92 / 114
1章【真実編】
第91話・“会いたかった”
しおりを挟む⋯──貴方は、私にとって友だった。
共に人々を見守り、この先の未来でも隣に立っていて欲しい。
昔の私は、そう思っていた。
⋯⋯だけど、貴方は違った。
『あの大戦争』で“魔族”に敗北し、長い眠りについた貴方は、目が覚めてから、ずっと心の奥深くで滾らせていたんだ。
神に変わって、世界を統べていた私への、
永き戦争を終えて尚、この世に蔓延る魔族への、
──そして、
今まで守ってきた、守る価値など無かった人間への、復讐を──⋯
「⋯──私は、私なりに努力していたつもりだった。どうしたら、また貴方と平和に世界を見守れるのかと。どうしたら、貴方が元に戻ってくれるのかと」
「フン、下らん⋯⋯」
「そう。下らなかった。そんな淡い希望を持つなんて、下らなかったんだよ。⋯⋯だから、もう、迷わない事にした」
白く美しい長髪を靡かせ、幼女はオーガを見る。
『大戦争』だとか『魔族』だとか、詳しい事情は分からないが、一つだけ理解した事がある。
あのオーガという老人、以前は良い奴だったのだろう。
文脈から察するに、魔族という存在から人間を守っていたが、後に敗北⋯。それが原因で、長い眠りにつく事になった。
次に目覚めた時、『大戦争』は終わっていたが、未だ『魔族』は健在だったのを知って落胆。そんでもって、オーガが眠りについてからは、この幼女が世界を統治(?)していた⋯と。
⋯しかし、そこまではいいとして。
『今まで守ってきた、守る価値など無かった人間』という台詞が解せないな。後になってから、『思っていたより人間って醜いな』とでも感じたのか?
「──色々、気になる?」
「そりゃな。⋯⋯けど、それを聞くのが、今じゃない事は分かってる」
徐々にドラゴンの姿に戻り、俺は首を左右に捻る。
この時、軽くストレッチをしながら、俺はある事に気付いた。
⋯⋯しかし、この状況。他の考え事に頭を使う場合ではない。
詳細の確認は後として、今は目の前の事態に全神経を尖らせておこう。
「──場所を変えたいね⋯。紅志、私の肩に捕まって」
「分かった」
幼女に言われ、俺は彼女の肩を掴む。
⋯といっても、幼女の肩は極めて小さく、全身を握るような形になるワケだが。
「飛ぶよ。しっかり捕まっててね⋯!!」
次の瞬間。
手の中の幼女に僅かな力みを感じると共に、景色が一変する。
例えるなら、新幹線の窓から見る外の景色の様に。『総て』が横へと伸びていく光景が、俺の視界を埋めつくした。
「う、うおお⋯ッ!!」
「離しちゃだめだからね!」
音割れる風を感じる中、俺は必死に幼女を掴む。
大の大人が情けないなんて指差されても、文句は言えないな。
⋯まぁそんな事より、今の関心が向く先はこの幼女だ。
結構な力で握ってしまっているが、ピクリともしない。
表面に柔らかさはあるが、一定以上に力を加えると、身体の中心に鋼の芯でも入っているかの様な手応えになる。
直感的に、『傷を負わせるのは不可能』と感じさせられるぜ。
「──あ、あひひっ!ニギニギしないで!くすぐったい!」
「あぁ、悪い。つい⋯」
ふむ、くすぐったいとかは感じるんだな。
⋯⋯って、こんな事してる場合じゃないか。まぁ『幼女がいるし』と考えれば、不思議と神が相手だろうが安心するな。
「──逃がすと思うか?」
ひらり。
純白のローブを揺らして、俺と幼女の正面にオーガが現れる。
間違いなく音速以上で飛んでいた幼女に、こうも簡単に追い付くとは⋯。流石カミサマだ。
「逃げてたワケじゃないよ。やるなら、広い場所の方がいいからね」
「ほう⋯?貴様、このワシと戦う気か」
──シャン。
無数の鈴がなった様な音色が響く。
その直後、眩い光に包まれたオーガの背に、金色の美しい円が形成された。後光そのものを形作った様なソレは、俺の記憶が正しければ『光背』という名前があった筈だ。
俺の目で見ても“超”がつく程の繊細な模様があるが、どうやら光背自体が魔法陣になっているらしい。⋯といっても、どんな効果があるかまでは分からないがな。
簡単な魔法なら、魔力感知と魔法陣を見れば大体の効果や能力が察せる。⋯だが、『アレ』については、模様が細すぎて魔法と認識するのも難しい次元だ。
「──そっちこそ、私とやる気なの?確かに私の攻撃は、アナタへ届かない。⋯けど、アナタの攻撃も、私は打ち消せるし、仮に当たっても対してダメージにはならない⋯。そうなると、大事になるのは“戦闘能力の差”だ」
「ふむ。その通りじゃ。つまりは、『諦めさせる』事が勝敗になる訳じゃな。より狡猾に先手を取り続け、『相手の闘志を削りきる』⋯と」
「ふふふ⋯」
幼女は、緋く潤うオーラを纏う。
まるで蜃気楼の様に揺らめき、それでいて豪炎の如き熱気を放つソレは、『魔力』と表現するにはあまりに異質だった。
「──速度、筋力、頭の回転。全てにおいて、私の方が上だ。
そして、1番それを理解しているのは、オーガ⋯⋯アナタでしょう?」
「⋯ふむ、確かにな。じゃが、アルノヴィア。貴様は過ちを犯した。そこの──」
「紅志の事?大丈夫だよ。この子はちゃんと守るし、その上でアナタと戦うから」
「⋯⋯それは、このワシを相手に、『片手間でも充分』と聞こえるが⋯?」
「正解っ♪」
豪ッッ。
爆音が響き、衝撃波が生まれる。
そして、俺は気が付いた。
いつも間にか地面に立ち、周囲に結界が張られている事に。
(⋯手出は無用ってワケか。まぁそうだろうな⋯)
溜息を零しつつ、俺は空を見上げる。
アリアとオーガ。2人の戦いは、水溜りだった。
雨の日の水溜まりの水面の様に、円形の衝撃波が生まれては、次に生まれた衝撃波がソレを打ち消す⋯。到底、今の俺が手出し出来る次元では無い。
──だが。
やはり、『この感覚』は好きだ。
圧倒的格上というものを見せ付けられた時、どうしようもなく湧いてくる『欲望』が。
(いつか、絶対にあの次元に追い付いてやる⋯ッ!!)
胸の内で疼く“焔”を抑え、俺は立ち尽くす。
ただ、緋と金が炸裂し続ける、空を見上げながら。
NOW LOADING⋯
一方その頃、混乱止まらぬ村の人々の中で。
「──うぅ⋯ッ!」
「こら、アレン!」
アレンは、無理やり立ち上がる。
猛紅竜の回復のお陰で、確かに傷は完治している。⋯⋯だが、傷を負った際の痛みのショックによって、未だ意識の回復は済んでいなかった。
「⋯アレン。貴方、どうしてあんな事をしたの?私の見間違いじゃなければ⋯⋯」
「⋯母さん」
母の言葉を遮り、アレンは遠くを見る。
その視線は、猛紅竜とアルノヴィアが飛んで行った方向へと続いていた。
「──母さん、父さん」
「「⋯⋯?」」
「愛してる」
そう言い残し、アレンは飛び立つ。
未だ、数秒程の浮遊しか出来なかった彼を突き動かすモノは、たった一つ。
──みんなを、助けなくては──
と。
手を伸ばし、何かを叫ぶ両親に、アレンは振り向かない。
真っ直ぐと前を見つめて、彼は強く拳を握りしめた。
「──会いたかったよ。『金焔竜』」
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
ごめんみんな先に異世界行ってるよ1年後また会おう
味噌汁食べれる
ファンタジー
主人公佐藤 翔太はクラスみんなより1年も早く異世界に、行ってしまう。みんなよりも1年早く異世界に行ってしまうそして転移場所は、世界樹で最強スキルを実でゲット?スキルを奪いながら最強へ、そして勇者召喚、それは、クラスのみんなだった。クラスのみんなが頑張っているときに、主人公は、自由気ままに生きていく
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~
於田縫紀
ファンタジー
図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。
その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる