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1章【地獄のスパルタ訓練編】
第102話・予想外
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「──アリアッ!!」
「分かってるッ!」
魔王と幼女が、急に慌ただしくなる。
幹部達も、幼女の指示に従って行動を開始した。
しかし、特訓の最中だった俺とギルルは、そのまま魔王城で特訓を継続しろとの事。
何が何だか分からないが、兎に角“異常事態”が起こっている事だけは理解できた。
「まさか、こんな手段を使ってくるとはね。オーガ⋯⋯!!」
幼女は、酷く憤慨(ふんがい)している様子だった。
その表情と台詞から察するに、オーガが何かしらの行動を始めたのだろう。
そしてそれは、余りに手荒で冷酷な⋯⋯
「──紅志。君は、修行に専念して。
大丈夫、この件は私達で何とかするから」
「何があったのかだけ、教えてくれ」
「⋯⋯オーガが、人類の主要な都市複数に攻撃を始めた。
無数の黒異種(こくいしゅ)達を操作して、襲撃させてるみたい。
多分⋯⋯。いや、私が助けに来るのを待ってるんだろう」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯そう、か」
想定していなかった訳ではない。
此方の作戦に勘づかれた以上、オーガが“炙り出し”をしてくる事は高確率だった。
⋯⋯そして、その過程で必ず犠牲者が出る事も。
「⋯⋯アリア」
「なに?」
「──頼んだ」
「⋯⋯うん!」
俺は、俺が出来る事をやるしかない。
アリアや魔王に手を貸すには、俺はあまりにも無力だ。
だから、信じる。
完璧でなくてもいい、最善でなくてもいい。
出来る限りを、全力でやってもらえれば。
「──続きだ、ギルル」
「はいはい。どっからでもこ~い」
気怠けなギルルを前に、俺は深く構える。
背後から、幼女が飛び立つ音が聞こえた──⋯
NOW LOADING⋯
「──急いでッ! 早くギルドの中に!」
1人の女性冒険者が、人々をギルド内へと誘導する。
平穏な日常の最中、突如として黒異種による襲撃を受けた街は、パニックに陥っていた。
まず優先されたのは、一般市民の退避である。
ギルド内にある、“緊急時用の転移装置”によって、人々は続々と退避を進めていた。
「──クソッ、数が多すぎる⋯⋯ッ!」
黒異種の対応に当たる冒険者の中には、ヴィルジールの姿もあった。
病み上がりで、思う様に動かない身体に苛立ちを覚えながら、彼は必死に黒異種を斬り捨てる。
だが、そんな努力を嘲笑うかのように、黒異種達の勢いは増していった。
(住民の避難は、まだ済んでねぇか⋯⋯)
チラリと目をやった先では、ギルドに押し寄せる人々の姿が。
民間人の避難が済まない限りは、転移装置で増援を寄越すのは後回しにするしかいない。
それは十分に承知している事だったが、パニック状態の民衆の流れというのは酷く鈍い。
募る苛立ちを堪えながら、ヴィルジールは仲間の援護に回った。
「動けるか、ヴィルジール」
「あぁ、何とかな。⋯⋯ったく。こんなんだったら、他のゼクス達も連れて帰ってくるんだったぜ」
「仕方ねぇよ。こんな事態、誰が予測──」
会話を中断し、ヴィルジール達は後方へと跳ねる。
直後に、2人がいた場所に無数の火球が降り注いだ。
「チッ、翼竜型か。──誰か、アレを撃ち落とせる奴はいるか!?」
「任せてッ!!」
ヴィルジールの呼び掛けに、女性の冒険者が動く。
生成された魔法が、上空へと射出。小さな爆発が、連続して炸裂した。
「──よし、このまま戦線を維持するぞ!!」
「「「応ッッ!!」」」
ヴィルジールを筆頭に、冒険者達は黒異種へと構える。
誰も彼もが状況を全く理解していない中、ただ“人々を守る”事だけを胸に。
「──ヴィルジール様⋯⋯!!」
そして、彼女もまた。
必死に戦うヴィルジールを見て、グレイスは駆け出す。
自分を救ってくれた恩を返す為、ここでやらねばいつやるのだと。
(まだ未完成だけど⋯⋯時間稼ぎくらいなら⋯⋯!!)
グレイスは、屋敷にある1つの部屋の扉へ手を掛ける。
薄暗い部屋の向こう側には、全体がシートで隠された“とある魔導具”の存在があった。
何年も前、グレイスと共に過ごしてた老人が作っていた“それ”は、彼の形見でもある。
そして、グレイスが生涯をかける覚悟で制作に取り組んでいた物だ。
「⋯⋯☾操作(フーへ)☽」
意を決し、グレイスは魔導具へ手を翳(かざ)す。
未完成でほぼ骨組みだけとはいえ、その重量は500kgは下らない。
初歩的な魔法と、なによりグレイス程の魔力量では数cm動かすだけでも激しく消耗してしまう。
──だが、それでも。
確固たる意思を持ち、グレイスは魔導具を台車まで移動させる。
遠くで戦う、自身の主をその内に。
「分かってるッ!」
魔王と幼女が、急に慌ただしくなる。
幹部達も、幼女の指示に従って行動を開始した。
しかし、特訓の最中だった俺とギルルは、そのまま魔王城で特訓を継続しろとの事。
何が何だか分からないが、兎に角“異常事態”が起こっている事だけは理解できた。
「まさか、こんな手段を使ってくるとはね。オーガ⋯⋯!!」
幼女は、酷く憤慨(ふんがい)している様子だった。
その表情と台詞から察するに、オーガが何かしらの行動を始めたのだろう。
そしてそれは、余りに手荒で冷酷な⋯⋯
「──紅志。君は、修行に専念して。
大丈夫、この件は私達で何とかするから」
「何があったのかだけ、教えてくれ」
「⋯⋯オーガが、人類の主要な都市複数に攻撃を始めた。
無数の黒異種(こくいしゅ)達を操作して、襲撃させてるみたい。
多分⋯⋯。いや、私が助けに来るのを待ってるんだろう」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯そう、か」
想定していなかった訳ではない。
此方の作戦に勘づかれた以上、オーガが“炙り出し”をしてくる事は高確率だった。
⋯⋯そして、その過程で必ず犠牲者が出る事も。
「⋯⋯アリア」
「なに?」
「──頼んだ」
「⋯⋯うん!」
俺は、俺が出来る事をやるしかない。
アリアや魔王に手を貸すには、俺はあまりにも無力だ。
だから、信じる。
完璧でなくてもいい、最善でなくてもいい。
出来る限りを、全力でやってもらえれば。
「──続きだ、ギルル」
「はいはい。どっからでもこ~い」
気怠けなギルルを前に、俺は深く構える。
背後から、幼女が飛び立つ音が聞こえた──⋯
NOW LOADING⋯
「──急いでッ! 早くギルドの中に!」
1人の女性冒険者が、人々をギルド内へと誘導する。
平穏な日常の最中、突如として黒異種による襲撃を受けた街は、パニックに陥っていた。
まず優先されたのは、一般市民の退避である。
ギルド内にある、“緊急時用の転移装置”によって、人々は続々と退避を進めていた。
「──クソッ、数が多すぎる⋯⋯ッ!」
黒異種の対応に当たる冒険者の中には、ヴィルジールの姿もあった。
病み上がりで、思う様に動かない身体に苛立ちを覚えながら、彼は必死に黒異種を斬り捨てる。
だが、そんな努力を嘲笑うかのように、黒異種達の勢いは増していった。
(住民の避難は、まだ済んでねぇか⋯⋯)
チラリと目をやった先では、ギルドに押し寄せる人々の姿が。
民間人の避難が済まない限りは、転移装置で増援を寄越すのは後回しにするしかいない。
それは十分に承知している事だったが、パニック状態の民衆の流れというのは酷く鈍い。
募る苛立ちを堪えながら、ヴィルジールは仲間の援護に回った。
「動けるか、ヴィルジール」
「あぁ、何とかな。⋯⋯ったく。こんなんだったら、他のゼクス達も連れて帰ってくるんだったぜ」
「仕方ねぇよ。こんな事態、誰が予測──」
会話を中断し、ヴィルジール達は後方へと跳ねる。
直後に、2人がいた場所に無数の火球が降り注いだ。
「チッ、翼竜型か。──誰か、アレを撃ち落とせる奴はいるか!?」
「任せてッ!!」
ヴィルジールの呼び掛けに、女性の冒険者が動く。
生成された魔法が、上空へと射出。小さな爆発が、連続して炸裂した。
「──よし、このまま戦線を維持するぞ!!」
「「「応ッッ!!」」」
ヴィルジールを筆頭に、冒険者達は黒異種へと構える。
誰も彼もが状況を全く理解していない中、ただ“人々を守る”事だけを胸に。
「──ヴィルジール様⋯⋯!!」
そして、彼女もまた。
必死に戦うヴィルジールを見て、グレイスは駆け出す。
自分を救ってくれた恩を返す為、ここでやらねばいつやるのだと。
(まだ未完成だけど⋯⋯時間稼ぎくらいなら⋯⋯!!)
グレイスは、屋敷にある1つの部屋の扉へ手を掛ける。
薄暗い部屋の向こう側には、全体がシートで隠された“とある魔導具”の存在があった。
何年も前、グレイスと共に過ごしてた老人が作っていた“それ”は、彼の形見でもある。
そして、グレイスが生涯をかける覚悟で制作に取り組んでいた物だ。
「⋯⋯☾操作(フーへ)☽」
意を決し、グレイスは魔導具へ手を翳(かざ)す。
未完成でほぼ骨組みだけとはいえ、その重量は500kgは下らない。
初歩的な魔法と、なによりグレイス程の魔力量では数cm動かすだけでも激しく消耗してしまう。
──だが、それでも。
確固たる意思を持ち、グレイスは魔導具を台車まで移動させる。
遠くで戦う、自身の主をその内に。
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