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1章【真実編】
第87話・ロリとショタ、そしてショタ
しおりを挟む「言っとくけど、30分も居られないからね?」
「分かってる。少し、見て回りたいだけだから」
逸る気持ちを抑え、俺は小刻みに頷く。
何故だか、あの村へいち早く行ってみたい欲求が湧いてくる。
自分でも理由は分かんないが、一つだけ言える。『俺はこの村が好き』という事を。
「それじゃあ早速──」
「あぁっ。ちょいちょい、待って待って」
「⋯なんだよ。30分も留まれないんだろ?」
「『その姿』のままで村に入る気?」
幼女に言われ、俺は自身の身体を見てみる。
うむ、今日もしっかりとグレイドラゴンだな。
⋯あぁ、成程。
べルトンやクローネの時と違って、今は俺が安全だという証明してくれる人が居ない。下手に村人達を刺激してしまうのは、宜しくないってワケか。
「こうなったら、下手に出て無害をアピールするしか無いな」
「いや。遠くからドラゴンが近付いて来たら、例え幼体だとしても警戒するでしょ」
「徹底的に下手に出るんだよ。匍匐前進しながら、こんにちわーって」
「ダメ。ここは私が──。⋯待って、匍匐前進?w」
言葉を区切り、幼女が俺の顔を見る。
どうやらツボらしく、『何言ってんだ』的な表情を浮かべつつどんどん口角を上げていった。
「あ、アハハ!ほふく!匍匐前進って!」
「そうそう。こんな風に⋯⋯」
「や!やらなくていいから!モゾモゾ動くのキモイって!ww」
うぅむ、変なトコに笑いのツボがある奴だな。
まぁ⋯ジョークで笑ってくれるのは嬉しいから、別にいいが。
⋯⋯うむ。それはそれとして、いつまで笑ってんだコイツ。
「──それで?幼女。さっきなんて言おうとしたんだ?『私が』の続きを聞かせてくれ」
「けほっ。笑い過ぎてむせた、ちょっと待って」
「( ´д`)ハァ⋯」
「ン"ン"っ!あ~笑った。⋯で、なんだっけ?」
喉を鳴らし、幼女は腰に両手を当てる。
俺が唇を固めて片眉を吊り上げて見せると、幼女は『てへ♪』と笑みを浮かべて顔を傾けた。
「まぁ、今のは冗談として。あの村に入るにあたって問題なのは、今の君の姿。そして、今の君ではそれを解決できないって事だ」
「姿って言われたってなぁ。変える事も出来な──」
その時、俺は気が付いた。
目の前の『星廻龍』と名乗った存在が、幼女の姿をしている事に。それが意味するのは、つまり⋯⋯
「気付いたようだね。そう、やろうと思えば出来るんだよ。
『人の姿になる』っていうのが」
「⋯マジか。もっと早く知りたかったぜ」
「いや。どちらにせよ、私が『擬人化』と呼んでいる能力を今の君が習得するのは難しいんだ。“魔力の動かし方”が複雑だからね」
「そうなのか?じゃあ、どうするって──」
と、俺が言いかけた時、幼女の姿が消えた。
⋯⋯って、いやいや。なんだ今のは?高速移動だとかワープだとか、そんかチャチなもんじゃあ断じてない。もっと恐ろしいものの片鱗を味わった気がしたぞ。
(おーい!ここ、ここ!ここにいるよー!)
どこからとも無く、幼女の声が響く。
それと同時に、俺の脳裏にデジャヴの予感が走った。
「ヒトの頭ん中に、勝手に入らないでもらえるか⋯?」
(こうするしか無いし、仕方無いじゃん)
〖──え!!誰キミ!!ここ僕の部屋なんだけど!?〗
おう、お前は最悪のタイミングで起きてくるな。
それと、人の頭の中に自分の部屋を作るな。
(んん??君こそ誰よ?)
〖僕?僕は僕だよ。この身体のホントの主さっ!フフン!〗
(⋯う~ん、成程。『グレイドラゴン本来の意識』って事か)
「分かるのか?」
(⋯これは、あくまで予想だけど──⋯)
⋯──オーガは、紅志を転生させる際にこの肉体を選んだ。
その時、『既に肉体にあった魂』を押し退けて、強引に『紅志の魂』を入れた。その結果、『1つの身体に、2つの意識』があるって状態になった⋯。的な事情があるんだろう。
⋯ただ、主観的に見て、このやり方はオーガらしくない。
彼なら、『新たに肉体を用意する』か、滅多に無いけど『前世の肉体のまま』で、コッチに呼び寄せるからね。
察するに、紅志は『適当に転生させられた』可能性が高い。
そもそも、『魔物が嫌い』なオーガの事だから、『魔物の転生者』という事例が無かったんだろうし。
それでも、“今の紅志”って存在がいるのなら、オーガには何かしらの思惑があったのかもしれない──⋯
(⋯──と言っても、その思惑が何かって話までは分からないんだけどね⋯)
「はぁ、そうかぁ。適当に転生かぁ⋯」
(⋯君のオーガへの敵意を煽る訳じゃないけど、彼のやり口としては、『意図的に前世で死亡』させてから転生させるって感じなんだよ。つまり、ワザと殺して手下にするって事だ)
「⋯⋯⋯そう、か」
⋯俺、前世で親を遺して来ちまったんだよな。
自分で言うのも恥ずかしいが、結構好きだったんだけどなぁ。
⋯そうか、そんな軽い感覚で人生奪われたのか。
会社の同僚とか上司とか、仲のいい友人達とかな⋯。ダチとだって、上手くやれたと思うんだけどなぁ⋯。
〖──僕は、紅志と会えて良かったよ?〗
「え⋯?」
〖あ。もちろん、紅志が『死んで良かった』なんイミじゃないからね?⋯でも、紅志と一緒にいると楽しいって思えるんだ。
だからさ⋯⋯その、僕が言いたいのは⋯えーっと⋯⋯〗
(ふふっ。転生しても、悪い事ばっかじゃないでしょ?って♪)
⋯⋯なんだそりゃ。
いきなり何を言い出すかと思えば、そんな子どもみたいな⋯。
そんな、子どもみたいな⋯⋯
〖えっ!?泣いてるっ!?ゴメンゴメン!泣かないで!!〗
(⋯いいんだよ、泣いたって。純粋で無垢な言葉っていうのは、心に染みるものだから)
「泣いてねーよ、別に。⋯早く、頭の中に入ったワケを話せよ、幼女」
空を仰ぎ、俺は深呼吸をする。
涙なんて出てないが、こうして上を向いていたい気分だ。
⋯全く、子どもっていうのは。
(⋯紅志も、強いね)
「ん、何か言ったか?」
(──ううん。⋯さて、色々始めようか)
幼女がそう言うと、俺の右手が動き始める。
それも、動かそうと意識していないのに、ひとりでに。
(少しだけ、君の身体と魔力を動かさせてもらうよ?)
「え⋯いいけど、痛いのとかは──」
その瞬間、俺の身体に異変がおきる。
まるで、全身が縮こまっていく様に、小さくなり始めたのだ。
かなりの圧迫感と息苦しさを感じるが、不思議と痛みは無い。
⋯ただ、思わず目を瞑ってしまったのはあるが。
(よしっ。取り敢えず、これでいいかな♪)
「⋯⋯終わったのか?」
(ん~まぁね~♪)
ふむ、圧迫感は残っているが、それ以外に変化は感じないな。
強いて言うなら、いつも以上に視線が低い様な⋯⋯
ん⋯?待てよ?なんだ、この違和感は?
なんか、妙に視界が狭いし⋯感じる情報が少ない気がする⋯?
⋯って、魔力感知が使えないじゃないか。
しかも、なんだか身体もヘンだぞ。
尻尾が無いせいで、バランスが取りずら──
「⋯え、」
〖わぁ。僕のチャームポイントの1つが無くなっちゃった〗
し、尻尾がない。
一体何処に消えたんだ⋯っと、なんだ?首が回しにくい⋯ぞ?
(そりゃあ、人間の首は短いからね。ドラゴンの様に、自分の全身見渡すのも難しいだろう。⋯ましてや、子どもなら)
「こども⋯?」
俺は、即座に金属を生成する。
生成速度もめっちゃ遅くなっているが、それよりも優先して確認すべき事があった。
「な、な、な──」
ガラクタの様な金属を片手に、俺は目を見開く。
鈍く反射するその金属の表面からは、見知らぬ少年が此方を覗いていた。
⋯⋯いや、待て。
俺は、『この少年』を知っているぞ?!
「なんじゃこりゃーッ!?」
灰色の髪と、碧の瞳。
美少年という言葉が似合う少年の正体は⋯
──幼き日の、俺自身であった。
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