猛焔滅斬の碧刃龍

ガスト

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1章【真実編】

第83話・魔王を訪ねて三千里

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歩き続けて2日目の本日。
川沿いを歩いていた俺と幼女だったが、日が暮れた事もあり、現在は足を止めて夕食を摂る事にしていた。

“こんなゆっくりしている場合か”という本音はあるものの、
焚き火を眺めながらの夕食は久し振りで、テンションが上がっている俺もいる。


「──はいよ、焼けたぞ」

「わーい!良い焼き加減だー♪」    


こんがりと焼けた魚を渡すと、幼女はゴキゲンに受け取る。
美味そうにかぶりつく彼女を横目に、俺も焼き魚を頬張った。
うむ。味付けをしないで飯を食ったのは久し振りだが、コレも案外イける。

王都に置き去りの調味料達\コンニチワ/が懐かしいのもあるが、こうして素材の味を堪能するのも悪くないかもな。


「食べ終わったら、また歩こっか。この調子なら、意外と早く着くかもしれない」

「まじ?ちょっと眠くなってきたんだけど⋯⋯」

「あぁ、全然寝てもいいよ?その間は私が運ぶから。⋯ただ、歩ける時はできるだけ⋯⋯」

「分かった。じゃあ、もうムリってなったら声掛けるから、それまでは歩くわ」


パチパチと燃える焚き火を見つめ、魚を口に運ぶ。
こうしてボーッとしている時、ふと考えるのが、今までの幼女とのやり取りだった。


「──なぁ、幼女?」

「なぁに?」

「『オーガが敵』ってのは理解したんだけどさ。どんだけの規模というか、手下の数なのかってのは確認取れてるのか?」

「うーん、微妙かなあ。ぶっちゃけ、オーガ以外は大した脅威じゃないし、数えた事も無いかも」


魚を食べ終え、幼女はゴロンと寝そべる。
腕を組み、満天の星空を見上げながら、彼女は言葉を続けた。


「ほら、あの黒いヤツいたじゃん?」

「あぁ、黒異種の事か」

「⋯人間はそんな風に呼んでるんだ。別になんでもいいけど。
⋯で、『やべぇ強い!』なんて、感じなかったでしょ?」

「確かにな。⋯っていうか。アイツらもオーガの手下だってのかよ。一体一体は強くないが、数は相当だったぜ?あんなのを更に無数に従えてるんなら⋯⋯」


と、それから先が口から出る事は無かった。
幼女の全力を知っている訳では無いが、少なくともバルドール程の相手であれば片手間で勝てそうな雰囲気だったし。

何千だの何万だのの黒異種に群がられた所で、痛くも痒くもなさそうだ。⋯⋯しかし、こうしてマジマジと考える程、幼女が底知れなくなってくるな。


「──でも、問題は黒異種だけじゃないだろ?」

「まぁ、ね。彼が寄越してくる“転生者達”がねー、ちょっとねー⋯」

「強いのか?」

「ううん、そうじゃない。
前にも言ったけど、“彼ら”はオーガに『支配』されているんだよ。ただ、その『支配』っていうのは、『行動の全てを操る』みたいなのじゃなくて、『そう考える様になる』って感じのなんだよ。この場合は、『魔王やアルノヴィアに敵対する様になる』みたいな」


厄介な、と、俺は眉をひそめる。
つまりは、その転生者達も元々は単なる人間だった訳で、別の人生を過ごす事も出来た筈の連中だ。

俺からすれば、本気で攻撃するのは難しい相手だな。


「──私はね?紅志。オーガの個人的欲求の為に、まるでの様に使い捨てられていく彼らが、可哀想でならないんだよ」

「でも、いざとなったら反撃するしかない。そして、反撃すれば殺してしまう⋯⋯か?」

「⋯その通りだよ。私にとっての『必要最低限の力』というのは、人間にとっては致命的なんだ」


幼女は、両手で顔を覆う。
深く深く溜息をついた彼女は、ゆっくりと顔から手を外した。
宝石の様に真っ赤な瞳が、どこか潤っている気がした。


「──私も、『魔王』くらい人間に関して無知ならよかった。
それなら、きっと容赦なく“邪魔者”として転生者達を攻撃できたんだろうから」

「⋯⋯⋯⋯。」

「私は、人間が好きだ。
この星に生まれて随分と長い時間が経ったけど、あんなに興味深い存在は他に無いよ。それぞれ文化や、物事の考え方、言葉、生き方⋯⋯。多種多様な彼らは、遠目に眺めているだけで心惹かれる。⋯⋯私はね、人間が大好きなんだよ」


星空に手を伸ばす幼女は、笑み浮かべて俺に言った。
ただその表情には、どこか悲観的な⋯『どうしようもなさ』を訴えるものがあった。


「──俺はただのサラリーマンだったし、世界がどうこうとかは正直よく分かってない所がある。⋯⋯が、」

「が⋯?」

「やるべき事は、。⋯歩くぞ、幼女」

「⋯フフッ。流石、私が見込んだ男♪」


焚き火に水を掛け、俺は立ち上がる。
釣られるように、幼女の足音が後ろから着いてきた。
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