猛焔滅斬の碧刃龍

ガスト

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1章【真実編】

第81話・二人旅

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「⋯⋯⋯⋯。」


俺は、しばらく黙っていた。
幼女の話を聞くに、どうやらただ事では無いようだ。

まぁ簡単にまとめてみると⋯

①俺を転生させた老人は『オーガ』という偽の神で、この世界を滅ぼそうとしている。 ⋯が、『魔王』とこの幼女がいる事で拮抗状態になっている。

②俺の転生してからの行動は、全て幼女が仕組んだもの。
俺を成長させ強くする事で、オーガを倒させようとしている。

③オーガは、俺にしか倒せない。
他にも転生者はいるらしいが、彼らはオーガの支配下にあり、仮に歯向かうと殺される。

⋯と、こんな感じか。


「──まぁ、全てが終わったら、私の事はどうしたっていいからさ。オーガを倒すまで、協力してくれないかな⋯?」

「分かった、やる」

「⋯⋯えっ?」


これは、即答だな。
うむ。初めて会った時から、オーガに関してどこか気掛かりな点があったし。今までのモヤモヤが、オーガが『敵』だったからなのだと分かれば十分だ。やるぜやるぜ。


「⋯もう少し、真剣に考え欲しいな。いや、そりゃあ私達について欲しいのはあるけど、君自身の意思も──」

「勿論、俺の意思だ」

「⋯やけに即答だね。みたいな⋯⋯」


流石に即答すぎたのか、幼女がポカンとしている。
まぁ、どうしてここまでスパッと返答できたのは、自分でも謎だが⋯。幼女の言う通り、オーガとは『初めから戦う気』だったのかもしれないな。


「──それで、どこに向かってるんだ?」

「え?⋯あぁ、本当に私達についてくれる気なんだね?」

「おうよ。オーガが世界を滅ぼそうってんなら、戦わない理由が無いしな。俺、この世界好きだし」

「⋯ふふ、そっか。嬉しいよ」


優しく頬を緩ませ、幼女は頷く。
少しだけ顔を逸らした彼女は、『ありがとう』と一言呟いた。

心做しか、飛行速度が上がった気がした。


「──さて、どこに向かっているかと聞いたね?」

「あぁ。⋯まぁ大体検討は着いているが」

「ふぅん?じゃ、聞かせてもらおうかな♪」

「『魔王』んトコだろ?さっき話の内容的に、君は随分と弱っているらしいし。多分、匿ってもらっているじゃないか?」

「お~!大正解!」


パチパチと手を叩き、オーバーなリアクションを見せる幼女。
⋯いやはや。そうして子どもらしい仕草をしている瞬間は、とっても可愛らしいんだがなぁ⋯。

なんというか、見た目に似合わない存在感をは放っているし、勝手に身体が緊張してしまうぜ。


「──一応聞くが、その『魔王』ってのはどんな奴なんだ?」

「ん~⋯一言でいうなら、『気さく』ってトコかなぁ」

「『気さく』ねぇ。⋯でも、そんな『魔の王』なんて肩書きがあるなら、物騒な面もあるじゃ?」

「まぁ、否定は出来ないね。ただ、彼は──」


その時、幼女が飛行速度を急激に落とす。
ほぼ垂直に⋯というか、落下する勢いで地上に着地した俺は、彼女に引っ張られる様に茂みに入った。


「⋯なにか」

「シッ!静かにしてて⋯」
 

質問しようとした俺の口に、幼女が人差し指を当てる。
何かを警戒している様子だが、周囲に異変は見られなかった。
まぁ少なくとも、『俺の魔力感知内には』という前置きがあるワケだが。


「ふぅ。怖い怖い⋯」

「なんか居たのか?」

「うん。オーガが寄越した連中が、10kmぐらい向こうにね」


じゅ、じゅっきろ⋯?聞き間違いか?
いや待て。そもそもこの幼女は、『世界、簡単に壊せるやで』みたいな事言ってたし、相当な力を持っているハズだ。

そのくらいの芸当、出来て当然と考えるべきだろう。


「──う~ん、困った。ちょっと

「⋯その話、聞かない方がいいか?」

「いや、まぁ⋯⋯その方が有難いケド」

「よし。聞かせろ」

「ひえん」


渋々、といった様子で幼女は話を始める。
どうやら、俺を回収する為にスッ飛んで来たせいで、オーガの手下に勘づかれたらしい。

うむ、酷いミスだ。
どんだけの間、幼女とオーガが戦っていたのかは知らないが、やっと決着の鍵を見つけたからって横着するのは良くないな。

⋯と、言ってやりたい所だが。
1つ、大きな疑問が生まれたぞ。


「自分で言うのもなんだが、そんなに俺が大事なら、転生したその日に保護しちまえばよかったんじゃないか?」

「⋯いや、それも考えたんだけどね。君は何も知らなかったし、いきなり色々背負わせちゃうのは嫌だったから⋯⋯」

「オーガは、世界を滅ぼそうってんだろ?そんな遊ばせてる時間なんて──。⋯ハァ。やれやれ、優しいんだな」

「う⋯ん、えへへ」


幼女は、鼻下を人差し指で擦る。
申し訳なさと照れが交わったその表情は、自然と俺の右手を動かしていた。


「え?」

「スマン、手が勝手に」


無意識に動かした手は、幼女の頭を撫でる。
リアクションに困った様子の幼女は、ただ静かに俯いた。


「⋯『子ども扱いしないで』、か?」

「ふふ。分かっているなら──」

「じゃ、やめる」

「あ!待って、やだ」


手を離そうとすると、幼女は俺の手に自身の手を被せる。
全く。実際は何歳なのかは知らないが、随分と母性を擽られる性格をしているものだ。

⋯⋯⋯⋯。
うん⋯?なんで、俺は『実際は何歳なのか』⋯いや、『自身より長生きしている』と思ったんだ?見た目は完全に幼女だし、俺が彼女の年齢に疑問を持つなら、別の観点からになる様な⋯

⋯まぁ、今はいいか。


「──ところで、1つ聞いてもいいか?」

「うん?なぁに?」

「さっき、『事情が変わった』って言ってたよな?⋯で、だから俺を急いで回収しに来たと」

「あ~そうそう。⋯本当はさ、後5年間くらいは君には自由を謳歌して欲しかったんだけど⋯⋯」

「けど?」

「君がさっき使っていた力⋯。あの『炎を纏った姿』が、少し⋯いやまぁ、大問題なんだ。聞かせてくれる?」

「【炎装えんそう】の事か?⋯そうだな、どっから話すべきか⋯⋯」


俺は、順を追って幼女に説明した。
テュラングルの角を喰った話から始まり、口から火が出る症状に悩まされた事、そして時間を掛けて【炎装】を開発した事。

話を終えると、幼女はしばらく黙り込んでいた。
少々不機嫌そうにも見えたが、それ以上に驚愕の視線を俺へ向けていた。


「テュラングル⋯。あのコには、後でお説教が必要だね」

「えぇ?アイツめっちゃ強いけど、叱れるモンなのか?」

「私のが強いから」


サラッと、当然の様に幼女は言い放った。
俺の中では、未だに強いヤツなのにショックだ。⋯というか、『力を奪われたー』とか言ってテュラングルより強いなんて、どんだけバケモンなんだよ。

やべぇ、急に実感が湧いてきたぞ。
下手に怒らせるのはマズいかも知れねえ。


「まぁ、それはいいよ。結果オーライだしね」

「そうかのか?ちょっと、説明が欲しいんだが⋯⋯」

「ん、おっけい。また長話になるから、歩きながら話そっか」

「⋯歩く?また飛ばないのか?」

「──いや。オーガに勘づかれた場合、私が貴方を護り切れる保証が無い。だから、これ以上のリスクは犯せないんだ。⋯ごめんね、私の都合に合わせて」

「事情があるならいいさ。ぶっちゃけ、空はもう腹一杯だったしな」


俺がそう言うと、幼女は笑ってくれた。
やはり、こうして見ると幼げがあって──実際に幼いんだが──可愛らしい。


「まぁ何はともあれ。これからよろしくな。えーっと⋯」

「ん?あぁ、自己紹介がまだだったね。私の名前は【星廻龍せいかいりゅう】⋯⋯と言っても、そう呼ばれているってたげなんだけど。なんでも、『星』を『廻』している『龍』なんだって」

「へぇ。いい名前だな。俺なんて『銀槍竜』だぜ?」

「いいじゃない。『燗筒 紅志』って本名があるんだから」

「おぉ、知っているんだな」

「そりゃあね。【星廻龍・アルノヴィア】よりカッコイイ♪」


は?なんだ響きの良い名前は。
なんたる差別だ。いつか、ギルバートに抗議してやる。


「──知り合いには『アリアちゃん』って呼ばれたりもしてるけど、まぁ、君の好きに呼んでよ」

「じゃあ、『幼女』でいいな」

「え!他にもあるんじゃない⋯?」

「ナイナイ。さっさと魔王んとこに向かうぞ、幼女~」


『ねぇねぇ』と周囲を飛び回る幼女をスルーし、俺は歩き始める。こんな事態に巻き込まれているというのに、やけにワクワクが止まらないのは何故だろうか?

⋯あぁ、きっとそうだ。
俺は、今度の人生こそ──⋯








「あぁ、行き先はソッチじゃないよ?アッチアッチ」

「⋯俺の勘は、アッチって言ってたの」
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