猛焔滅斬の碧刃龍

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1章【真実編】

第85話・魔力保存の法則

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「──ふむ」


俺の周囲を一周し、幼女は軽く頷く。
幼女曰く、『ただ歩いているのもなんだからね』と言う事で、炎装形態の分析をしてくれているらしい。

燃え盛るドラゴンの周囲をウロチョロする幼女なんて、そこら辺の奴が見たら状況の理解に苦しみそうだ。


「ん~、ちょっとな~⋯」


更に俺の周囲を歩き回り、幼女は腕を組む。
背後に回った彼女は、俺の尻尾を掴んでグルグルと回した。


「紅志からして、この炎装っていうのはどんな感覚なのさ?」

「感覚?⋯⋯強いていうなら、出力の制御が難しい能力だな。下手に使うと、周囲への被害がデカくなるし」


幼女の問いに、俺は今までの炎装使用時の光景を思い返す。
踏み込めばクレーターを作り、吼えたら暴風が吹き荒れ、殴った相手は跡形もなく消し飛ぶ。⋯と、こうして考えてみると、軽い気持ちで使っていい代物じゃないな、やっぱり。


「うん、その通りなんだけど⋯⋯。もっと、えーっと⋯」


幼女は口ごもる。
何やら、言いにくい事があるらしいが⋯はて?なんだろうか。
もっと他の観点から考えてみろ、と言いたいんだろうが⋯⋯。


「まぁ、ハッキリ言っておこうか。それ、めっっちゃ悪いよ」

「燃費⋯。魔力の使用量の話か?考えた事も無かったな⋯」


まぁ炎装を使えば大抵は一瞬で片がつくしなぁ。
使用時の魔力の消耗なんて、全く頭に無かったぜ。


「──まぁ、“ちょっとした工夫”さえすれば、その燃費の悪さも解決できるよ」

「へぇ。その“工夫”っていうのは?」

「うん。じゃあまず、『質量保存の法則』っていうのは知ってる?」

「⋯⋯ん?」


突然の質問に、俺は固まった。
質量保存の法則。言葉としては知っているが、どんなモンかと聞かれれば答えられないな。⋯というか、なんでいきなりそんな質問をしたんだ⋯?


「んーとね。1+1は?」

「2⋯?」

「正解。『質量保存の法則』っていうのはソレだ。『式』っていう『範囲の中』であれば、『1が2つ』っていう状態でも、『2』っていう答えになっても、『総量』は変わらないって事なんだよ」


枝で地面に図を描き、幼女は説明する。
しかし、何を言っているのか全く分からない。

正確には、『何が言いたいのか分からない』だが。


「──つまりは、『君自身』もしくは『君の定の周囲』を『式』とする事が出来れば、何回でも『1+1』が出来る訳だ」

「⋯⋯なるほど?」

「『魔力』が、ここで言う『数字』って考えればいいよ。
『炎装』が『1+1』として、『2』が『その結果』。具体的には、『霧散していった魔力』って感じさ。

『魔力』っていうのは、『原子』より更に小さな物質なんだけど⋯⋯まぁ、そこはいいとして。つまりは、どんなに姿形を変えても『消滅する事は無い』存在なんだ。

さて、ここまで説明したし、結論を言っちゃうね?
炎装=『1+1』によって使用した魔力は、空気中に散らばっていく=『2』になるワケ。⋯だけど、本来散らばっていく筈の『2』を『式の中に閉じ込める』事が出来たとしたら⋯?」


ここまで言われて、俺はようやく気付いた。
つまりは、どれだけ魔力を使っても、『式』っていう『魔力が逃げれない範囲』を作り出せれば、実質的に『魔力使い放題』になるって話らしい。


「霧散していく魔力⋯『2』は、その後また『1と1』っていう状態に戻る。つまり1回『炎装』を発動すれば、『同じ魔力で同じ事』が繰り返しできる様になるんだ。まぁ、分かりやすく例えた上での説明ってだけだから、細かい事は気にしないでね♪」

「⋯でも、それならなんで冒険者とか、それこそ君がやったりしないんだ?こんなの、ほぼ永久機関みたいなモンだろ?」

「バカチン。そりゃ、私はやっているに決まっているでしょ?
勿論、冒険者の中でも出来る人はいるし。あと、『永久機関』っていうのは間違いだからね?

『1+1』に使った分の魔力は何度でも使えるけど、『使った魔力を再回収する為の魔力』とか、『魔力を一定範囲に閉じ込め続ける為の魔力』とか、他にも色々使うからね。⋯⋯まぁ、それを踏まえても、得する分の魔力の方が大きいけど。

オマケに言っておくと、紅志がこの技術を見た事無いのは、単に難しすぎるからだ。ハイレベル過ぎて、使える人なんか殆ど居ないからねぇ」

「そんなに難しいのか?」

「ちっとは自分で考えなさ~い!」


俺を両頬をつねり、幼女が顔を近付ける。
う~む。こうして間近で見みると、綺麗なまん丸お目目だな。
真紅1色のなのに、鮮やかさを感じさせる見事な輝きだ。


「──まぁ、ヒントをあげるなら、『とっても難しい』って所が重要かな」
 
「⋯んん、そうか。なら、『難しすぎて、他の作業に集中できない』って感じか?」

「なぁんだ、分かってるじゃん。大正解だよ。『使えるには使える人』はいるけど、それを『戦闘に活かせる人』っていうのは少ないんだよねぇ~」


肩を1回上下させ、俺の頭を撫でる幼女。
子供扱いするなと言いたい所だが、それがどうでも良くなるくらい心地が良い。顎の下とかもやってくんないかな。


「⋯お?ココがいいの?よーしヨシヨシヨシヨシ!」

「ウルルルルル⋯」


うおー、なんか変な声出る。
なんか、気持ち良すぎて身動き出来なくなってきたな⋯⋯。

あ、あーっ!お腹良い!
お腹スリスリめっちゃ良い!ちっこい手のスベスベでひんやりした感触が心地良くて最高!

もっかい顎下やって欲しい!あと背中も!あ、あと──⋯


☆閑話休題☆


「⋯──今の君の技量を考えて、『完璧な閉鎖空間』を作るのは難しい。⋯けど、『魔力が霧散しにくい空間』くらいは頑張れば作れるハズなんだ」

「そうか。どれくらいの修行が必要とか、あるか?」

「うーん、修行の内容にもよるかな。まぁ、今は頭に入れておくだけでいいよ」


そう言うと、幼女は歩き始める。   
後を着いて行く俺は、聞いた話を覚えておこうと懐を漁った。
しかし、荷物は全て持ってきていない事を思い出し、仕方無く諦める結果となった。


「なに、どうかしたの?」

「いや。どうせならメモを、って思ったんだが、手帳も王都に置きっぱなしだったんでな⋯」

「ん?手帳って私があげたヤツ?」

「そうそう。基本的に日記として使ってたんだけど、覚えておきたい事は余白のスペースにメモしてたりしたんだよ」


事情を話すと、幼女はしばらく黙り込む。
数秒後、『通りで』と小声で聞こえた様な気がしたと思えば、コチラに振り返った幼女は気まずそうに口を開いた。

 
「あの日記はね、所謂『チャット』みたいな事ができるんだ。
紅志が何かを書いたら、私の元に書いた内容が届く感じでね。
⋯で、だ。君ってば、時々私にお願い事してきたじゃない?」

「あぁ、そういえば」

「私は、基本的にそのお願い事があったページだけ判別して、確認したり返信したりしてたんだけど⋯⋯。ほら、私の元にくる内容っていうのは『1ページ分』なワケで、『日記として使ったページ』に『お願い事を書く』なんて事をしたら⋯⋯」

「俺の個人的な事情も見れてしまうな」

「⋯⋯うん。もちろん、ヘンなのは見てないつもりだけど⋯⋯まぁ、その⋯なんというか⋯」


幼女は、僅かに顔を赤らめる。
うん、言いたい事は分かる。俺自身、見られたくない内容を書いた覚えがあるからな。

うん、死にてぇ。
死のうかな。死んでもいいな。


「まぁ⋯君も若いし、立派な男だからね。『こんな鋭い爪のある右手じゃ、一苦労だ』っていうのも、分かるつもりだよ」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯言うな」


無心で、俺は言葉を絞り出す。
幼女の苦笑いな表情が、俺の心を深く抉った。
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