここは片付いたよ!」
「な、何者だ!? ただの少女では無いようだが⋯⋯」
「細かい事はいいのっ。それじゃ!」
そして、飛ぶ。
次に人々を救うべく。
──そんな折りだった。
既に壊滅してしまった街の中心で、奇妙な存在と出会したのは。
「お初にお目にかかる、星廻龍(せいかいりゅう)様」
「⋯⋯貴方は?」
「私ですか? フフフ⋯⋯素直に言うとでも、と言いたい所ですが──」
不敵に笑みを浮かべ、男は背で手を組む。
純白のキャソックを風に揺らしながら、男はゆっくりと幼女を睨んだ。
対する幼女は、赤い瞳に全身が黒色という点から、相手が黒異種であるという事を理解する。
そして、
「オーガ様の下僕、という認識でよろしいかと。
さて、早速──」
それ以上を言わさず、幼女は相手を消し飛ばす。
交渉だったか、要求があったか、宣戦布告するつもりだったか。そんな事に興味は無かった。
オーガの手下という事実さえあれば、後は消してしまうだけなのだから。
だが、一つだけ気掛かりな事があった。
(強かったな、今の⋯⋯)
一瞬だけ。それも、幼女にとっての一瞬の間であったが、男は確かに“反応”をしていた。
幼女から繰り出された攻撃に対応すべく、両手を前方へと突き出す素振りがあったのである。
予想以上に攻撃のエネルギー量が多かったのか、対応が失敗に終わったのは間違いない。
──だがしかし、それでも気掛かりだった。
(今の領域の相手が、複数体いるとなると⋯⋯)
そこまで考えを巡らせ、幼女は周囲を見渡す。
崩れゆく建物や、轟々と燃え盛る巨大な城。それに埋もれる、数多の人々。
幼女の脳裏に過ぎるのは、ただ一言、
──救いきれない──
それだけであった。
(止まっている暇はない⋯⋯っ!!)
だが、まだ救える命があるならばと、幼女は再び空へと飛び上がる。
災禍は、星全体を覆い始めていた──⋯
NOW LOADING⋯
「──人⋯⋯!?」
上空に出現した謎の存在に、アリオンの冒険者達は目を見開く。
冒険者達の一人、黒異人との戦闘経験があるヴィルジールですらも。
「──ヴァ⋯⋯」
“その存在”は、僅かに唸る。
直後、冒険者達は一斉に飛び退いた。
「ウヴォアアアァ──ッッ!!」
蹂躙が、始まった。
王都クローネまではいかないものの、その面積はかなり広大なものだ。
それ故に、有事の際には転移での緊急避難先と指定されている街である。
だが、今回の黒異種(こくいしゅ)襲撃の目標となったのは、このアリオンの街。
つまり、通常とは真逆の事態が発生している状況なのだ。
「──住民の避難は!? まだ終わんねぇのか!!」
「⋯⋯無理だ。本来、ここは付近の街の避難先になっている街。
逆にこの街から避難するとなると、その人数は相当なものになる」
冷静に仲間を諭しつつ、ヴィルジールは冷や汗を流す。
彼の言う通り、避難に時間が掛かっているのは、避難人数の異常な多さが原因だった。
何よりも課題となっているのが、転移先。つまり、避難住民の受け入れ先となる街の“定員”である。
定員を超過する毎に、“転移先変更”の手順を挟む必要があり、それに時間が掛かっているのだ。
無論、ギルドの職員の仕事は迅速で、冒険者による避難誘導も完璧に近い状況ではある。
──だが、それでも尚、なのである。
「⋯⋯ッ! 後ろだ!」
「分かってるッ!」
飛び掛ってきた黒狼を斬り捨て、ヴィルジールは後ろへ跳ねる。
呼吸を整える僅かな間に、彼は周囲の把握へと意識を絞った。
幸い、負傷者は現状として確認できず、戦闘の続行は問題無い。
数こそ多い黒異種だが、戦線を突破されるという事態については懸念する程でもなかった。
そして何より、
(人型の黒異種は⋯⋯いねぇようだな)
人型黒異種──黒異人──の存在が、戦場に見受けられない。
ヴィルジールにとって、その事実は極めて重要かつ利点となるポイントだった。
王都迎撃戦時において、ゼクスの全メンバーと猛紅竜の連携があったからこそ、黒異人への対処が可能であった。
だが、現状の戦力の前で同様の事態が発生した場合、同じ様に対応が出来るとは限らない。
──それを踏まえての現在の戦況は、意外にも悪いものでは無かった。
「⋯⋯⋯⋯。」
しかし、それでもヴィルジールの目には疑念が映っていた。
何故、このアリオンの街が襲撃されたのか? 何故、人型黒異種の存在が確認できないのか?
(一体、何故⋯⋯)
晴れる事の無い曇りをその胸に、ヴィルジールは両剣を振るう。
彼の渦巻く心を示すかの様に、空は分厚い雲に覆われていた──⋯
NOW LOADING⋯
「──みんな、無事だね?」
「き、君は一体!?」
「いや、私の事はいいよ。それじゃ!」
幼女は、自身を呼び止める声を背に飛翔する。
現在までに救っただけでも、30を越える街が黒異種による襲撃を受けていた。
殲滅が可能ならば殲滅し、それが無理なら住民の全てを安全な場所へと転移させる。
そうして各地を飛び回る幼女だが、黒異種による被害は増すばかりだった。
(──オーガ。⋯⋯オーガッ⋯⋯!!)
音の壁を突き抜けて尚、幼女は加速する。
次に人々を助け、その次に人々を助けながら。
その最中、“宿敵”を思い浮かべる幼女は、その表情を強ばらせる。
一見すると少女の様にしか見えない、アリアという存在。
だが、彼女に助けられた人々は、例外無く彼女に恐怖していた。
アリアが無意識に放つその怒りは、ただの人間にとって、文字通り“致死量”に近いものだったからだ。
「──おっけい。ここは片付いたよ!」
「な、何者だ!? ただの少女では無いようだが⋯⋯」
「細かい事はいいのっ。それじゃ!」
そして、飛ぶ。
次に人々を救うべく。
──そんな折りだった。
既に壊滅してしまった街の中心で、奇妙な存在と出会したのは。
「お初にお目にかかる、星廻龍(せいかいりゅう)様」
「⋯⋯貴方は?」
「私ですか? フフフ⋯⋯素直に言うとでも、と言いたい所ですが──」
不敵に笑みを浮かべ、男は背で手を組む。
純白のキャソックを風に揺らしながら、男はゆっくりと幼女を睨んだ。
対する幼女は、赤い瞳に全身が黒色という点から、相手が黒異種であるという事を理解する。
そして、
「オーガ様の下僕、という認識でよろしいかと。
さて、早速──」
それ以上を言わさず、幼女は相手を消し飛ばす。
交渉だったか、要求があったか、宣戦布告するつもりだったか。そんな事に興味は無かった。
オーガの手下という事実さえあれば、後は消してしまうだけなのだから。
だが、一つだけ気掛かりな事があった。
(強かったな、今の⋯⋯)
一瞬だけ。それも、幼女にとっての一瞬の間であったが、男は確かに“反応”をしていた。
幼女から繰り出された攻撃に対応すべく、両手を前方へと突き出す素振りがあったのである。
予想以上に攻撃のエネルギー量が多かったのか、対応が失敗に終わったのは間違いない。
──だがしかし、それでも気掛かりだった。
(今の領域の相手が、複数体いるとなると⋯⋯)
そこまで考えを巡らせ、幼女は周囲を見渡す。
崩れゆく建物や、轟々と燃え盛る巨大な城。それに埋もれる、数多の人々。
幼女の脳裏に過ぎるのは、ただ一言、
──救いきれない──
それだけであった。
(止まっている暇はない⋯⋯っ!!)
だが、まだ救える命があるならばと、幼女は再び空へと飛び上がる。
災禍は、星全体を覆い始めていた──⋯
NOW LOADING⋯
「──人⋯⋯!?」
上空に出現した謎の存在に、アリオンの冒険者達は目を見開く。
冒険者達の一人、黒異人との戦闘経験があるヴィルジールですらも。
「──ヴァ⋯⋯」
“その存在”は、僅かに唸る。
直後、冒険者達は一斉に飛び退いた。
「ウヴォアアアァ──ッッ!!」
蹂躙が、始まった。
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