82 / 114
1章【真実編】
第81話・二人旅
しおりを挟む「⋯⋯⋯⋯。」
俺は、しばらく黙っていた。
幼女の話を聞くに、どうやらただ事では無いようだ。
まぁ簡単にまとめてみると⋯
①俺を転生させた老人は『オーガ』という偽の神で、この世界を滅ぼそうとしている。 ⋯が、『魔王』とこの幼女がいる事で拮抗状態になっている。
②俺の転生してからの行動は、全て幼女が仕組んだもの。
俺を成長させ強くする事で、オーガを倒させようとしている。
③オーガは、俺にしか倒せない。
他にも転生者はいるらしいが、彼らはオーガの支配下にあり、仮に歯向かうと殺される。
⋯と、こんな感じか。
「──まぁ、全てが終わったら、私の事はどうしたっていいからさ。オーガを倒すまで、協力してくれないかな⋯?」
「分かった、やる」
「⋯⋯えっ?」
これは、即答だな。
うむ。初めて会った時から、オーガに関してどこか気掛かりな点があったし。今までのモヤモヤが、オーガが『敵』だったからなのだと分かれば十分だ。やるぜやるぜ。
「⋯もう少し、真剣に考え欲しいな。いや、そりゃあ私達について欲しいのはあるけど、君自身の意思も──」
「勿論、俺の意思だ」
「⋯やけに即答だね。初めからオーガと戦う気だったみたいな⋯⋯」
流石に即答すぎたのか、幼女がポカンとしている。
まぁ、どうしてここまでスパッと返答できたのは、自分でも謎だが⋯。幼女の言う通り、オーガとは『初めから戦う気』だったのかもしれないな。
「──それで、どこに向かってるんだ?」
「え?⋯あぁ、本当に私達についてくれる気なんだね?」
「おうよ。オーガが世界を滅ぼそうってんなら、戦わない理由が無いしな。俺、この世界好きだし」
「⋯ふふ、そっか。嬉しいよ」
優しく頬を緩ませ、幼女は頷く。
少しだけ顔を逸らした彼女は、『ありがとう』と一言呟いた。
心做しか、飛行速度が上がった気がした。
「──さて、どこに向かっているかと聞いたね?」
「あぁ。⋯まぁ大体検討は着いているが」
「ふぅん?じゃ、聞かせてもらおうかな♪」
「『魔王』んトコだろ?さっき話の内容的に、君は随分と弱っているらしいし。多分、匿ってもらっているじゃないか?」
「お~!大正解!」
パチパチと手を叩き、オーバーなリアクションを見せる幼女。
⋯いやはや。そうして子どもらしい仕草をしている瞬間は、とっても可愛らしいんだがなぁ⋯。
なんというか、見た目に似合わない存在感をは放っているし、勝手に身体が緊張してしまうぜ。
「──一応聞くが、その『魔王』ってのはどんな奴なんだ?」
「ん~⋯一言でいうなら、『気さく』ってトコかなぁ」
「『気さく』ねぇ。⋯でも、そんな『魔の王』なんて肩書きがあるなら、物騒な面もあるじゃ?」
「まぁ、否定は出来ないね。ただ、彼は──」
その時、幼女が飛行速度を急激に落とす。
ほぼ垂直に⋯というか、落下する勢いで地上に着地した俺は、彼女に引っ張られる様に茂みに入った。
「⋯なにか」
「シッ!静かにしてて⋯」
質問しようとした俺の口に、幼女が人差し指を当てる。
何かを警戒している様子だが、周囲に異変は見られなかった。
まぁ少なくとも、『俺の魔力感知内には』という前置きがあるワケだが。
「ふぅ。怖い怖い⋯」
「なんか居たのか?」
「うん。オーガが寄越した連中が、10kmぐらい向こうにね」
じゅ、じゅっきろ⋯?聞き間違いか?
いや待て。そもそもこの幼女は、『世界、簡単に壊せるやで』みたいな事言ってたし、相当な力を持っているハズだ。
そのくらいの芸当、出来て当然と考えるべきだろう。
「──う~ん、困った。ちょっとやらかしちゃった」
「⋯その話、聞かない方がいいか?」
「いや、まぁ⋯⋯その方が有難いケド」
「よし。聞かせろ」
「ひえん」
渋々、といった様子で幼女は話を始める。
どうやら、俺を回収する為にスッ飛んで来たせいで、オーガの手下に勘づかれたらしい。
うむ、酷いミスだ。
どんだけの間、幼女とオーガが戦っていたのかは知らないが、やっと決着の鍵を見つけたからって横着するのは良くないな。
⋯と、言ってやりたい所だが。
1つ、大きな疑問が生まれたぞ。
「自分で言うのもなんだが、そんなに俺が大事なら、転生したその日に保護しちまえばよかったんじゃないか?」
「⋯いや、それも考えたんだけどね。君は何も知らなかったし、いきなり色々背負わせちゃうのは嫌だったから⋯⋯」
「オーガは、世界を滅ぼそうってんだろ?そんな遊ばせてる時間なんて──。⋯ハァ。やれやれ、優しいんだな」
「う⋯ん、えへへ」
幼女は、鼻下を人差し指で擦る。
申し訳なさと照れが交わったその表情は、自然と俺の右手を動かしていた。
「え?」
「スマン、手が勝手に」
無意識に動かした手は、幼女の頭を撫でる。
リアクションに困った様子の幼女は、ただ静かに俯いた。
「⋯『子ども扱いしないで』、か?」
「ふふ。分かっているなら──」
「じゃ、やめる」
「あ!待って、やだ」
手を離そうとすると、幼女は俺の手に自身の手を被せる。
全く。実際は何歳なのかは知らないが、随分と母性を擽られる性格をしているものだ。
⋯⋯⋯⋯。
うん⋯?なんで、俺は『実際は何歳なのか』⋯いや、『自身より長生きしている』と思ったんだ?見た目は完全に幼女だし、俺が彼女の年齢に疑問を持つなら、別の観点からになる様な⋯
⋯まぁ、今はいいか。
「──ところで、1つ聞いてもいいか?」
「うん?なぁに?」
「さっき、『事情が変わった』って言ってたよな?⋯で、だから俺を急いで回収しに来たと」
「あ~そうそう。⋯本当はさ、後5年間くらいは君には自由を謳歌して欲しかったんだけど⋯⋯」
「けど?」
「君がさっき使っていた力⋯。あの『炎を纏った姿』が、少し⋯いやまぁ、大問題なんだ。聞かせてくれる?」
「【炎装】の事か?⋯そうだな、どっから話すべきか⋯⋯」
俺は、順を追って幼女に説明した。
テュラングルの角を喰った話から始まり、口から火が出る症状に悩まされた事、そして時間を掛けて【炎装】を開発した事。
話を終えると、幼女はしばらく黙り込んでいた。
少々不機嫌そうにも見えたが、それ以上に驚愕の視線を俺へ向けていた。
「テュラングル⋯。あのコには、後でお説教が必要だね」
「えぇ?アイツめっちゃ強いけど、叱れるモンなのか?」
「私のが強いから」
サラッと、当然の様に幼女は言い放った。
俺の中では、未だに強いヤツなのにショックだ。⋯というか、『力を奪われたー』とか言ってテュラングルより強いなんて、どんだけバケモンなんだよ。
やべぇ、急に実感が湧いてきたぞ。
下手に怒らせるのはマズいかも知れねえ。
「まぁ、それはいいよ。結果オーライだしね」
「そうかのか?ちょっと、説明が欲しいんだが⋯⋯」
「ん、おっけい。また長話になるから、歩きながら話そっか」
「⋯歩く?また飛ばないのか?」
「──いや。オーガに勘づかれた場合、私が貴方を護り切れる保証が無い。だから、これ以上のリスクは犯せないんだ。⋯ごめんね、私の都合に合わせて」
「事情があるならいいさ。ぶっちゃけ、空はもう腹一杯だったしな」
俺がそう言うと、幼女は笑ってくれた。
やはり、こうして見ると幼げがあって──実際に幼いんだが──可愛らしい。
「まぁ何はともあれ。これからよろしくな。えーっと⋯」
「ん?あぁ、自己紹介がまだだったね。私の名前は【星廻龍】⋯⋯と言っても、そう呼ばれているってたげなんだけど。なんでも、『星』を『廻』している『龍』なんだって」
「へぇ。いい名前だな。俺なんて『銀槍竜』だぜ?」
「いいじゃない。『燗筒 紅志』って本名があるんだから」
「おぉ、知っているんだな」
「そりゃあね。【星廻龍・アルノヴィア】よりカッコイイ♪」
は?なんだ響きの良い名前は。
なんたる差別だ。いつか、ギルバートに抗議してやる。
「──知り合いには『アリアちゃん』って呼ばれたりもしてるけど、まぁ、君の好きに呼んでよ」
「じゃあ、『幼女』でいいな」
「え!他にもあるんじゃない⋯?」
「ナイナイ。さっさと魔王んとこに向かうぞ、幼女~」
『ねぇねぇ』と周囲を飛び回る幼女をスルーし、俺は歩き始める。こんな事態に巻き込まれているというのに、やけにワクワクが止まらないのは何故だろうか?
⋯あぁ、きっとそうだ。
俺は、今度の人生こそ──⋯
「あぁ、行き先はソッチじゃないよ?アッチアッチ」
「⋯俺の勘は、アッチって言ってたの」
1
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。
飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。
ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。
そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。
しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。
自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。
アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
ごめんみんな先に異世界行ってるよ1年後また会おう
味噌汁食べれる
ファンタジー
主人公佐藤 翔太はクラスみんなより1年も早く異世界に、行ってしまう。みんなよりも1年早く異世界に行ってしまうそして転移場所は、世界樹で最強スキルを実でゲット?スキルを奪いながら最強へ、そして勇者召喚、それは、クラスのみんなだった。クラスのみんなが頑張っているときに、主人公は、自由気ままに生きていく
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる